小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「おお、来たネ。」

「俺に何か用か?」

「実はまた依頼が入ってきてネ。君に持ってきたというわけだヨ。」

「ちょっと待て。確かに昨日は受けはしたが、なんで今日も俺のとこに持っ
てくる?他の奴にまわせばいいだろ。」


そうだ、昨日は乗りに乗っていた流れで、仕事をこなしたが、別に食券も若
干少ないとはいえ、少しの間はこれでやりくり出来るだろうし、これ以上、
進んでやる必要はあまりない。
それこそ、昨日競り落とせなかった奴にでもやらせてやればいいだろ。


「それがね、今回の依頼は名指しなんだヨ。流川海斗、君にネ。」


そう言って、指を指される。
一瞬だけ、思考が遅れる。
えーと、つまりはどういうことだ。


「は?そんな依頼があんのか、俺限定ってことだよな。」

「そうだネ。初めてのパターンではあるけれど、別に禁止もしていないし、
今まで前例がなかったってだけだヨ。さて、どうすル?」

本当なら、ここで依頼内容くらいは聞くもんなんだろうが…。
今更、ちまちま稼いでも、しゃーないしな。


「いや、別にいい。そいつには悪いがな。」

「そうカ。非常に残念だネ。上食券100枚という優良物件だったんだけど
ネ。仕方が無い、依頼人には断る旨を伝えておくヨ。」

「おい、今なんつった、100枚って言ったか?」

「言ったヨ。今回、依頼料は上食券100枚の大奮発。」

「100って、百鬼夜行のあの100か?」

「百物語のあの100だヨ。」

「百代の過客の、あの100か!?」

「川神百代の、あの100だネ。」


いや、そいつは知らんが…。
ともかく、そんなビッグな報酬なら、話は別だ。
100枚って、一体何日もつんだよ。
いや待て、それだけあったら、他の奴に売ってもいいな。
割安で売れば、簡単にさばけるだろう。
そうすれば、また勤労にゃんこを……


「よし、とりあえず話を聞こうか。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そして、昼休み。
俺は弓道場に来ていた。


「お前が頼み人ってことでいいのか?」

「はい、私が流川先輩に直接依頼させていただいた、1−S所属の武蔵小杉
といいます。」

「S組か。エリートクラスは奮発するな。」

「どうしても先輩に引き受けていただきたかったものですから。」

「ふーん、それにしても、弓術を見せてほしいだなんてな。普通、弓道部員
が頼むもんなのかね。俺、現役でもなんでもないんだけど。」

「風間先輩との決闘のときに流川先輩の腕は見ました。あんな状況の中で、
一発で的の真ん中を捉えるなんて、見事でした。」

「いや、でも俺の前にやった女子も、一発で当ててたぞ。」

「あー…、流川先輩は知らないかもしれないですが、椎名先輩は弓矢やって
ますから。しかも、その腕はかなりのものです。」

「なら、尚更そいつに教えてもらった方がいい気もするがな。」

「それじゃあ、意味が……ゲフンゲフン。じゃなくて、それは無理なんです
よ。確かに椎名先輩は弓道部に所属していますが、幽霊部員気味で、とても
教われるような状況じゃないんですよ。」

「はあ。まぁ、100枚もくれるっていうなら、文句無く、やるけどな。」

「そうですか!ありがとうございます。」


ざわざわ ざわざわ


「それでさっきから思ってたんだが…」

「な、なんでしょうか。」

「なんかギャラリーが多すぎないか。」

「いや〜、流川先輩が見れるなんて噂でも流れたんでしょうかねー。検討も
つきませんねー。」

「まあ、いいけどさ。」



Side 小杉


なんとか作戦の第一段階は成功したわ。
プレミアムに上食券100枚も用意したんだから、釣れてくれないと困るん
だけど。

ともあれ、順調にここまで運ぶことが出来たわ。
1年生全体に噂を流し、弓道場に集めるのも完璧。
そして、この男がこの大勢の前で弓矢を射るのだ。

そんなことをして、成功されたら、もっと人気を上げることになるだろう。
だけど、そんなことは起こりえない。
この男は自分を応援してる数多くのファンの前で失敗をするのだ。
そして、恥を晒した結果、1年生の話題から消えていく。

あの先日の戦いを見る限り、この男、弓道に関しては素人だ。
“小さい頃にやったことある”とかなんとか、言っていたが、あれはただの
ハッタリだろう。
どんなに弓道を極めている人でも、的も見ずに矢を放つなんて、邪道もいい
ところね。
それだけならまだしも、弓を構える前から、目をつぶっているなんていうの
は、どう考えてもおかしい。
つまり、あの時当たったのは偶然か勘でしかない。

もう一度やれ、と言われれば、成功は出来ないだろう。
それでも、成功する可能性がないわけではない。
あの時のことを感覚的に覚えているなんてことがあっては、たまらない。
チャンスは1度だけなのだから。

だから、念には念をと、矢に細工をしておいた。
あの時、使った矢とは、材質も重量も長さも、何もかもが違う。
そのうえ、削ったりして、重心をめちゃくちゃにしておいた。
自分で言うのもなんだが、矢と言えるのかすら怪しい、まさに形だけのもの
となっている。

この矢を使って、素人が的の真ん中に当てられるわけがない。
というか、弓道の上手い人でも無理な気がするわ。
こいつの失敗は確定したも同然。
そして、その後に私が普通の矢を使って、華麗に真ん中を打ち抜く。
それを見ていた1年生は当然、この男より私の方が凄いと理解する。
話題の中心は流川海斗から、そのまま私に。

完璧なシナリオね。
うーん、我ながらプレミアムな作戦だわ。

早くその時が来ないかしら。


Side out



「じゃ、とりあえずやりますか。」


俺はそこら辺の弓矢を使おうとする。


「あ、先輩!この弓矢を使ってください!」

「ん、別にいいけど、どれ使っても同じだろ。」

「それが貸し出し用の物なんです。」

「へいへい。」


ちゃっちゃと済ませようと弓矢を構えるが…

ん?なんかこの矢おかしくないか。
持った感覚が違うような気が…。
気のせいか?


「おい、この弓矢…」

「さあ!流川先輩、打ち抜いちゃってください!」

「いや、だか…」

「どうぞ、見せてください!その技を!」


なんか、勝手に盛り上がっていて、聞ける状態じゃないな。
しょうがない、これでやるしかなさそうだ。


的をしっかりと見据える。
あの時の感覚を思い出す。
そして、射抜く!


次の瞬間、


「きゃああああああぁぁぁぁ」


矢はしっかりと的の中心を捉えていた。


「な!?どうして……」


少し矢の質が、川神戦役のときと異なったが、基本一度その経験があれば、
いくらでも応用は可能だ。
経験に基づき、重量など、異なった条件を方程式を解くように代入していけ
ばいいだけのことだ。
あの重さではこの高度だから、この重さではもう少し上ってな具合にな。

やっぱ、一度見たあの手本が相当レベルが高かったんだな。
基盤がしっかりしていれば、それだけ活用の幅は広がる。
プロ級の弓術さまさまってことだ。
実にいいものを盗めた。


「じゃ、約束通り、食券100枚はもらっていくぞ。」

「な、ちょっとま…」

「あーそうだ。その矢、重心がずれてるから、新しいのに交換することをお
薦めするぜ。ちゃんとしたのを使わねぇと、せっかくの実力も伸びないぞ。」


そう言い残して、海斗はその場をあとにした。


「うわー、何今の。素敵すぎる、流川先輩。」

「さらっとやっちゃうのが、またカッコイイんだよね。」



「こんなことって…」


結局、武蔵小杉のプレミアムな作戦とやらは、海斗の人気に拍車をかけただ
けだった。

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