小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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驚きを隠せない修行僧たち。
こっからが辛いとこだ。

あの二人の撃破は威圧にもなったが、同時に起爆剤だ。
川神院の者として、負けるわけにはいかないだろう。


「くっ、五人部隊前へ!」


撃破に驚いてはいたが、すぐに次の動きへシフトする。
次は五人組か。
内訳としては、木槌二人に、ヌンチャク二人、それと拳が一人だ。

ちょっとキツイな。
もう相手も本気だろうし。
五人の連携は流石に避けられる気がしない。


「覚悟!」


俺は初手の攻撃をかわし、躊躇なく木槌を持った相手に回し蹴りをきめる。
そして木槌を奪い、分解したヘッドの部分をもう一人の木槌使いに当てる。

続けざまにヌンチャクで襲い掛かってきた二人を残った棒を使って、確実に
意識を刈り取る攻撃を行う。
途中で近づいてきたもう一人にも、腹部に一撃お見舞いすると倒れてくれた。


「休息を与えるな!」


続けざまに新たな12人が来るが、数を増やせば有利になるとは限らない。
肩身が狭くなれば、クリティカルは逆にやりやすい。
ダメージはなくとも、顎にかすりでもすれば衝撃を与えて気絶させられる。
棒のリーチはありがたい。

この間、わずか数秒。
俺の周りには計19人が倒れ伏していた。


「ふぅ」


改めて前を見る。
ん?なんか人数減ってないか。
俺が倒した数より明らかに…というか


「…!」


…やられた。
五人との戦いの短い間に仕込まれた。
俺の注意が逸れた瞬間を狙って…。

結界にはめられた。
内側にいるのは俺ともう一人の僧だけ。
嫌な予感しかしない。


「私は“力の譲渡”によって、今65人分の強さを誇っています。長くはも
たない奥義ですので、逃げる場所も結界で塞がせていただきました。」


なるほど、結界を形成しているのが16人、俺が倒したのが19人。
残り全員の強さじゃねぇか。
というか、結界とか真剣すぎだろ。
それにしても逃がさないようにってことなのか、この結界は。


「手加減は出来ません故、ピンチになる前のギブアップをお勧めします。」

「な!?」


答える間もなかった。
恐ろしい速さで俺は頬を殴り飛ばされていた。
そのまま結界の壁面に背中から突っ込む。

これは本格的にやべぇ…。

65人が1人に減ったと人数的にはかなり手間は減ったが、それが1人に結
集しているのはまずいだろ。
まあ厳密にはそこまでシンクロはしないだろうが、強大であることに変わり
ない。


「今ので気絶しないとはタフなお方だ。」


また動く。
あの一撃がもう一度来る…。
せめて、死なないことを願おう。

だが、相手が殴ろうとしてきたのは俺の胸部。
それはまずい!

ドンッ

空気が震えるような重い一撃が響いた。



Side 百代


目の前で起こっている衝撃の光景。
さっきまでピンチだった流川海斗の拳が修行僧の腹の中央をとらえて、突き
刺さっている。
今まさに殴られようとしていたときの反撃。
正直、私から見ても驚異的なスピードであった。
急遽カウンターをすることを決めたような…。

というか、修行僧がここまで本気にさせられるとは…。
結界にとどまらず、川神僧の奥義まで出させるくらいだからなぁ。
術者への負担、精神の調和、様々な難題をクリアしての奥義、“力の譲渡”。

本当の意味で65対1を繰り広げる、自称一般人。
どこまでも楽しませてくれる強さだ、ゾクゾクする。


…だが、そんな興奮も一瞬吹き飛ぶような驚きだった。
あまりにもその驚きが度を越えていて、寒気すらしたもんだ。
そう、私が衝撃の光景と言っているのはそんな素早い逆転のカウンター程度
のことではない。

―川神流・蠍撃ち
紛れもなく、今放たれたのはそれだった。
相手の内臓を正拳でとらえて、衝撃を打ち込む川神院門外不出の奥義の1つ。
それを土壇場のカウンターの一瞬でこなした。

何故あいつが使えるのか。
そんなのは恐らく可能性としては大体見当がつく。

仮にも武道の最高峰である川神院の人間の攻撃を軽々かわす回避力。
そして、キャップとの川神戦役で見せた京の弓術の完全コピー。
他にも色々な場面でその片鱗を見せていた。
あいつは圧倒的に“眼”がいい。

そして、あの技はタッグマッチでワン子が使っていた。
そのときの一回きりで覚えたのだろう。
しかも、それはワン子のものよりも鋭くキレがあり、完全に自分のものとし
て扱っていた。

本当にどこから来る強さなんだ。
気もない、特に武道を極めているわけでもない、運動部なんかに所属してい
るわけでもないときた。
私が言うのもなんだが、異常だなあいつは。

85人の結集した強さは一つのアブノーマルによってかき消された。


Side out



「はぁ、危なかった。」


目の前にはさっきまで猛然と襲い掛かってきた強敵が横たわっている。
まさか、ああいう攻撃をしてくるとは…

一発目は脳を揺さぶるためにも顔を攻撃してきたのは分かる。
だから、二発目も気絶狙いの腹とかが妥当だと思ったんだが、まさか左胸部
に拳を向けてくるとはな。

何を隠そう、俺のそこの胸ポケットにはさっきもらったばかりの黒子にゃん
こが入っているのだ。
人間1人が吹っ飛ばされるほどの威力の打撃。
それをこんな小さく愛らしいグッズがくらったら、バラバラは回避できない
だろう。

俺が傷つくのはいずれ治るもんだが、物に関しては一度壊れたら再起は難題
になること間違いなしだ。
ましてや、シークレットなんて買いなおせばいいで済む話ではない。
というか、これなかったらなんで俺はこんなことしてるんだってことになる
しな…。


ともかく、残るは16人だ。
どうやって出ようか。

そのとき、急に結界が解けた。
見ると結界担当であろう16人が力尽きていた。

あれだけ高度な結界だ。
術者は相当な気を練り上げる必要があるのだろう。
そして、限界がくれば疲れ果て、戦闘続行は不可能だと。
なるほど、時間制限があるのは力の譲渡だけでなく、結界もだったってこと
か。


「勝者、流川海斗。」


悔しがる者はいない。
対戦相手の100人は全員気絶していた。


「ふっふっふ、やっぱり強いなーお前。どうだ、エキシビションマッチとい
うことで私と一戦…」

「俺、用事あるからじゃあ。」


試合も終わったし、もう用はない。
俺は捕まる前にとさっさとその場をあとにした。

-70-
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真剣で私に恋しなさい! Original Sound Track ~真剣演舞~
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