小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「榊原小雪か…、聞いたことないな。」


とりあえず、その小雪って奴とペアってことだ。
俺はS組連中が溜まっているところに行く。


「こんなかに榊原小雪って奴はいるか?」


聞こえるように、ある程度の声量で呼びかける。
すると、


「ほっほーい、それは僕だよ〜。」

「あん?」


そこには見たことのある白髪少女が。
そう、タッグマッチの準決勝で戦ったそいつである。
はー、そういえば、そんな感じのあだ名で呼ばれていたような気がする。


「お前が“榊原小雪”で間違いないな。」

「おうともさ〜」

「俺がお前のペアだ。名前は流川海斗、狙うは優勝だ。」

「おー!よろしく〜、カイト。」


まあ、マルギッテじゃなかった時点でかなり安心したのだが、これは思わぬ
ラッキーかもしれない。
こいつはタッグマッチのときを見る限り、結構な実力は持っている。
少なくとも、足を引っ張るなんて心配はないだろう。


「おやおや、ユキのペアは海斗君ですか。」


話しかけてきたのは葵冬馬だった。
そういや、友達だとか言ってたっけな。


「まあ、心配なのは分かるが、くじが決定したことだ。諦めてくれ。」

「いえいえ、海斗君なら心配はしてませんよ。私も海斗君の実力は知ってい
ますし。それにしても、今から優勝を狙ってるだなんて流石ですね。」

「いや、二位とか狙ってる方がおかしいだろ。」

「言われてみればそうですね、ふふっ。では、ユキ頑張ってください。」

「おぉ、めっさ頑張る。」

「じゃ、連れてくからな。いくぞ、小雪。」

「いえっさー♪」


俺は小雪と、ペアを見つけたことを報告するために、試合受付に向かった。
これ済まさないと、参加できないからな。
だったのだが…


「おい、小雪。」

「ん〜?」

「なんか、距離が近いっていうか、ひっつきすぎなんだが。」


そう、歩いている途中から、薄々思っていたのだが、小雪はこちらにもたれ
かかり、確実に体重を預けてきていた。
今じゃ、ほぼ背中にぶら下がっている状況になっている。
つまり、全体重を預けてしまってるわけだ。

いや、別にこのくらい重くもなんともないし、このまま軽やかにスキップを
することだって、なんら問題ないのだが。
そうではなく、そんだけ俺にもたれかかっていれば、もう肌は密着状態って
いうレベルで。
しかも、こいつ可愛い顔して、結構凶悪な胸を持っている。
そんな迫力満点の物体Xが押し付けられているわけだから、シカトなんてこ
とは出来ないだろう。
そもそも、どうしてこんなことになっている?


「一応、俺らほとんど初対面に近いんだし、少なくともこんな距離の関係で
はないと思うんだが。」

「ん〜、なんだろぉ、カイトからはおんなじニオイがするー。」

「同じニオイ?」


なんだ、ってことは俺からもあの女子特有のフローラルな香りが漂っている
ってことか?
あのシャンプーでも、ボディソープでも、勿論香水でもない、謎の香り。

おい、待ってくれ。
あれは女子限定で使えるスキルじゃなかったのか。
俺なんかが使えたら、価値が半減するんだが。

試しに自分と小雪の匂いを嗅ぎ比べてみる。


「そんなことしたって、無駄だよ〜。もっと、ふいんきみたいなことだもん
ねー♪」

「フンイキな、雰囲気。」


結局、小雪の言っていることはよく分からなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



海斗と小雪の一試合目。


「あ、流川先輩の出番だよ。」

「え、嘘!見よう見よう。」

「やっぱり、ビーチバレーも上手いのかなぁ。」


そして、試合が始まる。
最初から実力差は分かってしまった。
海斗の読みが当たっていたというか、小雪はどんどん点数を入れていき、大
活躍を見せていた。
当然、その試合は勝利を収め、その先も同じように勝ち上がっていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



試合が進んでいく傍らで、大和と岳人の二人は試合を見ながら、雑談の時間
を過ごしている。
自分のクラスに点数を入れたい軍師としては、海斗あたりに期待していた。
現在もそんな話の流れになっていた。


「おい、大和。」

「ん?なんだ。」

「なんか、流川ペアの試合、S組の榊原小雪ばっか、活躍してないか?これ
じゃ、たとえ優勝しても、S組の奴らが調子に乗って、自分たちのおかげだ
とか馬鹿にされんじゃねーのか。」

「まあ、確かに表面上はあいつしか活躍してないな。」

「表面上?」

「ああ。これは今までの試合のスコア表だ。それを見てみな。」


そこに綺麗に並ぶ数字。
ぶれることなく並ぶそれは…


「な!?これは…」

「そうだ、あいつらのチーム、相手に1点もやってない。失点が0なんだ。」

「それって、どんな球も全部落とさず、拾ってるってことだよな。」

「まあ、同時にあのS組の女子もアウトやネットを出してないってことなん
だけどな。」


普通ならば、ありえない話だと笑うところだが、事実その紙にしっかりと記
録されているのだから、馬鹿にしようがない。

というか、そこまで完全に拾えるのだったら、たとえ味方があまり点を入れ
られなくても、コート内に入れれば、確実に勝てる。
それなのに、榊原小雪も高い運動能力で強烈なスパイクを放つ。
まさに攻撃と防御が恐ろしいバランスで組まれたチームであった。


「うへー、最強チームじゃねぇか。くそ、うちのクラスにとっては確実に点
数に貢献してくれるいいことのはずなのに何故か腹立つ…。」

「また流川の株があがるんだろうな。今だって、相変わらず1年生からの声
援は凄まじいからな。1年生に限って言えば、キャップでも葵冬馬でもなく、
正直、姉さんも差し置いて、あいつが人気No.1って感じだからな。」

「そう聞かされると、ますます腹が立つ。一発、俺様のパワフルラリアット
をお見舞いしてやりたいぜ。」


そう言って、岳人が己の筋肉を見せ付けるようなポージングをする。


「ガクト、それはモテない男の逆恨みも甚だしいだろ。」

「いや、確かにそれもあることは否定しないが、なんか気にいらねぇんだよ。」

「ガクトはなんか流川といざこざあったっけ?」

「いや、なんていうか、もう名前の時点で何故か分からないが、どうしよう
もなくムカムカするんだ。前世で気に食わなかった相手だったのかも。」

「なんじゃそりゃ。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「次で決勝か。」

「頑張るぞぉ、おぉ〜」


残すは決勝戦である。

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