小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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平和な昼休みはもう終わり、一人帰路についていた。
今日は美味い昼飯も食ったことだし、晩飯代節約しようかな。
そんなことを考えながら、橋を渡っていると。

む?
前から、何か気配を感じる。
少数の不良だったら、軽くひねりつぶしてやるのだが。
前から感じる気配は数も多ければ、いつもの雑魚というわけでもない。
ちょっとばかし、強い不良でもいんのか?

面倒だが、仕方ない。
今歩いてきた道を引き返そうとすると…

後ろからも同じような気配を感じる。
囲まれたか…
なんだなんだ?今までの奴らの復讐にでも来たってか。
だが、報復なんて面倒を回避するために一瞬で仕留めてきたはずなんだが。

流石に適当な相手へのかつあげには数が多すぎる。
明らかに狙っての行動だってことは分かりきっている。
まあ、ポジティブに食後の運動だとでも思うか。

そう腹をくくる。
そして、だんだんと俺を囲む輪は小さくなっていき、敵の姿が視認できるよ
うになってきた。

だが、その目に飛び込んできたのは、釘バットなんかを持ったひどいセンス
の服をまとった目つきの悪い不良などではなかった。

持っているのは、銃のようなもの。
アクセサリーなどの類はなく、その身は整った軍服?のようなものに包まれ
ており、服装の乱れなんてものは見当たらなかった。
いや、まあ目つきはそんなによろしくないが…

これはもう大変なことになってきたんじゃないか?
だってねぇ、皆さん眼光がぎらついてるもんなー。
しかも、そそがれている先はこの俺一点というね。
もう完全に俺がターゲットなのね、はいはい。

そんな野郎どもの中から一人の女が出てきた。
左目には眼帯。紅い瞳に紅い髪、それは弱い者など軽がる飲み込むような印
象を与える深い紅蓮だった。
服装も他の奴らとは違い、大量にいる同じ軍服の男どもの中で一人だけ突出
しているというか、そんな印象を受けた。
まさに紅一点だな。
…はいはい、面白くない面白くない。


「貴様が流川海斗だな。」

「悪いが、人違いだ。」

「嘘をつくものではない。こちらで調べはついている。」

「じゃあ、聞くなよ。」

「形だけの確認だと、分かりなさい。」


随分と偉そうな態度だな(←自覚なし)
とりあえず、話も通じない奴ではないか。


「見たところ、軍人か何かか?」

「いかにも。私は軍の少尉である、マルギッテ・エーベルバッハだ。ここに
いるのは、誇り高きドイツ軍の我が部隊だ。」

「その誇り高い軍人が一般人に大量の銃を向けてんのは、一体どういう了見
だっての。」

「安心しなさい。それは強力な麻酔銃だ。殺傷能力はない。」

「いや、安心する要素なんて無かったんだが。そうじゃなくて、俺が聞いて
んのは、何の用だってことだよ。」

「貴様、お嬢様に何をした?」

「は?」

「何をとぼけている、貴様の卑劣な行為は今更、隠せるものでもないだろう。」

「いや、待て。色々、なんか誤解もあるようだが、まず、まずはだ。そのお
嬢様っていうのは誰だ?」

「当然、クリスお嬢様のことに決まっている。」

「あん、クリス?あいつって、軍の関係者なのか?」

「クリスお嬢様はドイツ軍中将フランク殿の娘だ。」

「へぇ…で?なんで俺が軍に狙われてるんだよ。」

「お嬢様に手を出しておいて、何故だと?おかしなことを言う。」

「は、もしかして俺がクリスと友達だってだけで、狙われてんのか?」


どんだけ、溺愛してやがんだ、その親父は。


「友達だと?とぼけるのも大概にしろ。あのお嬢様の様子は……チッ。一体、
どんな手を使ったんだ、催眠術の類か?それとも、弱みでも握って脅迫でも
したか?」

「言ってる意味が理解できん。」


もしかして、あの決闘がばれてんのか?
そうだとしたら、娘を敗北させられて、お怒りなのか。
それでこの軍を呼んじゃうわけか。

めっちゃ甘やかされて、育ってきたんだろうな。
薄々感じていた、空気の読めなさにも合点がいった。


「お嬢様から手を引きなさい。そうすれば、酷い目にはあわせない。」

「だから、あっちから話しかけてくるんだっつーの。」

「どうしても拒否するということらしいな。」


全然、俺の言い分、聞いてくれねぇよ。
こりゃ、言うだけ無駄か。


「ならば、体で分かってもらうしかない。」

「おいおい…軍事力を何に割いてやがんだ。」

「構え!」


一斉に無数の銃口が俺に向けられる。
その方向はまさに四方八方、死角なしの全面攻撃だ。
まあ、麻酔銃らしいけどな。
なんにも嬉しくないが。


「この状況でも気持ちは変わらんか。」

「………………」

「だんまりか。よろしい、ならば、その身をもって味わいなさい。…撃て!」


俺は引き金が引かれようというその瞬間、立っていたその場から跳躍した。

連続した射撃音が耳に響く。
無事に一発も当たらなかったようだ。

全方位攻撃といっても、いや全方位攻撃だからこそ、その弾道は予想できる。
囲まれているということは流れ弾が確実に誰かに当たってしまうのだ。
すると、相手の足の方を狙うのが、ベストということになる。
跳弾しないようにする弾なんて、作ろうと思えば作れるだろう。
それに殺傷性はない麻酔銃だって言ってたしな、そもそも跳弾の心配なんて
ないか。

着地すると同時に一番近い軍人に走って向かう。
当然、相手はこちらに撃ってくるが…

今度は弾をしっかりと見ることが出来る。
弾だろうが、パンチだろうが、見えれば大差は無い。
避けるスピードを少しあげれば、いいだけのこと。

俺は最小限の上半身の動きだけで弾をかわすと、その軍人の腹部に当て身を
見舞う。
悪いな、手刀とかスマートなことをしてる余裕はねぇんだ。
そいつから、銃を強奪した。

俺は手にした銃で、一発一発確実に軍人を気絶させていく。
勿論、相手の銃撃には絶対当たらない。
あくまで、避けることの方が優先だ。

てか、強力な麻酔使ってやがんな。
軍人がバタバタ倒れていきやがる。
即効性ありすぎだろ。
さぞ、充実した軍なのだろう。
指揮している奴に問題がありそうだがな。

撃っては避け、避けては撃つ。
あとはその作業の繰り返しだ。
弾数がなくなったら、また他の奴から銃を奪い、また弾数だけの相手を殲滅。
地道だが、確実に。



数分後、俺の周りには遺体のように軍人たちが転がっていた。
いや、俺は何も悪いことしてないからな。
絵面だけ見たら、そりゃ誤解されてもおかしくないけども。

そりゃ、銃を持って、倒れている大量の軍服の中に、立っているんだからな。
想像したら、かっこいいとか思うだろうが、大間違いだぞ。
完璧に大量殺人犯にしか見えないからな。
悪人でしかないわ。

まあ、無傷だし文句はないか。
後半は作業だったな、なんか前やったゲームのようだった。


「とりあえず、ステージクリアってことで。」


そう呟いて、肩の力を抜く。


「……フフ」


だが、ゲームは終わらない。
海斗は第二ステージに行かなければならないのだった。

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