小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「私と勝負してみませんか、流川君。」


あー、もうさっきの麻雀で十分儲けたしな。
今更、はした金が入ったところで、あまり嬉しくないな。
適当に流すか。


「俺もう結構儲けたから、1万円くらいじゃないとやる気になんねぇんだ。
悪いが、他をあたってくれ。」

「いいですよ。賭け金1万円で勝負しましょう。」


そうそう、素直に諦めてくれ……ん?


「今、なんつった。」

「ですから、勝負しましょうと。1万円を賭けて。」

「え?お前もしかして、出せんの。そんな大金。」

「一応、医者の息子ですので。お金には困りませんよ。」


はぁー、今時の高校生はすげえな。
1万円を軽々出すのか、医者の息子は。
1万円って、お前あれだぞ、う○い棒1000本買えるぞ。
1000本も欲しいと思ったことはないが。

ていうか、今日はラッキーすぎんだろ。
割とさっきの収入でも満足してたのに、このうえ1万円追加か。
また、新しいにゃんこが増えるな…
いや、同じ過ちを繰り返してどうする。
ちょっと贅沢でもするか、ハー○ンダッツとか。


「何の勝負をするんだ?」

「そうですね、時間をかけても仕方ありませんし、これで決めませんか。」


そう言って、めがねが取り出したのは、1つの箱。


「トランプか?」

「そうです。ギャンブルで使われるといえば、カジノでもおなじみのこれで
しょう。何よりシンプルですし。」

「まあ、構わないが。なんだ、ポーカーか、ブラックジャックか?」

「ふふ、それもとても面白そうですが、生憎と時間もありません。どうです、
ここは単純なお遊びで決めませんか?例えば、この一番上のカードを当てる
なんて、どうでしょう?」


確かに単純だとは思うが…


「それって、完全な運じゃねぇのか。」

「たまには、そういうのも面白いと思いまして。それに運も実力のうちと言
うくらいですから。それとも、ただの運に1万円を賭けるのは流石に気がひ
けますか?」

「いや、逆にそれだけで1万円を手に入れられるんなら、こんなに得な話も
ないだろう。」

「ふっ、とても前向きな考え方ですね。分かってるとは思いますが、これは
賭けなんですから、あなたも負けたら1万円を払っていただくんですよ。そ
れだけはくれぐれもお忘れにならないように。」

「心配すんな、大丈夫だ。」


負けなければ、いいだけの話なんだからな。



Side 大和


あーあー、受けちゃったよ。


麻雀で勝ったときは本当に驚いた。
しかも、オーラスでダブル役満なんて、狙ってたとしか思えない、どうにも
出来すぎたシナリオだ。

そう、そんな派手なゴールに辿り着くためには、険しく長い道を走っていか
なければならない。
当然、対戦相手も観客もその姿を見ているわけだ。
いや、対戦相手は少し適当な感じもしていたが、俺はしっかりと観察してい
た、あいつの様子を。
だが、あいつは苦労して走る素振りなんて見せずに、ゴールに到着しやがっ
た。
それは自転車を使ったとか、近道をしたとかそんな次元じゃない。
言うとすれば、瞬間移動。
自分でも馬鹿げた例えだとは思うが、これが一番適切だ。
コースを走ることもなく、歩いていると思ったら、気づいたら既にゴールに
いた、まさしくそんな感じ。

イカサマを使っていたわけでもない。
いや、違うな。
あんな手は小細工をしないと、絶対に来るわけがない。
つまり、俺が見抜けなかっただけのこと。
目を離さなかったにも関わらずだ。

つまり、こいつは狙って、完璧な勝利を収めやがった。
なーにが、“運が良かった”なんだか。
見抜けなかったこちらは文句を言うことすら出来ないな。

今更ながら、キャップが負けたというのも、頷ける。
流川海斗、キャップ以上に異常な男だ。
優れているとは少し違う、“奇才”ってとこか。


だが、そこに絡んできたのは“天才”。
テストで常に1位を取り続ける男、葵冬馬。
流石に一筋縄でいかないことは分かりきっている。

ていうか、普通相手が提案してきたゲームをためらいなくOKするか?
どう考えても、マジックカードとか使ってるだろ。
変なところでぬけてるんだよな。

まあ、始まるからには見させてもらうか。


Side out



「一応、カードが揃ってるか見せてくれ。」

「どうぞ、確認してください。」


カードを見る。
ちゃんとジョーカーを抜いた52枚が入っていた。


「問題ないな。」

「はい、もしぴったり当てなくても、数字が近いほうの勝ちとしましょう。
AとKはつながっているということで。」

「構わない。」

「では、始めましょうか。」

「ああ。」



「うわ、本当に受けちゃったよ。」

「ほんと、トーマ君に勝てるわけないのに。」


周りからそんな声が聞こえてくる。
やれやれ、一発かましとくか。


「おい、めがね。」

「はい?なんでしょう。」

「先に言っておくが、俺はカードに触れることでカードと対話することがで
きる。降参するなら今のうちだぜ。」

「ふふっ、意外にロマンチックなことを言うのですね。」

「信じてないのか?全部当てちまうかもしれないぞ。」

「どうぞ、触ってください。表を見なければ、私は何も言いませんよ。存分
にカードと会話なさってください。」

「は、後悔するなよ。」



「あいつ何言ってんの?」

「頭おかしいんじゃない?」


おい、ひどい言われようだな。
別にファンの対戦相手のアンチになる必要はないだろ。
大人しく好きな奴の応援だけしてろっての。

そうこうしてる間に相手がシャッフルを始めた。
そして、カードの束を俺に差し出し、


「どうぞ、シャッフルしてください。」


俺も何回か適当に切り、机に置く


「では、私は…4あたりにでも。」

「さてと、俺は。」


そう言って、カードの上に手を置く。


「分かった。俺も4だな。」

「流川君、それでは勝負になりませんよ。」

「でも、対話の結果、4なわけだしな。」


めがねがめくると、勿論4だった。


「次から同じものは駄目にしましょうか。」

「それなら、俺から先にやらせてもらうが。」

「それは不公平でしょう。」

「じゃあ、じゃんけんで順番でも決めるか?」

「いえ、遠慮しておきます。」


くそ、じゃんけんだったら、絶対勝てたのにな。
警戒心の強い奴だ。


「まあ、とりあえずやろうぜ。」

「はあ、そうですね。」


だが、言うまでもなく結果は同じ。
二人とも7を宣言し、勿論正解も7だった。


「これじゃあ、埒が明きませんね。」

「なら、上から二枚目のカードを当てるって言うのはどうだ?」

「な…」

(この発言はやはり、マジックカードだということを見抜かれているのでし
ょうか。分かりにくいものを使ったつもりなんですが。そのうえで完全な運
の勝負に持っていくというわけですか。ここで拒否するのも不自然ですし…)

「いいでしょう、それでやりましょう。」


そして、シャッフルされたカードが机の上に置かれる。


(今、一番上にあるカードはK。ならば、一番遠い6あたりでいいでしょう
かね。)

「私は6にします。」

「ふーん、なら俺は…」


そう言って、一番上のカードをどかす。


「何をしているんですか?カードを動かすのは…」

「あ?だって、上のをどかさないと、二枚目にさわれないだろ。」

「だからと言って…」

「お前言ったよな。“表を見なければ、何も言わない”って。俺は触ってる
だけで表は見てないぜ。」

「な!?」

「口出しされるのは、おかしいと思うが。」

(…はめられました。ここで私が無理に不正だと押し通せば、それは裏を見
たら、何の数字か判別できること、つまりマジックカードだということを自
分で言うようなものです。それを見越した上での作戦ですか。確かに彼はた
だ触るだけ、カードと対話をするだけ、そういうことになっているのですか
ら。おかしいところは何もないですね。)


「じゃあ、俺はJで。」


冬馬はめくる前から、分かっている。
二枚目の裏に描かれた模様はしっかりとJを表していた。


「Jだな。俺の勝ちだ。」


キーンコーンカーンコーン

ちょうど試合終了のゴングのように休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
机の上の2万円を取って、海斗は教室を出て行った。

そんななかで冬馬は笑うしかなかった。


「ふふふ、海斗君、面白い人です。」

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