小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

教室に牌を切る音だけが響く。
むー、なかなか揃わんもんだな。


「リーチじゃ。」

「おいおい、マジかよ。」


ん?もうリーチか、早いな。
まあいい、安全牌でやり過ごそうと決めてたしな。
そんな感じで進み、流れるかと思ったのだが…


「ツモじゃ。リーチツモタンヤオドラ2」


運のよろしいことで。
ツモは流石に防げないからな。

だが、あがってもらうのは好都合だ。
俺は着物女の手牌の配置を観察し、記憶しておく。
これは参考資料1だな。


「んじゃ、また混ぜるか。」


そして、牌を混ぜる作業に移る。
やはり、この作業は基本どうでもいいみたいだ。
皆、参加こそしているものの、牌の混ざる様子をじっと見ている奴なんて、
1人もいない。いや、俺を除いてな。

ちょっと試してみるか。
そう思い、俺はちょろっと明らかに自分のテリトリーから外れた相手に近い
牌の入れ替えを行ったりしてみた。
自分的にはわざとあからさまにやったし、何か言われるだろうと思ったのだ
が、ほんとに誰も興味がないようだ。
この分なら、慎重にやれば、気づかれないかもな…。

そして、山を積む作業。
これも本来、一人一人が自分の目の前に山を積んでいくのだが、これまた、
全くやる気が見られない。
試しに他の奴の山を作るのを少し手伝ってみた。
案の定、普通に受け入れて、お咎めはなかった。

というものの、これは若干怪しいな。
ハゲも最初“?”みたいな顔したし。
それに比べて、この着物女は全く警戒していない。
まるでやってもらうのが当然のようにしている、さすが金持ち。
完全にこいつをターゲットにしたほうがいいな。
幸いなことに位置は俺の左。

最後にサイコロだ。
これは流石に介入できるものではないのだが…
まあ、練習でもしとくか。


「へぇ、そのサイコロちょっと貸してくんね?」

「あ?なんでだ。まだお前の親じゃないだろ。」

「いや、サイコロって振ったことねえから、どんな感じか興味あんだよ。」

「お前、サイコロも振ったことないって、どういう人生歩んできたんだ…。
まあいいけどよ、振りたいんならやってみろ。」

「さんきゅ。」


俺はサイコロを受け取る。
重量、硬度、材質、全てを考慮したうえで軽く振ってみる。
机とプラスチックがぶつかる音がする。
今ので“2”か。そして、こっちのは“5”と。
なら、これで。
先の結果を踏まえて、再び振ってみる。
よし、狙い通り。
サイコロの問題もクリアだな。


「へぇ、サイコロって結構軽いんだな。」

「そんな感想言う奴、お前だけだよ。」


そして、二局目。
またもや…


「リーチじゃ。」


着物女がリーチをかける。
そして、当然のように、


「ツモ。リーチツモイッツードラ1」


2回連続あがりか。
あいつとしては、当然思い通りになって、嬉しいことだろう。
だが、これは俺にとっても良かった。
今の手牌、参考資料1と合わせて、こいつの癖は分かった。
こいつは、ピンズ、ソーズ、マンズ、字牌の順で置いてるな。
それが分かっただけで、収穫だ。

―三局目
テンプレのように着物女がリーチしてくるもんだと思ったのだが、


「リーチだ。」


リーチしたのは、ハゲだった。

いや、だが少しおかしい。
この着物女、口角が少し上がっているし、目もなんかそわそわした感じがす
る。いや、本当にかすかなもんだが。
だが、リーチは行わない。
これはそれほど良い役ってことか、下手すりゃ役満。
俺が当てられるなんてことはないが、役満なんて出されて、得点を持ってい
かれるのは非常に面倒くさい。
ならば…


「あ、ロンだ。リーチ一発ピンフだ」


比較的弱いであろう、ハゲのロンをわざとくらう方がいい。
ハゲの手役なんて、牌の動きを見ていれば、大体分かる。

そして、局は進んでいき…


「高貴なるツモ!」

「んー、それロンだ。トイトイ役牌だな。」

「ロン。タンヤオドラ1だ。」


遂にオーラスを迎えた。
俺は結局ハゲのあのロン以外、打撃を受けることはなく、しょぼい役でせこ
せこ稼いだ結果、初期点数より少し下くらいの点数に落ち着いていた。
順位的には三位か。


「ほほほ、やはり此方の圧倒的な勝利は決まっておったのじゃ。やはり、猿
は猿じゃな、劣等種に変わりないわ、にょほほほ。」


さて、やっと親が来たよ。
準備は万端だ、俺は集中力を高める。
結構な量がある麻雀牌。
だが、決して覚えられないほど多いわけではない。
要は難易度VERYHARDの神経衰弱だとでも思えばいい。

そして、適当に混ぜている奴らの目を盗み、着々と進めていく。
いじるのは、着物女のと俺のだけでいい。

そして、サイコロ。
机からの高さはこれで、このくらいの強さで振れば…


「自5だな。」


全ては上手くいった。
表面上は今までやってきた局となんら変わらない配牌。
だが…


ニヤリ

自分の手牌を見て、思わずそうなってしまった。
こればかりは笑みが堪えられない。
あまりに上手くいきすぎだ。
これも散々相手を見下して、勝負をおざなりにしてくれたおかげだよ。
はあ、本当に油断って最高だな。


「何を笑っておるのじゃ、遂に頭でも狂ったか?」

「天和 国士無双 ダブル役満だ。」

「な、なにぃぃぃぃぃぃ!?」


教室中が騒然となった。
周りで観戦していた生徒たちは拍手や驚きの声を上げ、雀卓を囲む当事者た
ちは凍りついたような顔をしている。


「いやー、運が良かったな。俺って実は強運の持ち主なんじゃね。」


まあ、当然のごとく、嘘なわけだが。
俺が狙って配置しただけのこと、サイコロで出す目も狙えば、問題などなか
った。


「じゃ、金はきちんともらうぜ。次があれば、よろしくな。」

「くー、悔しいのじゃ!」

「くそ、魍魎の宴のための重要な資金が…」


よし、搾取完了したところで、おさらばすっか。


「お待ちください。」


教室を出て行こうとすると、呼び止められた。
そこには眼鏡をかけた優男が立っていた。


「先程の戦い、見させていただきましたが、お見事でした。」

「そりゃどうも、運だけどな。で、誰だお前?」

「ああ、すみません。私は葵冬馬と申します、そこにいる準やユキの友達で
すよ。学園内では結構有名だと自負していたのですがね。」


そう言って、ふふっと笑う。
すると、周りの二年女子からきゃーと歓声が漏れる。

こんなのが女子にはもてるのか、分からんな。
まあ、そんなことをもてない奴が言ったところで負け惜しみにしか聞こえん
のだがな、はいはいお疲れさま。
確かに顔は美形?なのか、まあハーフっぽいけどな。
人気があるんだと言われれば、へぇーとなりそうだが…


「それで?その有名めがねが俺に何か用か?」

「おやおや、冷たい反応ですね。」

「暖かく迎える理由はどこにもないと思うが。」

「ふふ、その通りですね。どうです、私と勝負してみませんか、流川君。」


長い休み時間はまだ続く。

-41-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




真剣で私に恋しなさい!S 大判マウスパッド 川神百代
新品 \2000
中古 \
(参考価格:\500)