小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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バトルロワイヤルが終わり、その他なんだか海が関係しているようでしてな
いような判断が難しい競技が続いた頃、


「次は男女ペアによるビーチバレートーナメントじゃ!」


へー、男女ペアね。
なんか、やっと学校のイベントらしくなってきたな。
つっても、この暑い中、バレーか。
大変そうだよなー、どうしようか…


「ちなみに優勝したペアには水にちなんだ賞品“水族館ペア招待券”がおく
られることになっておる。」


何!?水族館って、あれだよな。
シャチとか、イルカとか、マンタとか、海の生き物たちに逢えるっていう、
夢のような場所。
それは俄然やる気になるな、いい、実にいい。

そんな考えにひたっていたときだった。


「海斗!アタシとペアになりましょう!」
「海斗! 自分とペアにならないか!」


凄まじい勢いで一子とクリスが迫ってきた。


「何よ、クリ!また、アタシの邪魔をしようっての。」

「犬こそ何だ。海斗には自分から先に声をかけたんだ。」

「そんなことないわよ!ほぼ同時だったじゃない。」

「いや、自分が先だ。それに優勝を目指すなら、海斗とより強い者が組むの
は当然の処置だろう。」

「一回決闘に負けたからって、別にクリより弱いなんて思ったことは一度も
ないわよ。そ、それにビーチバレーはチームワークも重要なのよ。アタシの
方が海斗と一緒にいる時間長いし……その、アタシは海斗のぱ、パートナー
だし…!」

「付き合いの長さなど関係ない。自分だって海斗の実力を信頼している。そ
れだけで、犬との時間の差など事足りる。」

「アタシなんて、海斗と…」


「あーはいはい、そこまで。」

「む…」
「ん…」


矢継ぎ早に言葉が生み出される二人の口を指で塞ぐ。
いちいち、そんなことで口論するなよ。
二人の試合への熱意は伝わったが、なんだかなぁ。


「えー、おほん。憧れのあの娘と一緒に参加したいなどと、男子諸君はペア
の誘いに繰り出しているかもしれんが、1つ言っておかなければならないこ
とがあるんじゃ。」


数人の男子たちがぽかんとした表情で学園長の方を振り返る。
お前ら、図星かい。


「今回のビーチバレー大会では、優勝クラスを2組出そうと思うのじゃ。」


ははぁ、つまりは…


「つまりは、別のクラスのもの同士でビーチバレーのペアを組んでもらう!」


「えー、なんだよそれー。」

「横暴だー。」

「自由にさせろー。」


会場からブーイングが飛ぶ。
まあ、確かにそういう意見があっても、おかしくない。
いや、現に隣にも…


「アタシ、おんなじクラス。ってことは、海斗とのペアが…」

「むー、何故だ何故だ何故だー!納得がいかないぞ。」


こんな感じだった。


「まあ、色々意見はあると思うが、クラス同士競いあうばかりでは、新しい
出会いは巡ってこないぞい。こういう学校行事だからこそ、敵クラスが協力
する競技があっても面白いじゃろう。きちんとそういう意図があって、作ら
れた競技なんじゃから、文句ばかり言わず、しっかりと取り組むように。」


その言葉で完全にとは言わないが、場が静かになる。
別に学園長の言い分に納得したとかではないだろう。
学園長が怒ると怖いというのは、学園の生徒中に認識されているらしい。
ただ、それだけのことだった。


「じゃが、自由に選ばせると、内通などいくらでも出来てしまうからの。そ
こは公平にくじでペアを決定することにした。男がくじを引き、その手で自
分のパートナーを決定するのじゃ。自分の運命には自分で責任を持ってもら
うということじゃな。」


いや、そんな大層な言い方せんでも。
別に誰がパートナーだろうが、優勝を目指すのみだ。


「では、まずこの箱から、クラスの書いてある紙をひき、そのクラスの箱か
ら自分のペアを引いてもらう。勿論、自分の所属するクラスが出ても、引き
直しとなるのは理解しておくように。」


その言葉に従い、男子たちはくじ箱の前に並ぶ。

そして、俺の番が回ってくる。
正直、どうでもいいので、迷うこともなく、一番先に手に触れた紙を箱の中
から引き出す。
その折りたたまれている紙を開く。

書かれている文字は“S”。

…え、これってS組ってことか?
待った、何故俺はこんなに数あるクラスの中でよりにもよって、S組なんて
ものを引き当ててしまったんだ。
確かに誰でもいいとは言ったが、まさかピンポイントで当たってしまうなん
て思わなかった。
大誤算もいいとこだ。

そもそも、俺がこんなに嫌がっているわけというのは、水上体育祭が始まっ
て、競技もいくつか終わったくらいのときまでさかのぼる。






「次の競技はなんだろうな、海斗。」

「どうせ、しょうもないものな気がするがな。」

「じいちゃんもたまにおかしなこと考えてるのよね。」

「たまにじゃないと思うが…」


俺は競技の合間にクリス、一子の二人と適当にぶらぶら歩いていた。


「なんか俺、結構競技に駆り出されてるのは気のせいか。」

「しょうがないじゃない、海斗はあの川神戦役以降、キャップよりも足が速
いってこと、皆に知られちゃったし。それにスポーツだって出来るんだから、
頼りにされてんのよ。」

「はあ、そうなんかね。」

「いいことじゃないか。誇っていいぞ。」

「へいへい。」

「なんだその言い草は!自分の意見を聞いているのか!」

「ああ、聞いてるって。イモリは両生類なんだよな。」

「誰もそんなことは言っていなぁい!全然、聞いていないじゃないか。」

「ああ、分かったから。そんな怒るなよ。」

「まったく海斗は……ブツブツ。」


うーむ、からかい甲斐のある奴だ。
いちいち面白い反応を返してくれる。
と、そんなとこへ…


「お嬢様。」

「あ、マルさんじゃないか!」


ん、“マル”さん?
なんか嫌な感じがするのは気のせいだろうか。


「久しぶりだな、流川海斗。」


そう言っているのは、あの髪も瞳も紅蓮の軍人。
マルギッテだった。


「な!海斗、久しぶりってどういうこと!?」

「海斗はマルさんとも知り合いなのか?」

「いやー、初対面だと思うんだけどなー…」

「ふん、とぼけても無駄だと知りなさい。流川海斗、たとえ貴様が私を覚え
ていなくとも、勝負をあのまま終わらせるのは私のプライドが許さない。」

「や、まあ、そんなにカッカすんなって。」

「なんなら、ここで勝負しても、構わないぞ。」

「いや、落ち着けって。」


トンファーを抜き取ろうとした腕を押さえる。
こいつ、考えが短絡的すぎだろ。


「おい、クリス、お前相手しとけ。」

「え、おい海斗!」


あんなとこで戦ったりは出来ない。
俺はクリスに押し付け、その場から逃げた。






まあ、そんなことがあったわけだ。
聞いたところによると、マルギッテは当然のようにエリートのSクラスらし
い。
そして、たった今俺が、引いたのもSの文字。

あいつと一緒のペアになったら、試合中に味方コート内で別の戦いが行われ
てしまう可能性もなきにしもあらずだ。
いや、冗談でなくね。


「ここから引いてください。」


ドキドキしつつ、俺が箱の中から引いたのは…


「“榊原小雪”?」

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