小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「にょほほほ、まさか初心者が此方に挑んでくるとは。流石に猿の考えるこ
とは理解できんわ。大人しく今から負けを認めて、謝罪しておくことをお薦
めするがの。どうじゃ?此方は別に構わんぞ。」

「んぁー、いいからいいから。早くやろうぜ。ま、それだけ言っておいて、
初心者の俺に負けたら、面目丸つぶれだな。頑張れよ。」

「く、なんじゃその態度は!ならよい、徹底的に敗北を味あわせてやるのじ
ゃ。今から後悔したところでもう遅いわ。」

「おっけ。じゃ、早速やりたいんだけど、1人抜けちゃったから、人数が足
りてないんだよな。どうするか。」


そうなのだ、あのストラップくれた奴が急遽、戦線離脱をしやがったために
雀卓を囲んでいるのは3人となっている。
これでは勝負できないことくらいはルールブックで予習済みだ。


「心配するな。俺が入る。」


そう言って出てきたのは丸坊主のハゲ。
いや、意味が重複してるな。
ともかく、そのハゲ坊主がどうも代わりにするらしい。


「久しぶりだな、流川。」

「え、俺?」


やばい、なんだ、相手は俺のこと知ってんのか?
いや、言われてみれば、初対面ではない気がする。
だが、こんな特徴的な頭だったら、はっきりと覚えているような気がするん
だけどな。


「おい、なんだその反応は。まさか、俺のこと覚えてないとかいうんじゃな
いよな、流石にそれはないよね。一応、知り合いの範囲には入ってると言っ
ていいレベルだと思ってたんだけど!?」

「いや、覚えてるって。あれだろ、あのほら、この前コンビニに夜食買いに
行ったとき弁当コーナーの前にいた…」

「それもはや、他人だよね。知り合いというカテゴリには間違ってもはいら
ないよね、それは。」

「いや、落ち着け。冗談だって。あれか、この前、テレビ番組かなんかで、
“Runner”歌ってたよな、うん。」

「もう、それ頭だけで判断してるだろ。だって、上を向いてるもの。視線が
全てを物語っているからね。もう少しだけ、視野を下に広げてみようか。新
しい世界が見えるから。サングラスなんてかけてないってことを確認できる
から!」

「はあぁぁ」

「何その大きな溜息。え?もしかして、そういうスタンスなの、俺が悪いこ
としてる感じになってるの?“溜息つきたいのは、こっちだよー”的な発言
すら許されないのか?」

「……………チッ。あー、もうあれだろ、教科書で見たことあるわ、お前。」

「おいぃぃぃぃ。舌打ちとか、しっかり聞こえてるからね。何もう、考えた
くないなら、無理に言わなくていいから!もう真面目に考える気ないんだろ、
なんだ、教科書で見たことあるって。遂に断定されたよ。ツッコミの余地す
らなくされたよ。ちなみに言っとくと、教科書載ってないからね。たぶん、
お前が見たのは鑑真とか、正岡子規だから。俺、関係ない!」


いや、俺だって、頑張ったんだ。
だけど、それでも思い出せなかった。
そのうえ、ひねり出した案を否定されるんだぜ。

な?ムカつくだろ?


「ハゲー、かっこわるー♪」

「あ?」


そうして、坊主の後ろに現れた少女。
この白髪少女は確か…


「あー、タッグマッチのとき、戦った女か。」

「いえーい、だいせいかーい。」

「おい、そこまで思い出したら、分かるだろ。頼むから!」

「あー、そういや隣にこんなハゲいたな。」

「やっとか。ったく、なんで俺のときは時間かかったのに、ユキを見たら、
一発で思い出すんだよ。」

「え?言っていいの、それ。」

「お願いします。言わないでください。」


だよな。
良かった、早まらないで。
結構、厳しい言葉を連ねる自信があったからな。
印象が薄いとか、影が薄いとか、髪が薄いとか、記憶に残らないとか…

流石に俺でもそんなことを真正面から言うのには罪悪感がある。
少し楽しそうだなんて、全然これっぽっちも微塵も考えてないから、そこ、
誤解のないように。


「此方を放って、何を馬鹿な見世物をしているのじゃ。ハゲもさっさと席に
着け。」

「だそうだ、ハゲ。さっさと着席しろ。」

「ハゲ〜♪」

「俺、立ち位置的には絶対被害者だと思うんだが…」


こうしてメンバーは揃った。
あとの1人は最初からいた名前も知らない3年生だ。


「じゃ、始めますか。」


ジャラジャラジャラジャラ

麻雀の牌を音を立てて、混ぜる。


「いやー、俺これ一回やってみたかったんだよな。」

「本当にやったことないのか…」


今はなんか全自動で混ぜて、並べてくれる自動卓なんてのもあるらしいが、
やはり、麻雀といえば、これだろう。
こっちの方がなんか良いよな。
皆で勝負してるって、感じだしな。
これは勝負へのモチベーションも変わってくるってなもんだ。
ていうか、自動卓だったら、勝負なんてやらんぞ、俺は。


「こんなもんでいいだろ。ほら、お前も並べてけ。」

「ふーん、山にして並べてくのか。」

「ああ、初めてだったか。ま、そーゆーことだから。ちゃちゃっと、やって
くれや。」

「誰が並べるとかは決まってないのか?」

「あ?こんなもん、誰が並べたって一緒だろ。別に面倒くさいとも思わんが、
好んで並べたがる奴なんかいねぇよ。公式は当然違うだろうが、学校の賭場
なんてこんなもんだぞ。」

「…ふーん」


やはり、実際にやってみないと分からないことは多い。
勉強になるなぁ。


「ほれ、何をしておる。さっさと始めるのじゃ。」

「いや、その前に賭け金の設定しないと。」

「お前、初心者なのに、いきなり金賭けんのか。」

「だって、賭場だろ、ここ。儲けのない勝負やって何の意味があんだよ。」

「ふん、泣いて後悔するのが容易に想像できるがのぅ。」

「どーするよ、初心者もいるし、レートはテンピンくらいにしとくか?」

「いや、ウーピンでいこう。」


瞬間、場の空気が凍った。


「おま…!馬鹿か、それはいくら何でもないだろ。」

「ここまでの阿呆だと、言葉もでんわ。」

「別にいいだろ、こんなのちまちまやるのは性に合わねぇんだよ。損をする
ときも、得をするときも、どうせなら大きく派手にしようぜ。」

「まさに蛮勇と断ずるにふさわしい愚かさじゃ。」

「まあ、お前がいいんなら、いいけどよ…」


そうそう、大人しく聞いといてくれよ。
俺は手早く、金増やしたいんだからな。


Side 大和


流川海斗。
こいつは天才か、馬鹿かの二択だな。
ルール知っているとはいえ、やったことない奴がウーピンなんて、冒険にも
ほどがある。
賭けのことを少しなめてるんじゃないだろうか。
まあ、負ける恐ろしさを知らないからこそ、出来るとも言えるだろう。
こいつもそうなのだろうか。それとも…

だが、この勝負どちらに転がろうと見る価値はありそうだ。
全く根拠はないが、これだけのマイナス要素が目の前に並んでいるのに、こ
いつからは勝ってしまうのではないかと感じさせられる。
それはタッグマッチであんな奇抜な作戦で優勝したからだろうか。
キャップとの勝負でありえないセンスを発揮して、無敵だと思われた俺たち
のリーダーを倒してしまったからだろうか。
分からない、本当に分からない奴だよ。

まあ、お手並み拝見だ。


Side out


「じゃ、ゲームスタートといこうか。」

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