小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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ゲームセンターですっかり時間も過ぎて、外は暗くなっていた。
結構テンション上がって疲れたので、ゆっくり帰ろうと思ったのだが…


「おいこら、有り金全部置いていけや。」

「分かってるよなー、断ったらどうなるかってことくらい。」


穏やかにはいかないもんだ。
不良に取り囲まれていた。
いや、まあ俺が特に逃げようともしなかったからなんだが。

数はざっと10人ほど。
一般道にしては多い方か。
なんとか団ってつけてもいい人数だ。

てか、毎日不良を相手にしてる気がするな。
といっても、いつもは俺から潰しにいくのだが…。
こう疲れてるときに限って、向こうから来る。
まあ疲れてるから狙ってんのだろうが。


「兄ちゃん、聞いてんのかぁ!?」

「耳元で騒ぐな。」


食いかかってきた男を投げ飛ばす。
それがスタートの合図となったように後続どもが次々に襲い掛かる。
だが、所詮は烏合の衆。
相手の拳をかわせば、それが味方にヒットしなんとも憐れだった。
そして、一分と経たないうちに勝負は決した。


「迷惑料だ。自分たちがやろうとしてたことを反省しな。」


そうして俺は全員の財布から1人100円を徴収する。
わざわざ時間とられたんだから、このくらいの見返りは当然だ。
…いや、外道とか思った奴よく考えろ。
俺被害者、こいつら加害者、これ慰謝料、オーケー?



…それにしても。
今日のゲーセンといい、今の奴らといい、なんだか最近不良の動きが活発に
なっている。
こうして辺りを見回すだけでも、前よりたむろっている連中が多く目に付く。

こうした状況は何も今日に始まったことではない。
最近、夜出歩いてるときも異常に不良が突っかかってくる。
また、誰かに絡んでいるのをぶっ飛ばすということが多くなっている。
単純に数が増えただけでなく、治安が悪くなってきているのだ。

天使大丈夫だったかな。
やはり、改めて現状を見ると送っていった方が良かった気もする。
女の子ひとりには今の川神は少々危ない。
だが、電話番号も渡したし、防犯ブザーも持ってるし、危険は最小限に減ら
しているはずだ。
何もないことを願うしかないか…。



あれ?
前に見えたのは後ろ姿。
黒髪をまとめあげ、割と背が低いその女子には見覚えがあった。
こんな時間だが、俺の記憶が間違っていなければ…


「こんな時間に何やってる?」

「ひぁっ!」


おい!待った。
確かに後ろからいきなりではあったが、そんな声を出すな。
周りから不審者だと思われても困る。
すぐにその口を塞ぐ。


「俺だ、俺だから騒がないでくれ。」

「はいほへんはい?」


どうやら俺だと認識してくれたようで落ち着きを取り戻してくれた。
なので、こちらも口を塞いだ手をはなす。
振り返った少女はやはり知った顔。

大和田伊予。
由紀江以外に俺のことを名前で呼んでくれるもう一人の後輩。
まあ縁あって、先輩として慕ってくれているだけなのだが…。
ここだけの話、好きな男子いるらしいしね。


「海斗先輩、いきなりどうしたんですか?びっくりしましたよ。」

「いや、肩を叩いただけであんな声を出されるとは思ってなかったからな…」

「そ、それもですけど……口に先輩の手が…」

「ん?」

「いや、なんでもないんです!!はい!」


そう言って、勢いよく顔をそらした。
気のせいか、耳が真っ赤になっているように見える。

あれ、怒らせたか?
さっきの撤回。
慕ってくれてるどころか、嫌われてるかも。
てか、今はそんなことじゃなかった。


「なんでこんな夜遅くに1人でいるんだ?」

「さっきまでナイター見に行ってまして…」

「お?なにデートとか?」

「違います!!!」

「うぉ…」

「あ、すみません……」

「いや、悪かった。てっきり好きなやつと見に行ったのかと思ってな。」

「……そんなの恥ずかしくて誘えませんよ(ボソッ」

「なんか言ったか?」

「いえ。私野球好きなんで、よく見に行くんです。」

「1人で?」

「はい。最初は家族の影響からだったんですけど、今じゃ私が一番はまっち
ゃってて…」

「まぁ別にいいけど、この時間に1人はなー…」

「あははは……」


さっきも言ったが、最近は特に危険だ。
しかも徒歩だしな。
野球場に自転車ってわけにも行かないんだろう。


「んじゃ、行こうか。」

「へ?」

「女の子1人じゃ危ないだろ。家まで送ってやるよ。」

「えぇ!?でも、そんな…」

「言っておくが、断っても無駄だぞ。本当に危ないからな。」

「じゃ、じゃあお願いします。」


なんとか承諾を得て、俺たちは歩き出した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「………………」

(海斗先輩が隣に……ああ、ドキドキする)

「………………」


さっきから無言が続いている。
特に話題もないし、こうなるのは必然か。
まあ気まずいからって、1人にさせるわけにはいかないが。

こうして歩いているだけでも、柄の悪い奴が目に付く。
俺がいなかったら、襲い掛かる可能性も十分にあるんだ。


「そうだ、海斗先輩お菓子食べます?」

「お菓子?」

「はい、私つい猫食いしちゃうんで持ち歩いてるんですけど。はい、これで
す。」


そうして取り出したのは動物カステラだった。


「おぉ!」

「先輩から動物ビスケットもらいましたよね。こんなのも好きかなと思って、
お店で買っちゃいました。」


なんと健気な…
こういう気遣いの出来る子は貴重だな。


「じゃあ、遠慮なくもらうな。」

「はい。一緒に食べましょう。」

「……!」


瞬間、空気が変わる。
グイッとその華奢な身体を引き寄せる。


「きゃっ、せせせ、先輩?」

「いいから、ちょっと大人しくな。」


脇に収まった伊予を落ち着かせるように撫でる。
どうやら周りを囲まれている。
すぐに手を出すというわけではなさそうだが…。


「海斗先輩?」

「安心しろ、大丈夫だからな。」


少し待つと気配は消えていった。
どうやら狙いをつけられたわけではないらしい。
本当に最近殺気立ってやがる。


「もう平気だ。急に悪かったな。」


片腕での拘束を解くが、伊予は動かない。


「い、いえ……その、海斗先輩」

「どうした?」

「もう少しこのままでもいいですか?」

(うわ!言っちゃった)

「別にいいぞ、落ち着くまでそこにいな。守ってやるから。」


それから家に着くまで彼女は側にいた。
その顔が幸せそうだったのに海斗が気づくことはなかった。

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