小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「よし、早速犯人を捕まえるぞ。」

「え、犯人分かったんですか?」

「いや、犯人が誰かはこの際問題じゃない。探偵じゃないんだから、証拠を
揃えて、問い詰めるなんてことはしなくていいんだ。」

「といいますと?」

「手紙を読むに相手はグッズ、つまりは私物に手を出しているんだ。だが、
盗られているものはないと。だから、私物をマークして、現行犯で捕まえち
まえばいいのさ。」

「あぁ、でもどうやって、マークするんですか?監視カメラとか?」

「まあ、とにかく全ての自分の私物の場所を教えてくれ。」

「はい、分かりました!」


俺たちは実際に私物のある場所をまわることにした。



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「まず、ここが1年C組、私の教室です。置いてあるのは、体操着とかリコ
ーダーとか、実技教科で使うものですかね。」

「ふむ、席はどこだ。」

「あ、あそこが私の席です。」

「オーケーだ、次にいこう。」



「ここは1年生の下駄箱です。当然、私の靴や上履きがあるんですが、いつ
も上履きは帰る時に持ち帰ってます。」

「出席番号からして、この靴箱で間違いないな?」

「あ、はい。私のはそこです。」

「了解した、次の場所へ案内してくれ。」



「ここは自転車置き場です。私は自転車通学なので、毎日利用させてもらっ
てます。」

「どの自転車だ。」

「そこまで詳しくですか?私のはこれですけど…」

「まあ、必要なことだからな。当然、鍵はかけているよな?」

「はい、勿論です。」

「これで全部か。」

「はい、私の主な私物の場所はもう回ったと思います。」

「じゃあ、ついてこい。」


俺たちは全ての場所を確認して、ある場所に向かった。



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「あの…、流川先輩。」

「ん?なんだ。」

「どうして私は、流川先輩の教室にいるんでしょうか。」


そう、ここは2−F。
俺たちしか、教室にはいず、適当な椅子に腰掛けているというのが、現状だ。


「待機するところがここくらいしか思いつかなかった。」

「いや、私物の場所を見張ってなくていいんですか?」

「だって、俺らがいたら、犯人が現れないだろ。」

「でも、監視カメラとか、仕掛けてる様子もなかったし…」

「まあ、心配するな。確実に捕まえてやるから。」


その言葉を最後に俺は意識を集中する。

探るのは3ヶ所。
1−C教室、下駄箱、駐輪場。
だが、調べるのはそこ一帯ではなく、完全なポイント。
被害者の席、靴箱、自転車、そこだけに集中する。

それらの場所との距離が0になった奴。
つまりは物に触れた奴を探し当てる。
友達でも触れそうなものだが、こんな時間に本人の断りもなく、触っていた
ら、怪しいことには変わりない。

人気が少ないこの時間は犯人にとっては、狙い目だろう。
実際、俺たちが回ったときも、数人とすれ違ったのみだった。
十中八九、来るだろう。

その時であった。

ん?自転車に近づいてきてる奴がいるな。
見回ったときに、少女の自転車は他から離して置いておいた。
だから、隣に他の奴の自転車があるなんてことはない。
それなのに、その気配は迷いなく、そちらに向かっている。

これはかかったか?
そう思考している間にも、その気配が止まることはない。
黒と見ていいだろうな。


「おい。」

「は、はい!」


いきなり、話しかけたから驚いているのか。
だが、今はそんなことを確認している場合ではない。


「今から60秒経ったら、駐輪場に下りてこい。」

「犯人が分かったんですか!?」

「いいから、言われた通りにしろ。俺は先に行ってるから。60秒経ったら
来いよ。」


そうして、俺は教室を飛び出した。
階段を使うのも面倒なので、廊下の窓から飛び降りる。
着地と同時に駐輪場の方向へ走った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「フヒッ、フヒヒ、しめしめ、この時間だから誰もいないぞ!」


自転車置き場には明らかに挙動のおかしい男が徘徊していた。
それはもう、何もしていなくても、通報されそうな気持ち悪さであった。


「伊予ちゃんの自転車はっと。あぁ、ウヒヒ、これこれ!」


その男が一台の自転車の前で立ち止まる。


「このサドルに、あの可愛いお尻が!大事な部分が!ハァハァ。フヒ、たま
らないなぁ、クンクンクン!」


カシャッ


「え!?誰だぁ」

「今時のケータイって便利なんだな。ほら、証拠写真がこんなにバッチリ。」

「人!?見つかった、逃げねーと!」

「だから、証拠があるっつーに。」

「な、速……ぅ」


俺は逃げようとするストーカーの進行方向に回り込み、足払いで地に倒す。
その倒れている途中の男の襟首を掴み、逆に引っ張ることで首をしめる。
当然、言葉は最後まで出なかった。

これで逃げる気力はなくなるだろ。


「お前が犯人で間違いないな。」

「違うんです。愛が溢れて、どうしようもなかったんです。伊予ちゃんと幸
せになりたい一心で…」

「本人は迷惑だって言ってるから、俺がいるんだよ。」

「そ、そんなはずはない!きっと伊予ちゃんだって、僕のことを!」

「これだから、ストーカーは…。まあいい、お前はどうあがこうが職員室で
みっちりしごかれるだろうからな。」

「しょ、職員室だけは勘弁してください。僕もただ愛の被害者に過ぎないん
です。恋がエスカレートしただけなんです、しょうがないでしょう?」

「自分は恋をしただけだから、悪くないってか?」

「そ、そうですよ。恋愛は個人の自由でしょ。」

「ふーん…」


そこで一旦、言葉を区切る。


「ハハハハ、面白いなー、お前。」

「わ、分かってくれましたか。」

「人と真っ直ぐ向き合えない奴に自由に恋愛する資格なんかあるわけねぇだ
ろ。」

「ひぃ……!」


笑っていた表情を変え、冷たく言い放った。
相手も相当びびっているみたいだ。


そうだよな。


“人と真っ直ぐ向き合えない奴に恋愛する資格なんてない”よな…。


そこへ伊予がようやく降りてきた。


「流川先輩、その人が犯人ですか?」

「おう、現行犯で捕まえた。おい、ストーカー、お前なんか言いたいことあ
るんじゃなかったのか。」

「そうだよ、伊予ちゃん!こいつに僕らは相思相愛なんだって、邪魔なんて
されたくないんだって、言ってやってよ!」

「ごめんなさい、私、好きな人いますし。こんな迷惑な行為、もう二度とし
ないでください!」

「う、嘘だよね、伊予ちゃん…。僕らは結ばれる運命じゃないかっ!!今に
なって、僕を裏切るのかい。そんなことしたら、復讐して…」


ガッ


上から、ストーカーの首をおさえつけた。
ギリギリと程よく力を入れる。


「なーんか、お前変なこと言おうとしなかった?あんま、しょうもないこと
ばっか言ってると、喉潰すけど、どうする?」

「ひぃ、ずみません。前言撤回します。もう二度としません。」

「よし、なら職員室行こうか。いいよな?」

「はい、あとは先生たちに任せます。」


とりあえず、依頼達成だな。



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―職員室からの帰り道


「今回もありがとうございました。」

「俺のほうこそ、こんなに食券もらったら、言うことないぜ。」

「くすっ」


報酬をもらった俺と悩みが解決した少女、二人で歩いていた。
決して気まずいなんてことはないのだが…


「あー…、えっとな……」

「はい?なんですか。」

「あのことは誰にも言わねぇから。」

「あのこと?」

「ほら、好きな人がいるとか、どうこうだよ。当然とはいえ、聞いちまった
しな。あ、それとも、ストーカーを諦めさせるための嘘だったか?」

「あ!あれですか。ふふっ。本当にいますよ、好きな人は…」

「そうか…、まあ忘れるのは流石に無理だが、口外はしないから安心しろ。」

(…私の隣にですけどね。)

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