小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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ゾンビゲームを見事にクリアした俺たち。
いきなり別れるなんてことにはならず、


「あのさ、他のゲームも一緒にやってくんね?」

「暇だし構わないぞ。」

「よっしゃ!ボコボコにしたいゲームがまだまだあんだ!」


自然とこういう流れになった。
その後、2人で色々とまわり、次々にゲームを制覇していった。


「色々あるんだな、ゲームも。」


本当にクレーン1つ取っても、何種類あるのか分からない。
娯楽のものばかりでなく、カイロなんかの生活用品も入ってたりして、興味
深い。
へぇ、こんなのまであんのか。


「色々あるんだなって…、やったことなかったのか?」

「ああ、めったに来ないし、今やったのも初めてのばっかだぜ。」

「マジかよ!?めちゃくちゃ上手かったから、てっきり常連だと思ってたけ
ど、ゲームでも天才っているんだな…」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



あっという間に時間は過ぎた。


「そろそろ帰るか。結構遅くなっちまったし、送るわ。」

「いや、それはいいや。」

「けど、女の子が夜に1人歩きってのもな…。物騒な世の中だしな。」

「心配すんなよ、ウチはつぇーから大丈夫だ。」


そう言って、ヒュッと拳を突き出す。
見た目は無邪気な子にしか見えないが、武道の心得でもあるのだろうか。
とはいっても、やはり女の子。
危険なのには変わりない。

だが、同時に知らない男が家までついてくるのも嫌だろうからな。
強引に送るというわけにもいかない。
どうしたもんかと頭を働かせる。

あ、そうだ。


「ちょっと待ってろ。」

「は?オイ…」


頭に浮かんだそれを目指す。
さっきクレーンをまわっていたときに見つけた。
ワンコインで焦ることなく、それをゲットする。


「ほら、これやるから。」

「ん?なんだこれ?」


見た目はただのストラップ。
しかし、上のボタンを押せば高く響く音が鳴るという防犯グッズらしい。
こんなのまでクレーンで取れるんだからな。


「簡単に言えば防犯ブザーだ。付いていけないなら、これくらいしないとな。
あと万一、助けが必要だったらそれにワンギリでもかけな。」


俺の携帯の電話番号のメモも渡しておく。
とりあえず、俺に出来る最善だ。


「別にこんなの…」

「無事家に着けば、捨てていいから。せめて、こんくらいさせてくれ。」

「あ、ああ…」

「じゃーな、気ぃつけて帰れよ。」


これで安心と背を向けたとき、


「…ちょっと待てよ」

「ん?」


少女に呼び止められた。


「名前。お前、名前なんていうんだ?」


いきなり何を言いだすかと思えば…。
そういやお互いに名前を聞いてなかったな。


「人に名前を聞くときはまず自分からだろ?」

「うっ……」


比較的普通の返しだと思ったのだが、何故そんな渋い顔をする。
若干の沈黙のあと、


「………天使。」

「あ?」

「だから、板垣天使だっつってんだろ!分かってんだよ、自分の名前がおか
しいってことくらい。だから、言いたくなかったんだ。笑いたけりゃ、勝手
に笑えばいいだろ」

「…お前、自分の名前嫌いなのか?」

「たりめーだろ。誰でもこの名前を聞いたら、馬鹿にしやがる。」

「でも、それは馬鹿にするやつらが気に食わないだけで、お前自身がその名
前を嫌悪してるかどうかは別の話だろ。」

「な、そりゃ…」

「俺はいいと思うぜ。」

「え…。」


相手の気持ちなんて分かってやれない。
だから、自分の気持ちを述べる。


「確かにあまりない名前だし、天使って名前で結構ハードル上げてるとは思
うぜ。けど、お前は可愛い顔してんだから、問題ねーだろ。」

「かっ、かわ…!?」

「まあ顔が悪かったら、十中八九イジめられそうな名前であることは否定し
ないけどな。その点、お前は大丈夫だ。むしろ、似合ってるんじゃねーか?
小動物みてーだし、肌も白いしな。俺だって流石にブサイクが天使とか名乗
ってやがったら、殺意も湧くかもだが。」


どんどん天使の顔が赤くなるのに海斗は全く気づかずに続ける。


「それに名前って、一生持っていられるもらい物だっていうしな。別に親に
感謝する必要なんてねぇが、もしお前自身がさ、心から嫌っているんじゃな
かったら、大切にしてやったらどうだ?他人なんて気にせずよ。」

「な……なにウチに説教垂れてんだよ!何様だっつーの!別にお前なんかに
わざわざ言われなくたって、ウチは最初から他のやつのことなんて…」

「俺は結構似合ってると思うんだけどな。」

「…ぅぅっ!だから何でそんなことテメーに判断されなきゃなんねーんだよ!
さっきから言ってんだろ。他人の言うことなんて、ハナから気にしてねーっ
て!!」

「ふーん。ま、いいけどさ。俺は流川海斗だ。もう今日は帰るから。じゃあ
な、“天使”。」

「なっ………!?」


天使が硬直する。
おそらく、今まで名前で呼ばれたことなんてないんだろうな。
ていうか、頑なに呼ばせなかったに違いない。
俺には関係ないがな。

動かない天使に手を振って、背を向けた。
そのとき、後ろから


「…おい!また明日来いよ、“海斗”!」

「はっ、暇だったらな。」

「ぜってー来い。約束しろ。」

「はいはい、明日も来るさ。ならその代わり、俺より先に来とけよ、天使。
いなかったら、待たねぇからな。」

「しょうがねぇな。海斗トロそうだし、ウチが待っててやるよ。その分、ま
たガンシューに付き合ってもらうけどな。」


言葉だけ見れば、まるで仲の悪い者同士の会話。
だが、今の二人を見て、誰もそんな風には感じないだろう。
天使は嬉しそうにしていて、海斗もそれに満更ではなさそうだった。


「じゃ…、また明日、海斗。」

「ああ、明日な、天使。」

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