小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

―あの無線の後、遠く離れた浜辺にて。


「竜、アンタ目的忘れて何やってるんだい!」

「すまねぇ、アミ姉。」

「全くウチはずっと言っておいてやってたのによー。」

「うるせぇ!担がれてる奴が偉そうにすんな!」

「んだと!」


天使と竜兵の口論が始まる。
どちらも負けたことで苛立っているのだろう。


「あんたたち二人とも黙ってな。」

「くそぉ、アイツは俺が今度ぶっ殺す。」

「もうリュウは今日負けたんだから、諦めな。アイツは最初ウチの獲物だった
わけだしな。」

「関係ねぇだろ。アイツにはかなり馬鹿にされたからな…必ず仕留める。」

「おー、お前ら張り切ってるじゃねぇか。いいねぇ。」


二人の怒りを露にした様子に釈迦堂がそんなことを言う。


「予想以上の人材だったなぁ、ホント。気が使えないのであのレベルか。底
こそ知れてるが、あれが全力って感じではねぇし面白そうな奴だ。全くあそ
こまでだと惜しいくらいだな。」

「確かに只者じゃなかったねぇ。私も武器がなかったらどうなるかってのが
正直なところさね。」

「次会ったときにでも、やってやればいいさ。」


四人はそれぞれの考えを抱きながら、その場を離れていった。



Side 天使


くそ、今日は散々だったぜ。
あの男、思い出すだけで憎たらしい。

戦っているとき、常にあいつは何か隠しつつ手を抜かれていた。
あの余裕と見下された感じが何よりも癇に障った。

確かに普通の奴よりも強いことは認めざるをえない。
そのくせ、妙に相手のことを気遣ったような態度が気に食わない。
それに何の意図があるかなんて分からないが、自分の惨めさを思い知らされ
ている行為にしか感じられない。

とにかくムカつく。
絶対に復讐してやる。
次は武器ありの全力で、あの余裕をぶっ壊してやる。


Side out



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



―同じ頃、さっきまで戦闘があった砂浜にて。


「結局どうなったのかしら?」

「まあ、いいじゃねぇか。」


目をパチパチと瞬かせる一子。
何が起こったのか正確には分からないが、言い訳を考える必要もなくなって、
ラッキーだったと感謝しておこう。


「逃がしちゃったけど、海斗が無事ならアタシはいいわ。」

「ああ、さんきゅ。」


健気な反応で返してくれる一子の髪をくしゃくしゃと撫でる。
一子は人懐っこい犬のように目を細めていた。


「えへへ……うん!」


なんだ、このどうしようもなく保護欲を掻き立てる生き物は。
いや、俺なんかを心配してくれるなんて嬉しいに決まってるんだが、同時に
こんだけ人当たりがいいと無防備すぎて、先が思いやられるな。


「おい、大丈夫だったか。」


クリスも後からやってきた。
その様子もやはり心配してくれていたらしい。


「ああ、特に怪我はしてないからな。クリスも心配かけて悪かった。」

「本当に海斗は無茶をしすぎだ。いくら強いからといっても、何があるかな
んて分からないんだからな。」

「全くだ。だけど、待っててくれたんだな。」

「と、当然だろう。約束もしたし、海斗は自分の認めた男だからな。立派な
一人の戦士を信じないなんて、自分の義に反する。」


なんか偉い仰々しい言い方をしているが、クリスの目が心配そうに俺の身体
を彷徨っているのを見れば、強がりだってことが分かる。
女の子二人に心配かけちまうなんて、ほんと情けねぇな。


「ま、誰も怪我はないし、良かったんじゃねぇか。」

「そうね。」

「ああ、同意だ。」


そんな感じで場も収まったところで、大体のクラスももう終わったらしい。
やっと、この行事も終了か。


「おぬしら、大丈夫か。」

「あ、じいちゃん。」

「怪我はないか、妹よ。」

「お姉さままで。」


そこへやってきたのは、エロジジイ…じゃなかった学園長。
……こんな奴に長という接尾語をつけるのもどうだかな。
そうなると、学園か…。
うむ、それはそれで嫌だからやめておこう。

そして、それに続いてきたのはいつかの超危険人物。
いきなり廊下で襲われたことがある女だった。
もう接触したくはなかったんだけどなー…。


「なんだか不審者がいたという話だったのでな。」

「大丈夫よ。誰も怪我とかはないわ。」


ていうか、それもっと早い段階で気づくべきことだろ。
いや、俺にとっては好都合なんだけどさ。

…ん?
なんか妙にこのジジイ汗だくじゃないか?
加齢臭のうえに汗臭さなんか重なったら、いよいよ終わりだぞ。

あ、そういや…
この競技が始まる前にこの学園長もクマの着ぐるみの中に入るとか言ってた
な。
なんでも、この隣の凶暴少女は強すぎるので、公平を期すために自分が戦う
とかなんとか…。

それで白熱してしまったわけか。
いや、それで気づかなかったとか、学園責任者としてどうなんだ。


「でも、なんかその相手、川神院の技を時々使ってきて…」

「ふむ、川神院の技とな?」

「川神の技は門外不出だぞ。それで強さの純度を保ってきたというのに…」

「それが本当だとすれば結構な問題じゃな。」

「やっぱりそうよね…」

「だがワン子、そんな強敵相手にどうやって太刀打ちしたんだ?クリスや京
と協力でもしたか?」

「え、それはかい…」

「あああーー!」


一子の言葉を大声で遮る。
絶対にこの女には言っちゃ駄目だろ!一子!


「勝手に帰ったんだよな、そうだよな?一子!」

「え?まぁ、最終的にはそうだったわね。」

「……ほーう。」

(最終的には、か。フフフ、後で根掘り葉掘り聞きだしてやろう。)

「とにかく、怪我人がないのならよしとしようかのう。あとの詳しい話は帰
ってから聞かせてもらうとして、今は水上体育祭を終わらせるのが先じゃな。」


そう学園長が締めくくり、その場は無事流れた。
はぁ、危なかった。
あの明らかに戦闘欲旺盛な女に目をつけられたら、俺に安息はなくなること
は目に見えている。

これで本当に長かった水上体育祭が終わった。

-63-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




真剣で私に恋しなさい! 初回版
新品 \14580
中古 \6300
(参考価格:\10290)