小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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―特別集会終了後


「まぁ、重い話はこれくらいにしようか。」


空気を変えるように大和が言う。
警戒をしすぎても何事も上手くいかない。


「そうだな、せっかく全員集まってるんだし出前でも頼もうぜ!この前、バ
イトで割引券もらったからな。」

「おぉー、いいなーキャップ。」

「じゃ、ボクが電話で頼むよ。」


皆さっきまでの感じを取り払うように動いていく。
すぐに部屋が盛り上がった明るい雰囲気に包まれる。
これが風間ファミリー。
様々な出来事を通じて築かれた固い絆あってこそである。


「今夜はぱーっと寿司パーティだな。」

「モロロなんかはガリ担当だな。」

「なんでさ!?」


百代の突飛な言動にモロのツッコミが炸裂する。


「いやー、なんか影が薄いとことか親近感湧くんじゃないか。」

「そんなところでガリにシンパシー感じたくないよ!」

「モロにぴったりじゃねぇか。」


からかう百代にガクトも笑いながら便乗してくる。


「じゃあ、ガクトはバラン担当でいいよな。」

「もはや食べ物でもねぇ!?」

「ちなみにモモ先輩、理由は?」

「なんかガクトのツンツンした髪型と相性よさそうだろう。」

「しかも超適当!」


なにやらコントまで始まっている。
だんだんといつもの騒がしさが戻ってきた。



Side 大和


良かった。
ちょっと重い話だったんだが、やっぱりファミリーだな。
もう日常の風景に戻っている。

京なんかは読書をしているし、クリスとまゆっちは雑談でもしているのだろ
うか。
あそこの三人はコントを繰り広げてるし、まったく平和だ。

そんなことを考えていると、不意に自分のシャツが引っ張られているような
感覚があった。
手首のあたりを見てみると、そこには隣に座っているワン子の手が伸びてい
て、くいくいと主張をしていた。


「ん、どうした?」

「しーっ!」


ワン子は自分の口に指を立て、静かにするように促してくる。
んー?
どうやら周りには気づかれたくないようだ。


「大和、ちょっと来て。」

「うん、いいけど。」


内緒の話でもあるのだろうか。
よく分からなかったが、とりあえず従うことにした。

そして行き着いた先は建物の屋上だった。
いやまあ、基地内からの移動先なんて限られてるから、容易に予想できたん
だけどな。


「ここでいいわ。ちょっと話があるの。」

「俺にか?なんだ?」


やっぱり秘密話か?
わざわざファミリーに聞かれないところまで移動しての話。
その内容ってなんだ?


「え、えっと……あのね。 ……んぅ、いざ言うとなると…」


なんかブツブツと話し出した。
ていうか、どもりすぎだろ。

ワン子のほうをもう一度見直してみる。
その顔は一目瞭然なほど紅潮しており、瞳はよく見れば潤んでいる。
唇もきゅっと結んでいて、何よりその顔は真剣だ。

これはまるであれじゃないか。
好きな人に告白をする前の女の子。
何も知らない奴ならば、この姿を見るだけで淡い期待を抱いてしまうだろう。
そんな様子だった。

だが、俺は知っている。
目の前の少女は恋はしているが、その対象は俺ではない。
流川海斗、その男に一直線である。

えーと、てことはこの様子が意味するところは…


「あのね、大和!アタシ好きな人ができたの」

「………………」

「それでその相手っていうのがね。海斗なの…」

「いや、知ってるけど。」

「えぇ!?」


いやいや、“えぇ!?”ではなくね。
こちらからしてみれば、今更って感じなんだが。
あんだけ俺たちに海斗との出来事を楽しそうに話していたうえ、態度にも露
骨に表れていたのに、逆に今まで隠しているつもりでいたのだろうか。


「アタシって大和に話したことあったっけ!?」

「ワン子の日頃の接し方を見てれば、バレバレだって。」

「バレバレ!?そんなにアタシって分かりやすかったの?」

「そりゃもう。」

「うわぁぁぁ、どうしよう。じゃあ、海斗にもばれちゃってるのかな。」

「いや、その心配はないかと。あいつ相当鈍感だし。」

「…言われてみれば、そうかも。」


二人の間に沈黙が流れる。
今この場にいなくとも干渉してくる。
それほどの鈍感さだということだろう。
ワン子も苦労しそうだ。


「それよりなんで今更言おうと思ったんだ?」

「だって、このままじゃ全然進展しなさそうっていうか。アタシ的に結構冒
険してるつもりなのに素でスルーされちゃうし…」

「あ〜…」


前言撤回。
まさに苦労真っ最中でした。
mayではなく、現在進行形なのな。


「だから、大和なら頭良くてそういうの頼りになりそうだしと思って…」

「大体分かった。」

「うん、それでどうかな?」


俺に相談するほど悩んでんだな。
にしても、相手は結構な強敵だぞ。
そうだなぁ…


「そういや、ワン子。水族館のペアチケットもらったんだろ。」

「うん、ファミリーの仲間と楽しんでこいって。」

「それでデートにでも誘ったらどうだ。」

「で、デート!?」

「水族館だったら断られることもないだろうしな。ファミリーの皆は都合が
つかなかったとか何とでも言って、デートに誘え。それでデート中とか良い
雰囲気になったら告白しちまえ。」

「こ、告白!?」


いや、同じリアクションで鸚鵡返しされても…


「確かにいきなりハードルが高いのは分かる。けど、正直ストレートに気持
ちを伝える以外にあの鈍感男に好意に気づいてもらう術はないと思うぞ。」

「さすが大和。無駄な説得力があるわ。」

「無駄は余計だ。ともかく、真正面からぶつかることだな。そのやり方のほ
うがワン子に合ってるような気もするしさ。」

「うぅ…でも、やっぱり…」

「まあ、それは最終的な話だ。すぐに告白しなきゃ駄目なんてことはない。
とりあえず、今回はそれでデートに誘うってことを頑張ってみな。」

「わ、分かったわ。何事も勇往邁進よね。」

「おう、応援してるからな。」

「うん!ありがと、大和。」


その後、ワン子は話したことで安心したのか、ファミリーの誰よりも寿司を
食べていた。
幸せに満ちた表情で。


Side out

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