小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「ねぇねぇ、行ってきていいでしょ。ママ〜」

「はいはい。ママここで待ってるから、頼んできなさい。」

「うん、いってくるー!!」


タッタッタッタ


「狐さん、私と握手してください。」

「ああ、いいよ。」

「狐さん、僕ともー」

「するからするから。順番ねー」


俺はゲーセンを歩き回っていたはずだ。
だが、知らぬ間に沢山の子どもたちに囲まれていた。

理由は簡単。
さっきゲットした狐の面をつけていることだ。
どうやら仮面とかは子どもたちには人気らしい。
ヒーローかなんかと勘違いしているのだろうか。

このゲーセンも大きな店の中にあるものである。
そのため、さっきから買い物に来た家族連れに会うたびに子どもが近寄って
くるのだ。

なんとなく付けただけなのだが、外せない状況になりつつある。
別に外そうとも思わないからいいんだが。
騒ぎはさらに子どもを呼び、途切れることがなかった。


「ばいばーい、狐さん」

「ああ、バイバイ。」


なんとか解放された。
子どもってのはどこまでも元気だな。

離れたところでもまだ手を振って、その親はペコペコと頭を下げていた。
こちらも手を振り返しておいた。


「あ、狐さんだ!」

「……………………」


まだしばらく続きそうだった。



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よくあるゾンビ退治ガンアクションゲームの前。


「ああぁぁ!またやられた!最近のゲーム難易度高すぎなんだよ!なんだ、
このゾンビ何匹いんだよ!!!」


ガン、と筐体を殴った鈍い音が響く。


「金ばっかとりやがって…。これはウチに対する挑戦かよ。いいぜー、受け
て立ってやろうじゃん。ぶっ殺してやるよ、ゾンビども!」


見事に店側の策略にはまっているのにも気づかない。
そして、少女はコインを入れ、また銃を取る。



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やっと一段落着いた。
なんかヒーローショーの中の人の大変さが分かった感じだ。

さて、ゲームセンターに来たのはいいものの何をやろうか。
特にやりたいとか得意なものはないしな。
そもそも、今ってどんなものがあるんだ。
まあ、とりあえず一周してみるか。



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―ゾンビゲーム前

体力が赤く点滅している。
最初こそ順調に進んでいたが、後半になるとすぐこうなっていた。
そして、画面に映し出されるのは見慣れたアルファベットの並び。
血文字ででかでかと“GAME OVER”と。


「あーあ、またゲームオーバーかよ!これクリアできない設定になってるん
じゃねーのか!くっそ、何時間かかってると思ってんだ。」


クリアできないゲームにストレスが募る。
イライラするなら、やらなければいいというもっともな意見もあるだろうが、
素直にそう出来ないのがゲームの魅力であり、人間の駄目なところでもある。
まさにそれらの産物がこの少女であった。


「…はぁ、ちょっとトイレでも行って、気分転換してくっか。」


そう呟き、少女はゲームの前を離れお手洗いへと向かっていった。



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「ふーん、こんなのあるのか。」


定番というわけでもないが、どのゲーセンにもありそうな音ゲー。
昔のゲーセンは横スクロールとか格闘とかばっかでありもしなかったそうだ
が、今の普及率は相当なものだ。
俺の前にあるゲームもその類らしい。

“ドラムの鉄人”

そこには、結構本格的なドラムが置かれている。
まあ本格的といっても形の面だけであって、そんなプロみたいにごちゃごち
ゃ付いているわけではない。
だが、よく出来たもんだな。

そういや、こういうのって実際に軽い練習に使う奴もいるらしい。
ドラムなんかはその大きな音のせいで練習場所なんて限られてしまうという
理由もあるだろうが、とにかくそれだけのクオリティーが伴っているのも確
かなことだ。

よし…。
迷っていても仕方ないし、試しにやってみるか。
コインを投入して、席に着いた。



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「ったく、混んでやがったなー。」


ぴっぴと手を振り、水を払う。
女の子としてはがさつな行動だが、少女自身に気にした様子はない。


「ん?なんか人だかりが出来てやがる。おもしれぇモンでもやってのかー?」


少女は人ごみを掻き分けて、覗いてみた。


「あの兄ちゃん、すげぇぞ。」

「プロかなんかか?」


そこにいたのは、ドラムを華麗に叩く男の姿。
まさにプロ並みの滑らかかつ鮮やかな動きでスコアを跳ね上げていく。
演奏が終わると、“パーフェクト”とゲームから音声が流れる。
それと同時に周りの見物人からは拍手が巻き起こった。


「うぉーー、またパーフェクトだ!もう何連続だよ。」

「ていうか、あの最高難度をよく軽々とノーミスで叩けるよな。俺なんか端
から見てても譜面追うだけでお手上げだね。」

(へぇ…スゲェヤツもいるもんだな。)


ゲームは好きだが、あまり得意なほうではない少女は素直に感心していた。
それほどまでに圧倒的な上手さだったのだ。

それ以上は興味も持たなかったので、早々にゾンビゲームの方へと戻ってい
った。
だが、戻る途中、少女は1つだけ気にかかった。
それは…


(なんで、お面なんかしてるんだ?)



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演奏が終わる。
途端に後ろから拍手が聞こえてきた。
いつの間にか多くの人が集まってきていたらしい。


「通してもらうぞ。」


その人混みを抜ける。
人が集まってきたのは予想外だったが、ゲーム自体はとても面白かった。
やっぱりストレス発散とかになるんだろうな。
思い切り出来るのは気持ちが良い。



次は何をしようかなー。

バン、バン

どっからか、迫力のある音が聞こえてきた。
景気良く、誰かがプレイしているようだ。
見れば、ガンアクションらしい。

じゃあ、やってみるか。
プレイ中で塞がっている隣の台にコインを入れる。
ゲームスタートだ。

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