小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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ここは一年教室。
一年の教師陣はなにか大切な会議とかで席を外している。
所謂、自習という状態だ。

今ここで一大イベントが開かれていた。
それは…


「皆さん良いですね。反対はないですか?」


その場にいる女子生徒が頷く。


「では、ここに“流川海斗先輩ファンクラブ”を設立します!」


わーわー
パチパチパチパチ

その一帯は拍手や歓声で異様な盛り上がりを見せていた。
所詮、自習などこんなものだ。
真面目に勉強をしている方が少数派である。

そして、ここにもその話に興味津々な少女が二人。
黛由紀江と大和田伊予である。


「まゆっちは行かなくていいの?」

「い、いえ、私はその…」

「おいおい〜。それは愚問だぜぇ、まゆっちは海斗公認の友だちなんだから
なー、焦る必要はないのさ。」

「あー、そっか。いいなぁ、まゆっち。」

「いや、違うんです!こら、松風何を言っているんですか。私はですね、そ
のあんな楽しそうなグループに私なんかが参加してもいいのかなと…」


本当に変なところで遠慮がちな少女である。
とらえ方によっては謙虚という日本人の美徳でもあるが…
この少女はそのせいで友だちが出来ないのに気づいていない。


「なら、私と一緒に行こうよ。まゆっち。」

「え?」

「別にまゆっちに気を遣ってるわけじゃないよ。私も流川先輩に助けてもら
って感謝してるっていうか、入りたいなーって思ったから、まゆっちも入ら
ない?って誘ってるだけ。」

「伊予ちゃん…」


そう、かつて伊予も海斗に不良から助けられた。

自分のピンチに颯爽と現れて、助けてくれた男の人に好意を抱いてしまうの
は、これはもう女の子としては仕方がないことだろう。
勿論、伊予も例外ではなかった。
だが、それを感謝の気持ちだと友だちの前でごまかしてしまうのも、やはり
女の子ゆえだろうか。


「いや、やっぱり興味あったら、形から入らないとね。野球だって、まずは
試合を見に行かないと始まらないし!」

「そうですね、行ってみましょうか。」


そうして二人の恋する少女もまた、その集まりに加わったのだった。


「えー、流川海斗先輩ファンクラブとは、ご存知川神学園2−Fに在籍して
いる流川海斗先輩に対して、憧れ、好意、思慕、どんな感情からでも構いま
せん、先輩に興味がある、先輩を見ていたい、先輩のことを応援したい、ひ
いては先輩に恋をしている人でも歓迎の、自由度が高い団体です。」

「お互いにそういう個人の目的に突っ込んだり、咎めたりなどということは
せずに流川先輩のことを思うという共通の目的を持った仲間として、情報な
どを共有していこうといったり、先輩のことを話し合える人との交流の場と
いうのが、このファンクラブの主な存在意義となるでしょう。」

「ちなみに、さっき自由度が高いと言いましたが、普通のファンクラブとは
異なり、会員番号などといった序列は全くありません。新しく入った人と作
られた当初からいる人の間にも、差はないです。」

「勿論、本人に迷惑をかけたりする行為は禁止となります。盗撮やストーカ
ーなどに準ずる行為は言語道断です。イベントごとでもないときは写真を撮
るときは許可をとるのが望ましいです。」

「今言った、最低限の決まりを守っていれば、流川先輩を食事に誘ったり、
手紙を送るのは自由です。抜け駆け禁止なんていうことは一切ないので。」


委員長のような人がすらすらと読み上げていく。
昨日今日で計画されたことではないことが明らかである。


「なんか、思ったよりもすっごいしっかりした感じだね。」

「はい…、それにも関わらず、とても柔軟で不満も出にくいと思います。」


由紀江の言うとおり、周りの女子たちも黙って、頷いており、反対意見など
は1つとして、出ることはなかった。


「では、皆さんよろしくお願いします。」


そう言って、説明は締めくくられた。

すると、集まっていた女子生徒が早速話し始めていた。


「あ〜、流川先輩ってほんとにかっこいいなぁ。」

「ていうか、なんか年上オーラが出てるって感じ。頼りがいありそうだし。」

「それにタッグマッチとか川神戦役でも見たけど、あの強さでしょ。」

「前に不良から女生徒を守ったなんてのも流れてたもんね。」

「私も守ってもらいたいなぁ。」


「あと、あの川神戦役のときの料理!」

「あんな感じなのに、家庭的な一面もあるとか、ギャップで反則だよね〜。」

「料理部の人の話だと本当に美味しかったらしいよ。」

「一回でいいから、食べてみたいよね。」


「それにもうすぐ体育祭だし。」

「また流川先輩の活躍する姿が見られるのかな?」

「先輩泳ぎも得意なんだろうなー、もうスポーツ万能って感じ。」

「それに水着姿ってことだよね。」

「これは新聞部とかに期待しないと、しっかり良い写真を撮って欲しいね。」


というように次々と海斗についての会話が行われていたのだが…

二人の少女はなかなか輪の中に入っていけなかった。
守ってもらった少女と料理を教えた少女の二人は。


こんな感じで一年生での海斗の人気は凄まじかった。
だが、それも全員というわけではない。
良く思っていない者も当然いたのだ。
そんな少女の代表がここに一人…


Side 小杉


今、1年生の話題は一人の男に持っていかれていた。
どこを歩いていても、“流川海斗”“流川海斗”と、同じ単語ばかりが耳に
入ってくる。
聞けば、エリートクラスでもないというあの男。
そいつがプレミアムな私よりも目立つなんて我慢ならない。
せっかく、一年生を制圧したっていうのに、話題にもあがらないなんて、こ
れほどまでに腹立たしいことはない。

確かに川神戦役を見ていて、ある程度出来るのは認めよう。
弓矢も一発で命中させてしまうし、正直あれは見事だった。
だけど、所詮は凡人が集まるクラスの中で頭ひとつ出ているというだけの話。
プレミアムな私が劣る存在ではない。

しかし、この人気。
人を惹きつける能力があることも認めざるをえないだろう。
だけど、それはもう逆に好都合だ。
プラスに考えれば、それだけの人気者より上だということが証明できれば、
これほど大々的な宣伝方法はない。
相手の地位を落とすだけでなく、自分に人気が流れ込む可能性だってあるし。
まさにプレミアムな作戦ね。

だけど、正面から当たるには少し危険だわ。
作戦を立てないと…


Side out


色々な意味で一年の話題を独占の海斗だった。

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