小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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クリスを存分にからかって、登校した後のこと。
教室ではHRが開かれていた。


「そういえば、2−Sに転校生が来たらしい。」

「たぶんマルさんのことだな。」


クリスがそんなことを言う。

“マル”さん?
なんか、クリス関係でそんな名前の奴をつい最近、具体的には昨日あたりに
聞いた気がするんだが…
マルギッテ・バッフェルベルカノンみたいな名前だったっけか。
あれ?なんか名曲っぽくなってしまった。
いや、これでも前半は結構自信があるんだが。


「それはそれとして、今年の体育祭は水上体育祭に決まったぞ。」


教師がそんなことを言う。

水上?何、水の上でも走っちゃうの。
伊賀なの?甲賀なの?
そんな超人同士の競技はお断りなんだが。


「「「いいいやっっっほおおおおおおおおおう!!!」」」


突如、教室に大爆音が響き渡った。
主に発生源は男子どもの口からなのだが…


「女子の水着だぁぁぁぁぁぁ!」

「学園長のじーさん、グッジョブ。」


はー、なんとなく理解したぞ。
水上体育祭とは水辺で行われる体育祭というだけらしい。
まあ、おそらくはプールや海ってところか。
それにより、女子の水着が見れると思った男子のテンションが急上昇と。
なんという単純思考回路…

んで、女子どもの反応はというと…


「まあ、暑いしちょうどいいんじゃない。」

「そうだねー。」


こちらも好評らしい。
まあ、男子の不純な動機と一緒にするのもどうかと思うが。

そして、何気なく一子のほうを見てみると…

んなっ!
なんか物凄く負のオーラを放っている。
誰に聞いても、今の一子を見て、気分が浮かれているなんて言わないだろう。
むしろ、逆も逆、落ちるところまで落ちているようだ。
うーむ、こういう運動系の行事は好きだと思ったんだがな。


Side 一子


運動会、体育祭、他にも色々言い方があるのかもしれない。
ともあれ、アタシはそんな運動のイベントが大好きだ。
その競技の種類による区別なんてない。
陸上競技、球技、水泳、どんな種目も等しく好きだ。

いや、今となっては好き“だった”。
決して嫌いになったわけではないんだけど。
今年から、気が乗らない種目が増えてしまった。
いや正確には、“海斗に恋をしてから”。

それまでは体を動かせれば、満足だった。
だけど、前にも思った。
恋をすると、見える世界が変わる。
それは当然、自分の意識が変わってるってことで。

今まで人に見られる姿なんて、気にしていなかった。
水着だって、泳ぐためのユニフォームであり、それ以上でもそれ以下でもな
かった。

でも、今は違う。
自分が見られると意識してしまう人がいる。
見て欲しい人がいる。

運動しやすくて、不自由に思ったことなんてなかったけど、今はこの身体が
恨めしい。
学校指定の水着なんて絶対に身体のラインがでちゃうわよね。
京とかは胸大きいし、うらやましい。
はぁ〜、憂鬱だわ。

…今日から豆乳でも飲もうかしら。


Side out


「場所は勿論、海で行うぞ。」


それにしても、スポーツ大会ねぇ。
海でやる競技って言ったら、やっぱ水泳とかか。
あとは、ビーチバレーにビーチフラッグ、…スイカ割りとか?
いや、とりあえず水につかろうか、海に入ろうか。
ったく、海なんて行ったことない奴の想像なんてこんなもんだぜ。

一応、聞いとくか。
何も知らないで行くより、遥かに良いだろう。
かといって、クリスも転校してきたばかりだしな。
やっぱり、あのいかにも精神不安定な一子に聞くしかないか。


「おーい、大丈夫か。一子。」

「胸……」


ムネ?
よく分からんが、なんか旅に出ちゃってるようだ。
帰って来てもらわんと。


「一子、もどってこーい。」


そう言って、ノーガードの頬を人差し指でつつく。
む、なかなかの柔らかさである。


「わっ!」


どうやら気づいてくれたらしい。
だが、この柔らかさはなんというか、癖になる。
やめられない、止まらない。


「海斗、海斗!も、もう気づいてるから。ねぇ」

「うむ、分かってる。」


ふにふにといじくってみる。
その度にいちいち“ひぁっ”とか反応するので、ますます面白い。
表情も随時更新される、なんか可愛いな。


「わ、分かってるなら、そのほっぺの指を…」

(あ、でも、これって海斗に触れてもらってるんだよね。それなら、このま
まの方が幸せかも…。)


あれ、なんか顔が赤くなりだした。

あ、そういや、俺、体育祭のこと聞きに来たんだった。
夢中になって、すっかり忘れてたぜ。
本来の目的に戻るため、指を離す。


「あ……」

「あ?」

「い、いや、何でもない。何でもないの。」

「ならいいが、ちょっと一子に体育祭の種目を聞きたくてな。」

「えーっと、それはちょっと分かんないわ。」

「ん?どうしてだ。」

「それがこの学園って何やるかなんて、ほとんどその年によって、違うから
参考になるようなものがないのよ。」

「まあ、確かにあの学園長はそんな感じだよな。」

「一応、水中玉いれとか、そんなのがあったみたいだけど、今年もあるかは
分からないわ。」

「結局は、あいつの気分次第ってことだな。はぁ……」


まあ、いいか。
ぶっつけ本番でも、自由にやらせてもらうことにすっか。


「か、海斗!」

「ん、どうした?」

「あ、あのね…、海斗は大きいのと小さいのどっちが好き?」


いきなり意味不明な質問をされた。
大きい?小さい?
え、動物の話か?
俺は基本チワワから、セントバーナードまで何でも愛せるが…
どっちって言われてもなぁ。


「俺は特に大きさとかは気にしないな。サイズとかよりも、もっとそいつ自
身の魅力とかの方が重要だと思うぞ。」

「そっか…、そうなんだ。」


そう言った一子の表情は下を向いていて見ることが出来なかった。
ただ、何故かその言葉からは嬉しさが表れていた。
なんか、俺、そんな喜ばすようなこと言ったっけか。


見事に噛み合っていないのに会話が成立している二人だった。
よもや、自分の胸のことをチワワとされているなんて、一子は思ってもいな
いことだろう。
ともあれ、これで一子が元気になったことは言うまでもない。

―水上体育祭
2−Fだけじゃなく、全校にその開催を伝えられた。
海でのこのイベントがまた何を引き起こすのだろうか。
まさに“波乱”の予感である。

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真剣で私に恋しなさい! Original Sound Track ~真剣演舞~
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