小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「これから川神院僧の修行として、模擬戦闘を行ってもらう。武器の使用は
銃、機械類、刃物、その他危険物は禁止だが、基本それ以外のルールは川神
院の方式にのっとり、なんでもありとする。敗北条件はギブアップもしくは
決められたリングから出ること、あとは戦闘不能つまりは気絶だ。ただし、
流川はギブアップ禁止とする。」

「おい!」

「ん?なんか問題あるか。」

「大有りだ。俺の安全は何が守ってくれるんだよ。」

「だって、そうでもしないとお前わざとピンチとかになりそうだからな。」


もうなんていうか、今までの行いの報いだろうな。
警戒心が半端ない。
徹底的に俺が逃げる選択肢を潰そうとしている。


「安心しろ。審判は私が務めるのだが、私から見て明らかに命や大怪我のお
それがあると判断すれば、その時点で止めてやる。わざと負けるようなこと
だけはするなよということだ。」

「はぁ、それはそれは。」


つまり、多少の怪我だったりしたら止めないってことね。
ほんと、自分基準で考えないで欲しい。


「では、始めようか。両者準備はいいか。」


まあ、しゃあないわな。


「俺はいつでもいいぞ。」

「こちらも準備できました。」


相手は100人。
さっきフィールドアウトが負けだと言っていたが、101人のファイターが
試合をするだけに、リングは川神院の特別大きい闘技場いっぱいに設定され
ており、これで場外なんて有り得るのかというくらいだった。

ほとんどの僧は木製の武器やレプリカの武器を持っていて、気合いが入りま
くっている。
対して、俺の手が掴んでいるのは空気くらいなもん。
いわゆる手ぶらという奴だね、うん。

…死ぬんじゃねぇか、俺。


「…はじめ!」


ヒュッ


「おっと…!」


息をつく間もなかった。
開始の合図がされた途端に、棍を持った二人の修行僧が同時におそいかかっ
てきたのだ。
しかも、様子見などではなく、連携の取れたしっかりとした攻撃。

相手はいうなればプロ、でもって俺はそういう見方でいうなら素人。
それでなくても、俺は初見の奴らには弱そうに思われる傾向にあるので、こ
んなに開始早々とばしてくるとは考えていなかった。

最初からツーマンセルなんて、リアルな作戦が垣間見える人数だな。
本気の本気じゃねぇかよ。
それだけあの女の言葉が重かったってことだろうな。
ほんと迷惑な挑発してくれたもんだね。


そうこうしてる間にも、相手のコンビネーション攻撃が続く。
本当に何度も修行をしているのだろう。
まさに阿吽の呼吸で二本の棍とは思えない。


「せい!」

「…っ!」


反射的にガードを行うしかなかった。
その流れのままにバックステップで距離をとる。

危ない危ない。
避けたところを的確に狙う追撃は全てかわすのは至難の業だった。
加えて一撃一撃が洗練されているときた。
こりゃ前途多難な戦いだわ。

ちらりと審判でもある女の方を見る。
俺をこんな状況に陥れた張本人はにやにや笑っていやがった。
目を細めるな、口角をあげるな。
すると、その口がおもむろに開き…


「言っておくが、時間切れはないからな。」


…悪魔が。
腹たつなー、今すぐスリッパかなんかでひっぱたきたい。

でも、流石に見抜かれてるな。
時間切れないなら、かわしてやりすごそうの作戦はボツか。
じゃあ、こっちも頑張ろうかね。
なんせ98人待ちだから。


「やはり、喧嘩が強いといっても、所詮は一般人。あなたも巻き込まれた側
なんでしょう。怪我をする前にやめたらどうですか。」

「あんたのとこの嬢ちゃんがそれを禁止してんだよ。」

「百代殿には私たちからもお話しして差し上げましょう。一対一も本来成立
しないでしょうにましてや百人組み手など、素人の方に課すようなものでは
ありません。」

「あぁ、できればそうしたいんだが、あの女が意見を曲げるとも思えないし
何より前払いされちゃってるからね。それにさ、確かにお前らは来る日も来
る日も鍛錬して、相当実力がついてんのも分かってんだろうな。」

「は、はぁ…」


いきなり何をという感じなんだろう。
そんな相手は無視して、“けどさ…”と言葉を続ける。


「自信と慢心は違うぜ。」


俺もモチベーションあげないとやってられないからね。
ちょっとは真面目にやろう。

言い終わると同時にさっき開いた距離を一気に詰める。
こちらが殴るモーションをとると、左右の二人が棍を俺に向かって伸ばして
くる。
その二本を掴み、勢いそのままにクロスさせて、互いの僧の顎を打ち抜いた。
二人の修行僧は短く声を上げたのみで、その場に崩れ落ちた。

…これで二人気絶だ。


「フフフ、瞬殺とは。やはりこうでなくてはな。」


あの女はとても満足な展開なのだろうが、こちらとしては迷惑でしかない。
そんな過度な期待はしないでほしいんだけど…。

僧たちも唖然として固まっている。
それはそうだろうな。
やる気を出していたといっても、それは別に俺に対する評価が変わったこと
を意味してたわけではない。
どのみち俺はなめられていた。

相手側もこの転がっている二人で仕留めようと思ってたことだろう。
素人相手にひけをとるなんて考えないよな。
だが、結果はこうだ。

さてと、こっからの戦いが本番だな。

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