小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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タッグマッチが始まったわけだが、正直ほとんどの奴らは楽勝なんじゃないか
と思う。
仮にもあれだけの努力を毎日している少女。
エリートで人を見下しているような、いかにも汗臭いのを嫌いそうな一般層の
S組は相手にならないだろう。

だから、俺は隅っこで大人しくしてよう。
目立ちたくはないので、もとよりそのつもりだったのだが。
いや色々理由つけないと、一見、最低野郎だからな。
少女を戦わせて、何もしない男という現実から逃避させてくれ。

勘違いするなよ。
俺だってそりゃ、ゴーレム級が出てきたら、戦線にたつぞ。
俺が言ってんのは、ドラキーくらいは自分で対処してくれってことだ。
いつまで攻略本引きずってんだ……

はあ、言ってて虚しい。
どうせ、ゴーレム出てきても動けねえよ。
だって、目立つもの、そんなことしたら確実に注目の的だよ。

そして、初戦が始まった。

俺は目立たないようにその場を一歩も動かない。
案の定、ブーイングがとんできた。
うっせーよ、俺の勝手だろうが。

缶やらペットボトルやら、物が沢山とんでくる。
どこで用意したんだ、こんなもん。
審判は何も言わねえし……

痛っ!
誰だ、このコーラのペットボトル投げたやつは。
中身満タンで投げたら、もはや鈍器だぞ。

そんな試合とは全く関係ないものと戦っている間に勝負は決していた。
ご苦労さん。

その後、二回戦目からは諦められたのか、何も飛んでこなかった。
助かったが、男としては複雑だ。

せめて、心の中で応援でもしとくか。


………

……




トーナメントというのは、面白いものだ。
実力が必要なのは言うまでもないが、運も密接に関わってくる。
例えば、優勝候補同士が初戦であたってしまえば、自分たちの順位が上がった
も同然なのである。
そんな運がよかったのか、大した苦労もなくこの次の試合に勝てば準決勝進出
というところまで来ていた。


「では、準々決勝第一回戦を開始する、始めぇ!」


俺は初戦からそうしてきたように、開始の合図がかかっても、ポケットに手を
突っ込んだまま、フィールドの端から一歩も動かない。
そして、川神一子が薙刀を振り回して、相手に向かう。
もはや、観客からのブーイングすら起こらない。


Side 百代

「おい弟、ワン子とペアの奴はなんだ。」

「ああ、なんか得体の知れないクラスメイトでね、余りそうだったから、ワン
子が進んでペアになったんだよ。」

「あいつは何をしているんだ。」

「何もしていない。」

「それは分かる。」

「運動神経もなくて、弱いから、手は出さないんじゃない?」


大和の言うように端にいて、戦いに参加するような素振りはない。
身長だけは高いもののあまり強そうには見えない。

だが、一つ不可解なことがある。
どんなに弱い不良でも、文化系の部の女子でも、少なからず“気”というもの
を持っている。
使えなきゃ全く意味のないものだが、とにかくどんな雑魚でも微量ながらも気
を持っている。そう、そのはずだ。

だが、目の前のあの男からはその微量すら感じ取れない。
弱い云々という次元の話ではない、強くなる可能性すらないのだ。
言うなれば、コンセントが入ってない電化製品のスイッチをいくら押したとこ
ろで動かないのと同じだ。
無と有…0と1には大きな隔たりがある。
多くの人間の気を探ってきたが、こんな奴は初めてだ。

……妹は大丈夫だろうか。

Side out


川神一子が怒涛の攻めを繰り広げる。
いくら準々決勝まで進んできたとはいえ、無名のS組生徒が勝負になるはずも
なく、追い詰めたところで一気に勝負を決めた。


「勝者、川神・流川ペア!」


会場から拍手が巻き起こる。
まあ、全て一子へ向けてのものだということは最早分かりきっている。
今回の試合も俺は一歩も動くことなく終わった。
…本でも持ってくればよかったか。


「いよいよ、準決勝ね。腕が鳴るわ!」


準決勝に残ったのは、川神・流川ペア、井上・榊原ペア、直江・フリードリヒ
ペア、九鬼・忍足ペア、俺らの相手は井上・榊原ペアだ。

フィールドにあがる両ペア、ハゲと白髪女が上がってきた、濃いキャラだ。
まあ、今までの奴らに比べて強さは段違いだ。
さて、努力少女は勝てるのかね。


「ワン子、頑張れ〜」

「負けるなー、ワン子!」

「準、ユキ、頑張ってください。」

「F組の猿どもに格の違いを見せ付けてやるのじゃ。」


おーおー、流石に準決勝ともなると外野が騒がしい。
まあ、応援されてないのが4人のうち1人だけだというのは、触れまい。


「両ペア、前へ。」


学園長の言葉で場が静まり返る。
フィールド、会場全体に緊張が広がる。
ただ準決勝だからというのではない、これからぶつかるのは強大な力同士。
今までのような一方的な試合ではないのだ。
だが、二対一のようなこの状況ではそうも言えないのが悲しいところ。
それでも今までのとは全く違う、いわば本番だ。
学園長の開始の合図を俯いて待つ。

1秒、また1秒、そして…


「マシュマロたべる〜?」


意味不明な言葉が飛び出した。
視線を下から前へと戻してみると、マシュマロが白髪女から差し出されていた
のだが……え!?なに、俺になのか。
その娘は初対面の俺に嫌悪を示すことなく、マシュマロをくれるという。
なんか、地味に嬉しいが、戦闘前に機嫌をとろうったって、そうはいかない。
まったく、裏がないように見えるからって、俺は騙されんぞ。
そんな些細なことで俺の評価が変わるか、純白乙女め。

…あっさりと脳内の俺は買収されたらしい。
意外に俺って、寂しがりやなのか、孤独が長すぎたか。


「…いらん。」

「そう?ざんねーん♪」


何故、そんなに笑顔なんだ。
なんだか、この笑顔……
いや、気のせいか。


「仕切りなおすぞい。」


咳払いをする。
一度去った空気が戻ってくる。


「では準決勝第一回戦、始めぇ!」

-6-
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