小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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水上体育祭、最後の競技である怪物退治。
俺はクマと対峙していた。


「へー、弱そうだったからノーマークだったけど、マジじゃないとはいえ、
ウチの攻撃を受け止めるなんて結構やるじゃん。あはっ、面白ぇー、もしか
して、あの女どもより強かったりすんのか?」

「さぁ、どうだか。お前の予想通り、別段俺は強くもなんともねぇけど。」


やはり、初見の相手には確実に弱く見られる。
弱いことがアドバンテージになってんだから、不思議なもんだぜ。


「でも、気も使ってない素手でその実力はちょっとは期待してもいいってこ
とだよなー、楽しくなりそうだぜぇ!」


随分と上機嫌のご様子で。
こいつもあれなんだろうな。
前に戦ったマルギッテのような戦闘に飢えているタイプ。
しかも、軍という拘束力がない分、こちらの方がよっぽど危険物だ。


「おい、クリス、一子。ちょっとこい。」

「なに?」
「なんだ?」


二人を手招きして、側に来させる。


「いいか、これから言う作戦に従え。」

「分かったわ。」
「了解した。」

「まず、俺があいつと1人で戦って、どうにかして大きな隙を作る。そこに
二人で出来る限りの攻撃を叩き込んでくれ。」

「待て、何故海斗だけが奴と戦うんだ。自分が隙を作る。」

「お前はバカか。」

「な!バカとはなんだ!バカとは!」

「そうやって、さっきもカウンターくらってただろうが。相手はそんなに生
易しい強さじゃねぇ。だから、カウンターが来ても、打たれ強い俺なら、対
処できるし、一番適役なんだよ。それに重要なのは、とどめとなる二人の攻
撃の方だし、そこに頼りになる人材を持ってくるのは当たり前だろ。」

「そ、そうか。まあ、そういうことなら仕方がないな、うん。」


なんて、単純なんだ。
流石にここまで扱いやすいと将来が心配になってくるな。


「分かったわ、その役目はアタシたちに任せて、海斗。」

「海斗も油断するなよ。あのクマ、相当なやり手だからな。」

「言われなくとも。じゃ、合図出すまで下がっててくれ。」


そして、俺はクマに向き直る。


「よぉ、秘密の作戦会議は終わったかー?わざわざ待っててやったんだから、
せいぜいウチを楽しませてくれよー。」

「そりゃどうも。」


俺の後ろに二人が後退する。


「あっれ、てっきり3人がかりでかかってくると思ったら、テメェ1人でい
いのかよ。ちゃんと相手になってくれるんだろうなぁ?」

「ま、出来る限り頑張るわ。」


相手の風を切るようなパンチが繰り出された。
その手数も多く、一撃一撃が唸りを上げ、威力を伴っているのが分かる。
んー、やっぱこいつ相当強いな。

俺は慎重に当たらないことを心がけながら、攻撃をかわし続ける。
着ぐるみの手がでかいせいで、少しでも目測を誤ったら、即アウトだ。
あんまり分析に集中しすぎないようにもしないとな。


「うっは、なかなか避けんの上手いじゃん!いいね、お前全然さっきの奴ら
より面白いわ。けど、反撃でもしないと、ウチを退治することはいつまでた
っても出来ないぜー。」

「いやぁ、避けるので精一杯だから。」

「とか言って、喋ってる余裕があんじゃん。」

「そっちも喋ってるからだって。」

「ウチは口動かしても、手を抜いてるつもりはないんだけどなぁ!」


いや、ほんと、よく喋りながらペースが落ちないな。
才能だけに頼っているんじゃなく、修行もしているんだろう。
いいねぇ、楽しい相手だ。

まあ、それにしても確かにこのまま避けてても、隙を作るのは時間がかかる
かな。
防御のデータも取っておきたいし、少し仕掛けてみるか。


「オラオラ、これもかわしてみろよ!」


そう言って、さらに追加される拳の雨。
間隔を詰めるように、隙を埋めるように。
だが、そんなことをしたって、隙がなくなるなんてことはない。
0に近づけることは出来ても、無にするということが比べ物にならないほど、
無理難題だというのは、人の欠点とかと同じことだ。

初撃はあまり大振りなのは避けた方が良いな。
今の少ない情報じゃ、唐突なカウンターに対応できない可能性がある。


「まさに手も足も出ないってかー?」


―今だ


「よっと」


タイミングよく、わずかな隙が出来たので、少し強めのジャブを打ち込む。
それは見事に着ぐるみの意表をつき、腹部にヒットした。
だが…

ん?なんだ、この違和感は。
その正体を思考する前に体が動いていた。
バックステップで勢いよく相手から距離をとる。

思ったとおりに、相手はすぐにカウンターで腕ごと振るう、パワーのある一
撃をかましてきていた。
ほんと、咄嗟に行動してなかったらどうなってたことか。


「うっは、今のを避けちゃうなんて、さっすがに予想外だったなー。攻撃決
まったあとって、大体の野郎は安心して、警戒が薄くなんだけど、お前いい
反応すんじゃん、なに直感ってやつ?」

「いや、常に逃げることは考えておかないとな。」


さて、どうするか。
攻撃をくらわせても、全くひるませることが出来なかった。
それにさっきの感じはもしかすると…。

ともかく、これじゃあ、クリスと一子にバトンタッチする程の大きな隙が作
れねぇ。
このままダラダラ続けたところで、二の舞になるのは見えている。
小さな隙をいくら捻り出したところで無意味だ。

ならば…


「ちょっとぼーっとしすぎだぜ!」


作戦を考えている途中でクマが襲い掛かってくる。
その鋭い拳が俺の体にヒットした。


「へへっ、戦ってる最中に考え事しすぎなんだよ、バーカ!」


くそ、やっぱり凄まじい威力だな。
ある程度は体捌きで軽減させたとはいえ、十分なダメージだ。
だからこそ、痛みの分は元をとらなきゃな。

自分の体に突き刺さったその拳をがっちりと掴んだ。
そのまましっかりと拘束し、逃がさないようにする。


「な!?」

「本当だな、攻撃が決まったあとって、安心しきって、警戒が薄くなってる
からカウンターが通り易いんだな。」

「ウチの攻撃をくらって、平然と立ってやがるなんて…!くそ!その手を放
しやがれ!!」


俺のホールドから逃れようと、必死に振りほどこうとする。
我武者羅に自由になることだけを考えて、引っ張っているようだ。

このアクションを待っていた。
自分の自由を奪われれば、こういうタイプは真っ先に外そうとする。
だからこそ、攻撃を受けてでも、これはする価値があった。

相手が自分側に力を入れて、引っ張った瞬間、俺もその流れに沿うように力
を加え、上乗せする。
そして、そのまま一気に投げ技をかける。
自分と相手をかけて、増大された力はいかにも嵩張りそうなでかい図体のク
マの着ぐるみの天地を反転させ、宙へと浮かせた。


「うわっ!」

「今だ、一子!クリス!」


「とりゃぁーーーーーー!!!」
「せやぁーーーーーーー!!!」


空中で逆さまになって、満足にガードも取れない相手の腹部に、一子とクリ
スの助走をつけた強烈なとび蹴りをお見舞いする。
その勢いを表すかのように、クマの着ぐるみは吹っ飛んで、海へと着水した。
まさに水を打ったような静けさのあと、


「よっしゃああああああ!」


クラスが大歓声で包まれた。

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