小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「見て見て、怪物が来たわよ。うちのクラスはでかいクマね。」


誰かがそんなことを言ったとおり、こちらにクマの着ぐるみが近づいてくる。
サングラスなんかかけていて、いかにも人相が…


「あ?」
「ん?」
「え?」


俺も含めて、気配を察知できる女子たちは、すぐに違和感に気づいただろう。


「へっへ、ウチの相手はこいつらかよ。」


色々おかしいとこを挙げていけば、きりがないんだが、


「おい、一子。お前んとこの院の修行僧って、結構なんつーかアクティブす
ぎやしないか。」

「まさか、アタシの知ってる川神院の人にこんなのは絶対にいないわ。」

「ああ、そうだよな。少なくともこんな奴に生徒の相手をさせるっていうの
は正気じゃねぇな。明らかにこっちを採点なんてしてくれそうにないぜ。」

「だな。自分もそれには賛成だ。このクマからはとても禍々しい気を感じる。
嫌な汗が出てくるほどにな。」


なるほど、禍々しい気ね。
確かに何も間違っちゃいない表現だ。
だが、正確にはそんな抽象的なものではない。
クリスはただ単に本物を味わったことがないから、そう表現するしか他にな
いだけだ。

こいつから感じるピリピリとした懐かしい感覚。
これは紛れもない純粋な殺気だ。
威嚇でも牽制でもない剥き出しの獣のような殺気。
それは鞘に収まることのない刃のような、危なっかしさや緊張感を俺たちに
伝えてくる。


「さーて、アクションゲームのスタートだぜ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―同じ頃、2−S


「フハハハ、あれが怪物とやらか!オオアリクイであるな。」

「ふふ、少しは腕のある奴らがいるんだろうね。」


こちらにも明らかに異質なオオアリクイが来ていた。
その気配にいち早く反応する忍足あずみと不死川心。


「…ん?あれが修行僧の気なのでしょうか。」

「確かになんとも怪異な気を放っているのじゃ。」

「ふむ、言われてみれば、禍々しさを感じられるな。」

「そぉ?ボクは何にも感じないけどねー。」

「あら、意外ですね。こういうのは敏感だと思っていたんですが。まあ、と
もかく油断は出来ませんね。」

「ああ、此方が全力で潰してやるのじゃ。」

「せいぜい楽しませておくれよ!」


こちらでも力がぶつかり合おうとしていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ファイナルステージ開・幕!!」


戦いの火蓋がきって落とされた。


「じゃ、早速いかせてもらうぜぇ!」


開始直後にクマがクラスメイトめがけて、襲いかかってきた。


「あぶねぇ!」


筋肉男がそいつを引っ張って、対処していた。
今は守られたが、もしあの威力が当たっていたら、ただではすまなかっただ
ろうな。
それだけ遠慮なしの相手だってことだ。

これだけの相手だ。
まずは見極めることが重要だろう。
何も考えずに突っ込んでいったところで得られるものがあるかどうか。
そうと分かれば…


「おい、一子、クリス、あれだけの強さを持ってる相手だ。ここは迂闊に手
を出さずに最初は様子見に徹しよう……って。」


「ちょっとアンタ!いきなり生徒相手に本気で殴りかかるなんて、完璧に川
神院の人間じゃないわね!」

「一体何者だ!大人しく正義の前に正体を現すがいい!」


全然、俺の話なんて聞かずに突っかかっちゃってるし…。
まあ、この真っ直ぐコンビの性格を考えれば、予想できなかったことではな
いんだが、少しは作戦というのも考えてくれ。


「だから、ウチはクマだっての。見りゃ分かんじゃん。怪物退治なんだから、
さっさとやってみろよー。もっともウチに敵うはずないけどなー。」

「言ってくれるわね、やってやるわ!」

「ああ、きっちりと正義の名の下に悪を退治してくれよう。」

「だから…」


「でやぁーーーー!」
「はぁーーーーー!」


クリスと一子はクマの挑発に乗って、二人で突っ込んでいった。
ちょっとは俺の話も聞いてくれよ…。


「二人が先陣をきった!男衆も後に続こうぜ!見てるだけじゃ、うずうずす
るしな。」

「そうだな、何もしなくても戦況は変化しない。せめて、フォローにだけで
もまわってサポートしよう。」


翔一がそう切り出し、大和も賛成の意見を述べる。


「頼むから、お前らまで勝手な行動をしないでくれ。」


だが、海斗はそれを制す。
ただでさえ、作戦が狂ってるのにこれ以上、別の要因でかき乱されたら、た
まったもんではない。
翔一は納得していなかったようだったが、海斗の意図を汲んだ大和がなだめ
たことにより、なんとか更なる混乱にはならなかった。




「先手必勝だ、はぁっ!」


クリスが素早い動きから拳を繰り出す。
一連の流れに乗った綺麗な攻撃だった。
だが…


「あはっ、そんなんでウチに当たるとでも思ってるワケ?笑わせるぜぇ!」


あっさりと攻撃をかわされ、そこからカウンターを打ち込まれる。
クリスもガードはしたもののその場からは弾き飛ばされてしまった。


「威勢だけいいくせに弱すぎだぜぇ、あはは。」

「油断大敵よ、せやぁーーっ!」


一子が相手が笑っている隙をつき、薙刀を振るうような蹴りを放つ。

パシッ


「そんなヘナチョコな攻撃でウチを仕留められるとでも思ったのかよ。甘い
ぜ、甘すぎるんだよ!」

「な!?」


キレもあって、見事な攻撃だったにも関わらず、それは簡単に受け止められ
てしまった。
そして、そのまま足を掴まれ、投げ飛ばされる。


「かはっ…!」

「おい、犬、大丈夫か。」

「ほらほら、今度はウチから行くぜぇ。」


クマから拳の乱撃が繰り出される。
一子とクリスはそれを必死にガードしていたが、一子の動きが少し鈍かった。
結果、クリスがフォローにまわり、劣勢の状況だった。


「へへ、攻めることも守ることも中途半端かよ、笑わせてくれるぜー。」

「おい、どうした犬!いつもより動きが鈍いぞ。」

「おかしいわ。あんな奴川神院には絶対にいないのに、時々川神院の技を使
ってきてるのよ!」

「なんだと?川神院の技は門外不出ではなかったのか?」

「だから、分からないのよ。これだけの実力を持ってるなら、アタシが知ら
ないはずがないわ。」


一子は動揺しているのか、それが表面に出てしまっていたようだ。


「はぁー、ちょっとは骨があると思ったけど、こんなもんか。もうこれ以上
やっても何も出てきそうにないし…」

「あまり甘く見るな。せぁっ!」

「お前は後回しだ、メンドイし。」

「なんだと!?」


そう言って、クマはクリスの攻撃を回避するとともに足払いをして、そのま
ま速度を上げて、万全ではない一子に狙いを定めた。
まずは簡単に潰せる方をやって、頭数を減らそうという考えだろう。


「ほい、まずは一人目ー!」


クマが踏み込んで拳を繰り出す。


「はい、そこまで。」


その拳を受け止める。


「こいつウチの攻撃を…!なんだよ、テメェは。」

「海斗…」

「まあ、俺も手伝ってやるよ。」


しょうがない。
作戦は戦いながら立てるしかなさそうだな。


「じゃ、始めようか。怪物退治を。」

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