小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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浜辺に立つ二人の少女。
その先にはクマの着ぐるみが海に突っ込んでいた。


「よくやったなー、すごかったぜ。」

「これで賞品はF組のものだー!」


クラスメートたちは勝利に喜び、声をあげていた。
他のクラスも終わっている様子はなかったので、1番ということもその嬉し
さの理由の1つとなっているのだろう。
最終競技なので、これで1位をとるということは、すなわち今の得点なら、
F組が総合優勝ということになる。
これだけ浮かれるのも納得だ。

だが、そんななか、声を上げず、黙ったままの者がいた。
それはたった今、敵にとどめをさしたクリスと一子の二人だった。


「どうしたんだ?勝てたのは二人のおかげだぜ。」

「ああ、よくやってくれた。」


風間翔一と直江大和がファミリーの仲間の健闘をたたえる。
だが、褒められている二人は何も応えずに、クマが飛んでいった方向を見て
いるだけだった。
皆も何事かとつられて、そちらを見る。


「ったく、ハデにぶっとばしてくれたぜー。」

「「「なに!?」」」


クラスの連中が驚きの声を発する。
そう、倒したと思った敵がまた立ち上がってきたのだ。


「くそ、やはりか。」

「そんな気はしたわ。」


一子とクリスは心配してたことが的中したようで、驚いているというのでは
なく、むしろ当然といった様子でさえいた。
おそらく、攻撃した瞬間、俺と同じような違和感を感じたのだろう。


「その着ぐるみの下、プロテクターでも入っているんでしょ。」


その通りだ。
あの着ぐるみの下には、確実に身を守るプロテクターが入っている。

本来、修行僧たちがどんなことをされても、怪我をしないようにと安全面を
考慮されたものなのだろう。
いくら、修行僧とはいえ、生徒相手に本気を出すわけにはいかないだろうし、
全ての攻撃をかわすわけにもいかないだろう。
学校行事という形式の中で、手を抜くという前提だからこその装備である。

そんなものをこちらを倒す気まんまんの正体不明の奴が乗っ取ってしまった
わけだ。
もうそれは、相手の防御力を上げるハンデにしかならない。
ものの見事にダメージを軽減しちゃってくれてるわけだ。


だが、それだけではない。
いくら、プロテクターとはいっても、所詮は大怪我に至らないようにする程
度のもので、衝撃を完全に消すわけではない。
ましてや、あの二人の助走をつけたとび蹴りをくらって、何ともないなんて
ことはありえない。

さっき、俺がジャブを打ったときに感じたもう1つの違和感。
あいつは常に自分の気で身体を覆い、防御にまわしている。
おそらく、クリスや一子も感じただろうが、明確に見えてないから、口に出
してはいないのだろう。
それもまるで、もう1枚の盾のような役割を担っている。

問題はどちらかというとこれだ。
こいつがプロテクターを越えて伝わる衝撃のほとんどを持っていってしまう。
それほどの上質な気を使っている。

だが、気になるのはこいつのような荒っぽい性格の奴が何故こんなことをし
ているのかだ。
勿論、気は攻撃にも使えるのだから、その方がこいつらしい。
それでも防御にまわすということは、何か狙いがあるのだろう。
まあ、今はそれを考えても、仕方がないか。


「正直、投げられたときはビビッたけど、みすみすそのチャンスを逃がしち
まうなんてなー、オイ。」

「なら、もう一度やるまでよ。」

「ああ、次はさっきよりも強い一撃を叩き込んでやる。」

「ざーんねーん、もうそんなチャンスは訪れないね。」

「ふっ、訪れないなら作り出せばいいだけのこと。」

「おい、一子、クリス、お前らはもう何もするな。」


戦闘態勢をととのえる二人を制止する。
こいつは色々と面倒すぎる。


「何故だ、海斗!」

「いいから。…俺は相手の弱点を見つけた。だから、任せてくれ。」

「あははっ、弱点ねー。そんなものあるっていうなら、見してほしいぜ。」

「なら、それを自分に教えろ。自分がその弱点をつく。」

「いや、口で説明すると長い。俺を信じてくれ。」

「しかし…!」

「わかった、アタシは言うとおりにするわ。」

「な、おい犬!」

「アタシは海斗を信じてるから。」

「……自分も信じて、我慢しよう。」

「さんきゅー、二人とも。絶対に勝ってくる。」


二人は俺を信じて、手を出さないでくれると約束した。
じゃあ、いっちょ頑張りますか。


「お話は済んだかよ。」

「おかげさまでな。」

「またお前一人か。なんだかんだでウチとまともに戦えてんのはお前だけだ
し、楽しいなら一向に構わないけどなー。」

「一つお願いがあるんだが、“まいった”する気はないか?」

「なんで、ウチにダメージも与えられない奴ら相手に降参しないといけねぇ
んだよ、アハハハ!」

「だよなー。」


まあ、期待なんてしてないし、一応の確認だったがやっぱ駄目か。
そりゃそうだよなー、攻撃もくらわないのに負ける要素がないもんな。


「悪いな。」

「あ?いきなりなんだ?」

「いや、先に謝っとくわ。」


たぶん、中身女の子だろうしな。
だけど、二人に絶対勝つって言っちゃたし、仕方ない。


「なに、いきなり意味のわかんねーこと言ってん…」


相手が言い終わる前にこちらは動く。
離れた相手に近づいていく。

勿論拳が飛んでくるが、今度は様子見などせず、ただかわす。
そして、すぐさま相手の身体にパンチを放った。


「…がはっ!」


それは相手にクリーンヒットして、肺の空気を吐き出させた。
クマの着ぐるみはその場でひざをつく。


「う、ウチに攻撃を当て…やがった…だと」

「気絶してねーのか、色々凄い奴だな。」

「テ…メェ、弱点とかわけのわかんねーこと…、言いやがって」


まあ、弱点を見つけたなんてのは当然嘘である。
着ぐるみにそんなのがあるんだったら、すぐ教えて欲しい。

今のは単純に気の防御を破る強さで攻撃しただけだ。
別に防御力がそれだけ高いなら、それを上回る攻撃力で臨めばいい。
ただそれだけの話。

相手がどのくらいの強さか分からなければ、力の加減が分からず、大怪我さ
せてしまうかもしれなかったので、心配だったが、どうやら意識もあるし、
大丈夫だったようだ。


「テメェ、なんつー馬鹿力してんだ…、ウチの気を貫通するなんて…うっ!」


ダメージはしっかりとあるらしく、膝だけで支えていた上体も地についた。
倒れながらも意識はあるようだがな。
なんともタフな奴だ。


「別に男なんだから、力があるのは当たり前だっつーの。お前こそ、避けと
けばいいものを、防御を過信しすぎだ。」

「うるせぇ!てめぇはウチがぜってー殺してやる、武器があれば、一瞬なん
だよ、テメーなんてな!」


非常に口は元気だが、あれをくらったら、当分は立ち上がれないだろう。


「今回は俺の勝ちだ。」


今度こそ、怪物退治、成功だ。

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真剣で私に恋しなさい! Original Sound Track ~真剣演舞~
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