小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「狩人交代の時間だ、さっさと回収させてもらうぜ。」

「な!?リュウ、なんでテメーが出てきてんだよ。」


これまた、ごっつい奴が出てきたな。
回収と言っているし、十中八九このクマの着ぐるみの仲間なんだろう。

しかし、この男はどうやら正体を隠そうとかそういう気はないらしく、ロー
ブやマスクすらなしにその素顔を晒している。
唯一、隠せそうなサングラスも額にひっかけてるくらいだしな。

その風貌はガタイのいい体格に動き易そうな黒いタンクトップ。
左肩には自己主張が激しい大きな刺青があり、指にはこれでもかというほど
指輪をはめていて、加えてさっきも言ったが、頭にはサングラス。
極め付けにこの悪そうな面構え。
いかにもな不良の代表って感じの奴だった。

だが、そこら辺の雑魚とは違うのが、こいつの気。
大抵不良なんてのは見た目だけ強そうに取り繕っている肩透かしの奴らが大
半だが、こいつはまさに外見ぴったりという感じの禍々しい気を放ってやが
る。
考えてみれば、このクマを助けに来る時点でそのくらいなのは当然か。

ていうか、地に伏しているクマと目の前の男…
非常に気の性質や雰囲気が酷似している。
同じ集団に所属しているからってのは関係ない。
ずっと一緒に同じような修行をしてきたのか、それとも…

まあ、いいか。
こいつらの関係性を探ったところで別に俺にとって、有利になるわけでもな
いしな。
しょうもないことは今は考えないにことにしよう。
それより、一刻も早く目の前の事象に対処しようか。


「おー、近くで見るとお前結構いい男だな。」

「は?」

「どうだ、この場で一発俺と…」

「いや、待て待て待て!」


え?なに、どういうことなの?
こいつはこのクマの子を回収しにきたんじゃなかったのか?
俺が勝手に早とちりしてただけ?
いや、そんなことないよね。
だって、流れ的には完全にそういう方向に向かってたもんな。
一直線だったよな?
よし、俺は何も間違っていないぞ。

で、次なる問題はこいつは今何を言おうとしたわけ。
なんか、俺が遮らなかったらゴールデンには進出できなくなるような言葉が
続いていたような気がしたんだが…。

これはもしかしなくても、あれか。
巷で噂の同性愛者っていう奴じゃないの。
マジで意味が分からん。
禍々しい気なんかより、よっぽどアブノーマルだわ。


「俺にそういう気はないんだよ。」

「ちっ、ノリが悪い奴だ。」

「別にお前の趣味趣向をどうこう言うつもりはないが、それを他人にまで強
要すんのはよしてくれ。」

「じゃ、いつも通り無理矢理やるか。」

「おいおい、落ち着けよ。俺はお前と戦うつもりはない。どうせ、お前の目
的はそこに転がってるクマのお仲間さんだろ。邪魔したり、教師を呼んでこ
ようなんて気はさらさらねぇから、安心して持ってってくれや。」

「ハハハハハ、何馬鹿なことを言ってやがんだ。」

「あ?」

「確かに本来の目的はそこに転がってるよわっちい奴の回収だ。」

「指さしてんじゃねーよ、ボケ!」

「だが、そんなことはお前を倒そうが出来ることなんだよ。だから、お前に
は俺の性欲と戦闘欲を満たしてもらわなきゃな。まあ、喧嘩相手に実力が足
りてるかどうかはこの際、抜きにしてだ。さっきも言っただろ。“狩人交代”
ってよ。お前が戦わないとか手を出さないでやるとか言える立場じゃねぇん
だ。既にお前の立ち位置は狩られる側なんだよ。」


あー、これはあれか。
もうどうあっても、戦闘は避けられないとかそういう系か。
これまた、しち面倒くさいことになってきやがったなぁ。

と思っていたら、いきなり寝転がっているクマから荒々しい語気で助けにき
た男に向かって、なにやら言い始めた。


「おい、リュウ!テメェ、勝手なことしてないで、さっさとウチを連れて帰
れ!アレはウチの獲物なんだよ、手出すんじゃねーよ。」

「そんなこと知るか、さっきまではどうだったか知らねぇが、今は俺の獲物
なんだよ。余計な口出しはすんな。敗者はちっと待っとけ。」

「誰が敗者だっつーんだよ!!今、少し立てねーくらいで負けたことにして
んじゃねぇよ。」

「立てないほどやられてんなら、立派な敗者だろーが。そんな倒れられなが
ら、言い訳されても馬鹿にしか見えないんだよ」

「んだと、リュウ!治ったら覚えてろよ、今言った事を後悔させてやんぜ。」

「ま、俺が借りは返してやるから、指くわえて見てな。」


「……おい、リュウ。」

「あ、なんだ?」

「さっさとウチ連れて帰れ。」

「だから、俺はこれから…」

「そいつ、マジで強ぇんだよ。テメーくらいじゃ、すぐには倒せねぇくらい
にな。変な自信語ってねぇで撤収命令に従え。」

「お前、自分が負けたからって、相手のことを高く評価しすぎだろ。第一、
こいつ明らかに欠陥品じゃねぇか。気が全く感じられないっつーな。いくら
いい動きをするって言ったって、気があるのとないのとじゃ、埋めようのな
い差が生まれちまうんだよ。俺はお前みたいに油断してやられるようなこと
はしないしな。」

「…もうウチはシラネェ。」


なんだよ、喧嘩か?
だが、それにしては仲の良さを感じた。

ていうか、今のやりとりを見聞きしていて、さっきのなんとなーくの予想が
ほぼ確実なものとなってしまった。
別に詮索しようと思ってのことではないしな。
まあ、気が似てることの説明もつくし、いいか。


「おっと、すまねぇ。待たせたな。」

「いや、こっちとしては永遠にクマと漫才してくれてても良かったんだが。」

「ふっ、あいつに勝てたからって調子に乗っているところ悪いが、お前のそ
の自信が単なる思い過ごしだってことを今から直々に俺が教えてやるよ。」

「そんな授業は仮病でも使って、欠席したいんだが。」

「残念なことにこれは強制参加の特別授業だ。青空教室で海までついてくる
んだから、環境はバッチリだぜ。」

「それはそれは。随分と理不尽な聖職者だな。教育委員会に知らせて、処置
を待つのもかったるいし、生徒自ら抗議でもしようかね。」

「それでこそ張り合いが出るってもんだ。」


そして、また戦いが始まる。
さながら、怪物退治の延長戦といったところだろうか。

じゃ、さっさと終わらせて、早退でもしようかね。

-59-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




真剣で私に恋しなさい!S 大判マウスパッド 川神百代
新品 \2000
中古 \
(参考価格:\500)