小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「決勝戦は西方:流川・榊原ペア、東方:九鬼・川神ペアで行う。両チーム、
コート内へ!」


順調に勝ち上がってきたトーナメント。
だが、まさか決勝の相手が一子だとはな。
隣のやつはあの性悪メイドが仕えていたやつだな。
実力は未知数か、あのときはメイドが追い出したしな。

まあ、どんな相手だろうと勝つのは俺だがな。




Side 大和


まさか決勝であの二人がぶつかることになるとは…
いたずらな運命もあったもんだ。


「おい、大和。この試合って意味あんのか?どっちのチームもS組とF組で組
まれたペアなんだから、点数の獲得は決定してるようなもんだろ」


ガクトがそんなことを言ってくる。
確かに、得点上はもう決定しているのだから、本来なら割愛していいはずだ。


「そのための優勝賞品なんだろ、“水族館ペアチケット”っていうさ。」

「ああ、そうか。」


そう、そんな結果の変わらない勝負では選手も当然手を抜き、見てる方とし
ても面白くない。
ちゃんと役割がある賞品ということだ。


「でも、九鬼なんかはあんなの欲しくないだろ。水族館どころかどんなとこ
ろでも、自由に行ける金を持ってんだろ。自分のクラスに点が入りさえすれ
ば、勝負なんて真面目にやんないんじゃないか?」

「ああ、普通ならな。だけど、何の因果か、ペアがあのワン子だぜ。いくら
九鬼でも、というか九鬼だからこそ、ワン子が真剣にやってくれとお願いす
れば、本気で取り組まざるをえないだろ。」

「それはそうだな。でも、ワン子はなんで、あんなやる気をむき出しにして
るんだ?」


ガクトが指差す先には、さながら犬歯を剥き出しにして、低く唸り、まさに
誰の目にも臨戦態勢なことがうかがえるワン子の姿があった。


「分からないか?ワン子は大好きな流川が他の奴とペアチケットを使って、
水族館に行くことをどうしても阻止したいんだよ。」

「はぁー、なんかワン子の行動理由が全部流川基準になっていってないか。」

「まあ、今更止められるもんでもないだろ、本気の目だし。」


俺たちは二人そろって、溜息をつくしかなかった。


Side out




コートに入った四人は試合前から火花を散らしていた。


「海斗、手加減はしないからね。」

「フハハハ、そういうことだ。一子殿のため、我も全力で勝利を取りに行く
故、覚悟しておくことだ。」

「一子、悪いが俺も負ける気はない。こっちには最強のアタッカーがいるこ
とだしな。」

「ほっほーい♪勝っちゃうぞ〜」

「むー、アタシだって絶対に勝ってやるんだから!」


一子は明らかに海斗のペアを頼りにするような発言で不機嫌になっていた。


「では、試合開始!」


サービス権は相手側から始まった。
あのデコバツが打つようだ。


「くらえ、我の最強のサーブを!」


そう言って、凄まじい勢いでボールが放たれる。
確かに並みの奴じゃ弾き飛ばされて取れないかもな。
無駄に破壊力がある球だ。

だが、俺は難なくボールをとらえる。


「よっと」


そして、ちょうどいいのかは分からないが、適当な空間にトスをあげた。


「小雪、頼んだぞ。」

「おぉ、まっかせて〜」


小雪はその圧倒的な跳躍力で跳びあがり、稲妻のようなスパイクを叩き込ん
だ。
その勢いでいて、しっかりとボールはコート内に入っていた。
ホイッスルが響き、順調に1点獲得だ。


「くぅ、悔しいわ。」

「ふ、庶民のくせにやりおる。」



悔しがる相手を尻目に小雪が俺に近づいてくる。


「いっえーい♪カイトー、ぱしーん」

「ハイタッチする前にSEをつけるな…」


そう言いつつも手を差し出してやる。
こんなにマイペースだが、その運動能力は凄まじい。
攻撃は心配なく任せられるので、俺に出来るのは点を入れさせないことだけ
である。


小雪がサーブを打つ。
当然、相手もスパイクを打ってくるのだが、入れさせるわけがない。
デコバツが跳びあがり、こちらのコートを狙っている。

どこを狙うかを予測すれば、止めることは困難ではない。
だが、相手の目線や、振りかぶる腕の角度なんて見たところでどうしようも
ない、そんなのは素人だ。
結局、そこはいくらでもフェイントがかけられる。

俺が見るのは、ボールにアタックするポイント。
当然、ボールの右側に力強くインパクトを与えれば、おのずとボールは左側
に飛んでいく。
ここにはどう考えたって、フェイントが介入することはできない。

だから、容易にボールが来るとこは予想できんだよな。


「はいよ、っと」

「どっかーん♪」


またもや、強烈なスパイクが決まる。
これなら勝ちはもらったようなもんだ。


あとは同じ流れを繰り返すだけ。
俺が打ち上げたトスを、強力なスパイクで得点に変えていく。
そのままいくと思っていた。
だが…


「せやぁぁぁっ!」


その速く正確なスパイクを一子が拾い上げた。

これにはただ驚かされてしまう。
こんなこと言っちゃ悪いが、一子はどこにボールが飛んでくるなんてことを
予想できているはずはないだろう。
ということは、あの球に反射神経だけで対応したってことだ。
恐ろしい奴だな。

そのあとはどちらもボールを拾っていくので、ラリーが続いた。
これじゃあ、勝負がつかねぇな。
と思ったのも、束の間


「はあぁぁぁぁぁ!」


一子の強烈なスパイクが放たれた。
勿論、その弾道はあらかじめ読めたのだが、その球威は予想以上に強かった。


「やべ…!」


上手くあがらずに、あさっての方向に打ちあがってしまう。
集中をきらした俺のミスだな、そう反省していたのだが…
小雪はそのボールを追って、もう一度打ち上げた。

今までにはなかった展開だ。
初めての3回をフルに使った返球。
俺は宙に浮くボールをしっかりと捉えて、腕を振るった。

ホイッスルが鳴る。


「え、今の見た?」

「なんか、流川先輩のアタック速すぎて見えなかった。」

「やっぱり、かっこよすぎる〜」


会場は驚きの声と1年生の歓声でドッと沸いた。


「おぉ〜、カイトやっる〜」


「く…!この我が庶民ごときに遅れをとるなど!」

「あわわ…、このままじゃ…」


その後の試合展開は一方的だった。
小雪が自分で打たずに俺に回してくるようになったので、すぐに決着がつい
てしまった。


「優勝は流川・榊原ペアじゃ。ほれ、賞品の水族館ペアチケットじゃ。」


「小雪、これいるか?」

「ボクはいらないよ〜、いっつも三人だもーん。」

「ふーん、おっけ。じゃな。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「おーい、一子!」

「あ…、海斗。」

「お前これ欲しかったんだろ?すげぇ、やる気だったもんな。俺、別に行く
相手もいないし、やるよ。ファミリーの仲間とでも行ってこい。」


そう言って、水族館のペアチケットを渡す。


「え!?あ、ありがとう。でも、アタシがやる気になってたのは…」


相変わらず鈍い海斗に困らせられる一子であった。











―ここは会場から少し離れた浜辺


「おうおう川神学園は面白ぇーことしてんなぁ。」


影が暗躍する。

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真剣で私に恋しなさい! Original Sound Track ~真剣演舞~
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