小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「海斗さん!」

「お、由紀江じゃないか。どうした?」

「あ、あの、ビーチバレーでの試合お見事でした。」

「おお、さんきゅ。」

「それでですね、えっと…」


なんだか、口をもごもごさせているが、何かあるんだろうか?


「おーい、まゆっちー」


とそこへ、伊予がやってきた。
そういや、友達だとか結構前に言ってたな。


「え!る、流川先輩!」

「よっす。」

「はい、こんにちは。」

「で、由紀江に何か用だったんじゃないのか」

「あ、そうでした。まゆっち、なんか先生に呼ばれてたよ。」

「そうなんですか、ありがとうございます、伊予ちゃん。では、すみません、
海斗さん失礼しますね。」

「おう、またな。」


由紀江が去っていく。
結局、俺と伊予が残された。


「………海斗さんか。」

「あ?何か言ったか?」

「え!あ、はい。あ、あの、るか…じゃなくて、海斗先輩!」

「ん、どうした?」

「え、あの、はい。これからは海斗先輩って呼んでもいいですか?」

「別に全然構わないぞ。むしろ、名前の方が俺はしっくりくる。それに俺だ
って伊予って呼ぶしな。」

「そ、そうですか…。じゃあ、海斗先輩、私も行きますね。」

「ああ、また。」

「はい、失礼します。」


なんか、最後のほうは逃げられたような気がするんだが、俺はなんか悪いこ
とでもしたのか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「今日の最終競技はずばり“怪物退治”じゃ。」


ん?なんだそれは。
夜は墓場で運動会みたいなものか?
いや、あれは怪物じゃなくて、妖怪か…


「簡単に言えば、それぞれのクラスごとで1匹ずつ、怪物の着ぐるみを討伐
してもらうという競技じゃな。その怪物に“まいった”と言わせれば、その
クラスの勝利となる。ただし、中には川神院の修行僧たちが入っているので
個人の力だけでの打倒は難しいようになっておる。じゃが、クラスの力を団
結させて立ち向かえば、きっと打倒できるであろう。そういうシステムじゃ。
なお、川神百代のクラスには公平を期して、ワシが着ぐるみに入るので、そ
こらへんの心配はいらん。」


怪物退治なんて、小学生向けのアトラクションみたいなネーミングだと思っ
たんだが。
なるほど、最後はチームでの実際の戦闘か。
他の学校じゃまずない、川神学園らしい競技だな。

学園長の話し振りだと、実力で勝らなくても、クラス内での連携が上手くい
っていれば、“まいった”と降参してくれるってことなんだろうな。
うちのクラスには実力のある女子が結構いるし、こりゃ俺が出る幕はないか。


「久しぶりの戦闘形式の訓練になるわね、腕が鳴るわ。」

「自分も実力を試せるいい機会だ。」


一子とクリスの二人も今からやる気まんまんって感じだった。
まあでも、実戦に勝る経験はないっていうしな。
少しでも数を積んでおきたいというのは、強くなりたい身としては当然の思
考だろうな。


「海斗、一緒に頑張りましょうね。」

「ああ、共に協力して戦おうではないか、海斗。」

「はいはい、分かったよ。」


ったく、まあ絶対こうなるとは思ったが、やはり巻き込まれたか。
やる気がありあまって、自分だけでは消化しきれないんだろう。
だが、確かに俺も川神院の修行僧というもののレベルがどの程度のものなの
かを確かめておきたいというのもあるし、適当に参加するか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ちょうど学園長が競技の説明をしている頃、裏では修行僧たちが準備を着々
と行っていた。


「さて、私が受け持つのは一子殿のいる2−Fか。これは一層気合いを入れ
なくてはいけないな、頑張らないと。」


そう言って、着ぐるみを装着しようとする。
そこへ…


「よォ」

「な!?釈迦堂師範代ぐはっ…!」

「元がつくけどな。すまねぇがちぃっとばかし、眠っててもらうぜ。」


現れたのは釈迦堂刑部。
川神院をその問題がある性格で破門となった元師範代であった。

釈迦堂は一瞬で川神院の実力ある修行僧を気絶させ、着ぐるみを強奪した。


「これで伸びてる奴と合わせて、着ぐるみは2体になったな。よし、これで
人数分そろったか。さーて、弟子ども。」


そう呼ばれて現れたのは、オレンジ色の髪をツインテールに縛った少女とそ
のつりあがった目と唇がいかにもサディスティックな雰囲気を漂わせている
女の二人。
板垣天使と板垣亜巳であった。
二人は元師範代である釈迦堂の武道の弟子という立場だ。


「おい師匠ー、ホントにこんなとこで訓練なんかできんのかよー。」

「ていうか、なんで、竜までここにいるんだい?」

「いやー、俺はいい男の水着姿が見れると風の噂で聞きつけてな。そうして
来てみれば結構な上玉が揃ってんじゃねぇか。」

「男に上玉なんて使うのは初めて聞いたよ…、本当相変わらずだねぇ。」

「リュウは基本おかしいんだよな。」


もう一人いる男の名は板垣竜兵。
苗字からも分かるように、天使や亜巳とは兄弟にあたる。
根っからの男好きであり、女には興味がない。


「まあ聞け、弟子ども。今日はお前らの大好きな実戦訓練を行おうと思うわ
けだ。だから、この着ぐるみを着て、川神院の僧っていう競技上での敵にな
りすまして、存分に川神学園の生徒相手に腕試しをしてこい。」

「へー、なんか面白そうじゃん。これ着りゃいいわけ?」

「ああ、そうだ。さっさと着ろ着ろ。」

「私はあんな奴らが相手になるのか心配だけどね。」


そうは言いつつも二人は着ぐるみを着る。


「ウチはクマの着ぐるみか。うわー、このクマ超ダッセェなぁ。タツ姉とか
なら喜ぶかもしんないけどさー。」

「私のはアリクイか、まあ何でもいいさね。」

「よーし、んじゃ、適当に遊んでこいや。」

「よっしゃ、いくぜぇ!ウチは2−Fでいいんだな。」

「私は2−Sか、ふん。」

「撤収命令を出したら、すぐ戻れるように防御は重視しておけよ。」

「分かってるってー。」

「了解だ。」


そうして、クマの着ぐるみをまとった天使は2−Fへ、アリクイの着ぐるみ
をまとった亜巳は2−Sへそれぞれ向かっていった。


「俺はここで水着の男たちをもうちょっと観察させてもらうぜ。」

「分からんねぇ、ピチピチギャルに興味がないなんて。」


残った二人は様子を見守っていた。



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「あ?」


なんか今、変な感じがしたが…
まあ、いいか。

とにかく次で最後だ。

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