小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「お前に川神院僧の修行相手を依頼したい。」

「いや、断るから。」


背を向けて、その場から去る。

ガッ


「ぐっ…」


案の定、引きとめられた。
しかも、襟首を引っ張りやがったぞ、こいつは。
服が伸びるだろうが。


「おい、こっちは頼んでるんだぞ。」

「いや俺だって、仕事を選り好みくらいするから。大体、戦う相手が変わっ
ただけで決闘とベクトルが全く変わってないんだよ。」

「く…我が儘なやつめ。」

「どっちがだ。」

「なら、奥の手だ。」

「奥の手?」

「これを見ろ。」


そうして何かを取りだす。
その見慣れたフォルムは…


「フフフ、これが何か分かるか。」

「それは…!」

「そうだ。これは“勤労にゃんこ”のシークレット、“黒子にゃんこ”だ。
聞くところによるとお前、このシリーズを集めてるそうじゃないか。」


全身黒い布で覆われつつも、愛くるしい瞳がのぞいている。
黒子というチョイス自体もレアだしな。
ていうか、可愛すぎだろ。
流石シークレット、恐ろしい破壊力だ。


「お前どうやって…。それ超レア物で俺なんていくら買っても出なかったん
だぞ。」

「ウチのファミリーのキャップはありえないほど強運の持ち主でな。一発で
引き当てたぞ。」

「まじかよ…」

「ほら、依頼を受けてくれるなら、これをやろう。」

「分かった。行くだけ行こう。」


それだけの見返りがあるなら、やぶさかではない。
もう人前でも何回も戦っているし、今更それ自体を隠すってのも無意味だ。
それにこれでこの女の気が晴れるなら、直接やりあうよりはよっぽど良い条
件で済ませられるしな。
とりあえずは様子見だ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



川神院の前までやってきた。
ていうか、そんな気にしたことなかったがデカイ建物だな。
何かの本に観光地にもなってるって書いてあったしな。
川神の1つの象徴みたいなもんなんだろうな。


「おかえりなさい、百代殿。」

「ああ。」

「後ろの方は?」

「今日の組み手の相手をしてくれる奴だ。」

「はぁ……、その方がですか。」


俺のことを一瞥した修行僧の顔は明らかに曇っていた。
あいつの心の声を表すとしたならば…
“こんな弱そうな奴が修行相手になるのか”ってとこだろう。


「まあ、詳しい話は後ですることにして、とりあえず武道場に集まっていて
くれ。」

「はい、分かりました。」


修行僧は下がるときに一度振り返り、再び俺の顔を見た。
その顔はどこかやはり釈然としない感じだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



で、武道場。


「本当に俺が相手しなきゃいけないのか…」


もう逃げられない戦いになってしまった。
ついさっき、武道場に来る前に“前払いだ”とか言いながら、にこやかに黒
子にゃんこを渡してきやがった。
まるで“ここまで来たら、戦えよ”と言わんばかりに。

まあ、体動かすのは嫌いじゃないけどな。


「流川。お前本当に武道着に着替えなくてよかったのか。」

「ああ、制服のままで構わん。」


着替えてたら、すぐに帰れなくなるしな。
終わったらすぐさま帰るぞ、報酬ももらったことだしな。

すると、さっきの修行僧が入ってきた。
いよいよか…

ん?
門の前にいた修行僧に続いて、ぞろぞろと同じような奴が入ってくる。
その数はニ、三なんてものじゃない。
点呼をとるのも面倒くさそうな人数だぞ、おい。


「おい、このギャラリーはなんだ。」

「何を言ってる、それがお前の対戦相手だ。」

「いや、だからその対戦相手以外は誰だっ…」


え?
待てよ、対戦相手がこれ?
落ち着け、早計だ。
まずは確認をとろう、そうだ、自己解決はよくない。


「えっと…俺の対戦相手って何人だ?」

「だから、ここにいる百人だ。」

「百人!?」


多いとは思ったが、そうか百人いるのか。
いや、そうかじゃねぇよ。
これが冷静でいられるかっての。


「なんで百人なんだよ。」

「よく言うだろ。百人組み手って。」

「日常生活で使うような感じで言うんじゃねぇ。そんなの特殊な状況じゃな
いと口から発せられないだろ。」


こいつがやる前に報酬を渡してきた理由はこれか。
まあ、やる前に知ったら帰ってもおかしくないレベルだよ。
流石に俺もこれは予想外だったしな。

そのとき、今まで黙っていた修行僧たちの一人が口を開く。


「百代殿、本当にこの一般の方と我々が戦うのですか。」


いや、お前は良い質問をしてるぞ。
一般人相手にすることじゃないからね、これ。
こういうのはあそこで笑ってる戦闘狂少女みたいな者専用のトレーニングメ
ニューだろうよ。


「ああ、確かにこいつは武道をやってはいないが、腕っ節は私が保証しよう。
それこそお前らなんて届かないほどだと思っている。」

「おい、お前…」


川神百代がその言葉を放った瞬間、修行僧たちの雰囲気が変わった。
さっきまで不服な様子だったのに、今はやる気にたぎっている。
というか、怒り…?

いや、そりゃそうだろ。
真面目に修行積んでる奴らが一般の奴に負けてるって言われてんだからな。
しかも、実力者の言葉だけに無視できるものでもない。
というか、相当なダメージだろうな、ここにいる全員認めているだろうし。


「分かりました。そこまで言われるならば、我ら100人全身全霊をかけて
お相手いたしましょう。」

「フッフッフ、面白くなりそうだ。」

「…まじで帰りたい。」

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