小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「はぁ〜、金がない。とにかく、金がない。」


もう思ってるだけにとどまらず、とうとう口に出てしまった。
そうなのだ、この俺、流川海斗は絶賛金欠中である。
誰に絶賛されてんねん。

“お金がなくても、僕の君を思う気持ちは誰にも負けないよ”

“お金よりも大切なものってあるだろ?もっと幸せに生きようぜ”

とか言っている奴らに一言物申したい。
金って結構大切だぞ。
そりゃ綺麗ごとを言ってしまえば、“お金じゃ買えないものがある”とか、
言ってるよ、言ってるけども、その後に“買えるものはマ○ターカードで”
って言っちゃってるからね、あれ。
否定の後の肯定だよ、後半の文を強調するという対比表現だよ。
意見を述べるときに説得力が出ちゃうやつじゃん。

結局のところ、世の中、マスターカ…じゃなかった。
世の中、金だよ
いや、悪人みたいなこと言ってるけど、マジマジ、真剣な話。
素敵なレストランでのデートでも、幸せな家庭を築くための新築マンション
だってな、有料なんだよ。
愛なんかじゃ、いくらあっても、買えないわけ、お分かり?

その他、自分の将来の夢を叶えるための勉強、大切な命を救うための治療、
エトセトラエトセトラ。
要するに金がなくては、物事まわらんのだよ。
夢がない話だなーって思うけども、その夢もお金で買ってるわけだからね。
もうわけわからんね。


いや、そんな大切な金が足りなくなっているのは大問題なわけだよ。
それもこれも全てはこいつのせいなんだがな…

“勤労にゃんこ”

噂の勤労○○シリーズの2ndエディションだ。
第一弾の“勤労わんこ”の大好評につき、さらに新コスチュームも追加で、
種類を増やして帰って来た今回のこれ。

第一弾は存在すら知らなかったのだが、試しにひとつと買ってしまったのだ
が、それが失敗だった。悲劇の始まりだったのだ。





食品玩具、いわゆる食玩の一種なのだが、もはや立場が逆転して、メインで
ある小さいラムネの方が付属品と化している典型的な現代のお菓子。
なんか、グッズだけ取って、お菓子を捨てる子どもまでいるらしい、勿論、
俺はそんなことはしないがな。
まあ、そんなことは言いつつも、俺も中に入っているマスコット目当てで買
っているのだが…

そして、箱を開けると、中から敬礼をしているにゃんこが出てきた
よく見たことある制服をまとって、これは“警察官”か?

ていうか、待て。
落ち着け、冷静になれ、皆の衆、殿中でござる(←お前が落ち着け)
このつぶらな瞳。
ちょうどよいデフォルメ具合。
チャーミングなひげ。
帽子におさまりきらず、はみだした耳。
なんだ、この可愛さは。犯罪か、警察官が罪を犯していいのか。
まあ、俺がもう捕まえてしまったがな!はっはっは!(←誰か止めろ)

あまりの愛嬌に悶えてしまって、周りから冷ややかな視線をあびせられたの
は、言うまでもない。





いや、まあその1個を買ったがために、ものの見事にはまってしまい、金の
浪費につながったというわけだ。
というか、ボリュームアップだかなんだか知らないが、種類が多すぎるんっ
だっつーの。
集めても集めてもきりがないっての。


「はぁ〜」


そりゃ溜息も出るさ。
まあ、過ぎたことを気にしたところでどうにもならん。
現在の問題は俺のこの寂しい財布だ。
だけど、短期のバイトなんて、そんな簡単に見つからんしなー。
さて、どうしたもんかね。


「おい、今日も行くか?」

「また、儲けようってか?いいね。」


あん?儲けるだと?
二人の男子生徒が前を歩いていく。
どうやら、金が手に入るところに向かうらしい。
一応、見るだけ見てみるか。
そう思い、俺はその二人の後をつけていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
間違った。
後をついていくとそこは1つの教室だった。
全然違うじゃんとか、言うな。自覚あるから。俺も思ったから。

その教室では数人が集まって、何やらやっているようだった。
その固まりの1つに雀卓を囲んでいる集まりがあった。
ああ、理解したぞ。
さっきの儲けられるという話、そして今のこの教室の様子を照合するに、こ
こはいわゆる賭場、もしくはギャンブル場ってことか。
納得、納得。

よし、そうと分かれば、俺もここで一発大儲けするか。
特に得意とかではないが、最初に目に入ったし、麻雀でもやることにしよう。


「おい、俺も参加するぞ。」

「げ、流川…!」

「む、こやつは…」


雀卓には着物を着た少女“不死川心”と、2−Fの軍師“直江大和”が既に
座っていた。
今から、大和は心を負かしてやろうと思っていたのだが、そんなことを海斗
が知るはずもなく…というか、知っていても、気にしないだろうが。
何の遠慮もなしに海斗も位置についた。


「注目をあびて、調子に乗っておる2−Fの山猿か。よい、ならば、こなた
が二匹まとめて、潰してやろう。」

「いや、俺はやめておく。」


唐突にそう言って、大和は席を立つ。
試合自体を放棄するようだ。


「なんじゃ、戦う前から逃げるのか。んほほほ、高貴な此方に恐れをなした
か。山猿は猿らしく尻尾を巻いて、逃げるのがお似合いなのじゃ。」

「どうとでも言っておけ。お前こそ偉そうにしていて、そのやってきた山猿
に負けたりするなよ?」

「此方に限って、ありえない話じゃ。」

(正直、流川とだけは戦うのは避けたい。こいつの思考だけは読めないから
な。京がこいつの目には注意しろって言ってたし、いかさまを見抜かれる可
能性がないってわけでもないからな。不死川に色々と言わせておくのは、多
少むかつくが、ここは様子見に徹しよう。)

「まぁ、俺は結果を見させてもらうさ。」

(こいつなら、勝ちそうな気がするしな。)


「ふーん、ほほぉ。」


俺は麻雀牌を手にとって、眺める。
なんか、今時のって良く出来てんだなー。
昔は紙とかで出来てたっていうし、今のは凄いよな。
よし、特に問題なしっと。


「おい、流川。お前は麻雀上手いんだよな?」

「まあ、役くらいは一通り知ってるつもりだが、やるのは初めてだな。ドキ
ドキワクワクだぜ。」

「は!?待て待て、お前やったことないのか?」

「いや、だからルールは知ってるって。」

「お前、なんでよりにもよって、麻雀やろうと思ったんだよ…」

「目に入ったからとしか、言いようがない。」

「はあ〜〜」


なんか凄い溜息つかれた。
俺そんな悪いことしたか?


(流川海斗、こいつは本当に意味が分からん。)


大和のそんな気持ちなど全く気づきもしない海斗であった。

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