小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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次はなにやら一年生の競技らしい。
一年生全体が移動を開始しているのでたぶん間違いない。

あれ?
でも、なんか女子だけしかいないような…
男子は応援席で待機しているどういうことだ。


「続いての競技は1年女子による水上バトルロワイヤルじゃ!自由参加なの
で、今からでもどんどん参加できるぞ」


「おー、いいぞーー!」

「この競技を待っていたんだーー!」


なんだなんだ、この男子陣の盛り上がりようは。
あちこちからこの競技への熱が感じられる。
一体どんな競技なんだ。


「ルールはいたって単純じゃ。海に浮いたビニールの小島の上で参加者全員
でバトルロワイヤルを繰り広げてもらう。ルールは1つだけ。小島から落ち
たら、その時点で失格じゃ。最後まで残っていたものが優勝となり、その生
徒の所属するクラスにポイントが入る。ちなみに上位三名までにはポイント
が入ることになっておる。」


なんだ、結構まともな競技じゃないか?
だが、男子の歓声は鳴り止まない。
それに学園長の顔も緩んでるような気がするし…


「一体、どういうことなんだ。」

「その質問には俺が答えてやる。」

「うぉ…いきなり何だ。」


後ろに立っていたのはいつも一子と一緒にいる頭のよさそうな奴。
そういえば、この前賭場にもいたよな。
一子の話に結構出てくるんだが、名前なんていったっけな。
なんかこう、有名な戦艦的な名前だった気がするんだよな。


「大和だ、直江大和。」

「わぉ、テレパシー?」

「んなわけあるか。別に人の名前なんて覚えそうにないお前のことだし、こ
れからは俺の名前知っておいてくれなんて言わないが、そんな目の前で必死
に考えてる顔されても困るんだよ。」

「おー悪い悪い。で?その大和が俺に話しかけてくるなんて、珍しいんじゃ
ねーの?」

「まぁな。競技について知りたかったっぽいしな。流石に今回のことは俺も
不憫に思ってるし、気にすんな。」


おー、競技について教えてくれんのか。
それはありがたい。
だけど、今回のこと?不憫?っつーのは何の話だ。


「大方、説明された競技の内容と会場の男子の盛り上がり具合が結びつかな
いから、不思議に思ってるってとこだろ。」

「やっぱ、テレパシーか。」

「いや、そんくらいは考えりゃ分かる。一応、ファミリーの頭脳担当だしな。」

「そういうもんか。」

「で、その肝心の競技だが、アレは去年も行われた競技なんだ。まあもっと
も、そのときの競技名は“ドキッ!女子生徒だらけの水上アイランドバトル・
ポロリもあるよ”なんて、ふざけた名前だったんだけどな。」

「…………」

「当然一部の男子たちは大喜び。だけど、そんな名前で参加者が集まるはず
もなく、結局一人として参加者は出ずに競技自体がなかったことになったん
だ。それが今回、また開かれることになって、男子の期待値も前年のおあず
けによって高まった結果、こんな状況となってるわけだ。」


なるほど、さっきから絶えず叫び続けている男子たちにもだらしのない学園
長の顔にも合点がいった。
そりゃそんな露骨な企画だったら、大コケするに決まってんだろ。
あの学園長は学校行事を何だと思ってんだ。
私物化っていうレベルじゃねーぞ。

ん?でも待てよ…


「じゃあ、なんで今回は普通に開催されてんだ?見たところ、参加してんの
ほぼ一年の女子生徒全員くらいだろ。」

「ああ、それなんだがな……。今回は学園長も対策を考えてきたらしくてな、
優勝者には一等の賞品が出るんだよ。」

「へー、………え、それだけ?」

「ああ、それだけだ。」

「…どんだけ豪華な賞品なんだよ。こんだけの人数好みもあるだろうに、そ
んな万人受けするもんなのか。やっぱ金とかか。」

「はあぁぁぁぁ」


そこで大和は大きな溜息をつく。


「いやまあ、それが不憫に思ったんだけどな。なんか優勝者はお前に願い事
を一つ聞いてもらえるらしいぞ。」

「は?お前って誰だよ、シェンロ○か。」

「いや、残念だが七つの球を集めるまでもなくお前だよ、流川。」

「え!?なんで俺がそんな役になってんだよ。」

「やっぱ知らされてないよな…。まあ、なんでって言われたって、需要があ
るからなんじゃねーの。」

(まゆっち含め、大人気だもんな。そりゃほとんどの1年女子が参加させん
のにはこれほど効果的な手はないだろう。)


あのジジイめ…!
自分の欲のために俺をなんの断りもなく使いやがって、老い先短いその人生
強制終了させてやりたいくらいだ。


餌にされた海斗の意思など尊重されることもなく、水上の小島では物凄いや
る気の少女たちが優勝を競いあっていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「優勝は黛由紀江じゃ。さて、では優勝賞品である流川海斗にお願いの権利
をプレゼントしよう。大事に使うのじ…」

「なーにが、“プレゼントしよう”だ。誰もお前に俺の権利を委託した覚え
はないわ。」

「あ、海斗さん…。その大丈夫ですよ、海斗さんがそんなことを許可してい
るわけないだろうなって思ってましたから。私は別に無理に海斗さんにお願
いを聞いてもらおうなんて考えませんし、迷惑なことは十分承知しておりま
すから。ですから、その、あの…」

「…はぁ。由紀江、ちょっとこっちに来い。」

「え…はい。」


そのまま由紀江の手をひいて、人だかりから離れる。


「ここまで来ればいいだろう。」

「あの?海斗さん」

「確かに勝手にやられたのを俺が軽々承諾してたら、学園長もつけあがるだ
ろうし、気乗りしないがな…。由紀江が頑張ったのは事実だ。それでいきな
り優勝賞品なしなんて、それも十分な仕打ちだしな。いいぞ、願い事くらい
言ってみろ。叶えられる範囲ならきいてやる。」

「え、え!?そんなでも…」

「言っとくけど、俺に悪いとかは考えるなよ。俺が決めたことだ。それにこ
の件に関しては悪いのは全面的にあのジジイだし、由紀江は被害者だからな。」

「はい…、でもそんな急に言われてもですね…」

「なんでもいいから、言ってみ?」

「えーと…あ!じゃあ海斗さんにお弁当を作っていくとか…」

「いや、それ完全に俺が得してるから。自分のためのお願いをしなさい。」

「じゃあ、えーと…えーと…」

「まぁ、急に言われても難しいか。いいぜ、保留にしといてやるから、願い
が思いついたら言いな。」

「あ…!え、はい。」

「じゃあな。」


こうして、少女は大変な権利をゲットしてしまったのだった。

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