小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

学校からの帰り道。
俺はあるところに向かっていた。
勿論昨日の約束通り、ゲームセンターである。

だが、さっきからゲームセンターへ向かっていると地に突っ伏した不良をよ
く見かけるのはどういうことだろう。
綺麗にそのラインはゲームセンターへ通じていて、まるで小規模なハリケー
ンでも通ったような惨状だ。
ほんと世の中不思議だらけだな。

ということで一応、店の前までは来たのだが…。
そういや昨日はずっと狐の面をつけてたんだよな。
考えてみれば、一回も俺の顔を見られてない気がする。
このまま会いに行っても、誰?ってことになるのは目に見えてる。

こんなこともあろうかと、かばんの中に面を忍ばせといて良かった。
一応つけていかないと、認識されないだろうからな。
面倒だが仕方ない。
俺は店に入る前にかばんから取り出したそれを装着した。

…子どもを回避しなければならなくなったのは言うまでもない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「うーー、おせぇなー海斗の奴…」


天使は昨日のゾンビゲームの前で海斗が来るのを待っていた。
勢いで“明日も来い”とは言ったものの、厳密に待ち合わせ場所を決めては
いなかった。
だから、無難に昨日で会った場所で待っている天使だったのだが…


(ここで待ってていいのか?ウチは。くっそぉ、心配になってきやがった。)


内心、不安でいっぱいだった。
というのも、天使はついさっき到着したわけではない。
ドキドキしすぎて、開店して間もない時間から待っているのだ。

海斗は学校があるため、どんなに早くとも午後にならないと来ない。
そんなことすら今のオーバーヒート中の頭では考えられなかった。

感じたことのない熱量を持て余している。
そのせいで天使がゲームセンターに来る途中に絡んできた不良たちは、気の
毒にもその溢れる激情の捌け口となった。
その感情に流されるまま、不良たちをなぎ倒す姿はまさに天災。
小さな台風によって、ゲームセンターへと続く道には不良が転がっていた。


「海斗……」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「海斗……」

「ん?呼んだか?」

「うぉわあああああ!!」

「うぉ!」


耳元でつんざくような声で叫ばれた。
天使を見つけたので近づいていったのだが、結構な距離まで行ってもこちら
に気づかないため、声でもかけようと思ったときに名前を呼ばれた。
それに応答しただけなのに、何故驚かれる?


「うわ!え?海斗? ……おせーよ、バーカ!!なにチンタラしてんだよ、
ったく…」


赤くなった顔でキッと睨まれる。
怒るまでになんか変な間があったんだが、まあいいか。


「これでも一直線で来たんだぞ。天使と約束したからな。」

「うぁ…… たりめーだろ、ウチとの約束なんだからよ…」

「ああ。で、どうする?今日は何するんだ?」

「昨日の続きでやりまくるぜー。全部のゲームはまだ制覇してねーしな。今
日でこのゲームセンターを完全攻略してやろーぜ!」

「分かった分かった。」


本当に楽しそうな笑顔ではしゃぐ天使に俺は頷いた。
また昨日のような時間が始まる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



だったのだが…

ムスーーーー


「おい、天使。いい加減機嫌直せって。」

「………………ケッ」


ゲームセンターの一角にあるベンチに座った天使の顔は不機嫌だった。
大体、どうしてこんな事態になっているかというと…





「次はこの格闘ゲームやろーぜ!」


音ゲーやシューティングを協力してハイスコアを叩きだしていっている途中、
不意に天使がそんなことを言った。
そういえば、今までやってなかったな。


「でも、これ対戦しか出来ないぞ?」

「確かに海斗はゲーム上手いけど、ウチもこれは結構やり込んでるから自信
あるんだ。海斗はやったことあんのか?」

「いや勿論ないけど…」

「じゃ、ウチがぼっこぼこにしてやるよ。言っとくけど、手抜いたりして言
い訳なんかすんなよ。」

「ああ…」


―対戦結果


「うわーーーん、お前ほんとなんなんだぁぁぁ!!」


俺のストレート勝ちだった。
しかも、天使いわく俺が選んだのはこのゲームで最弱といわれているキャラ
クターらしく、対戦が始まる前に“海斗そのキャラでいくのか?あっは、こ
りゃ30秒かからないかもな”とか自信満々だったのが…
ほんとに30秒かからなかった、俺が勝つのに。

俺はシュールな見た目で決めただけなのだが、最弱キャラを使う初心者にや
られるということは天使のプライドをこれ以上なく傷つけることとなった。
始まる前の態度も落差となり、ダメージ大だ。


「もう、こんなゲームやめだーー!」





はい、それで現在に至る。
どうしたもんか。
何か機嫌を直すようなものは…


「あ、そうだ。天使ジュース飲むか?」

「別に喉なんてかわいて…」

「来る途中に買ったんだけどな、まだ冷えてると思うぞ。」

「あのさ…それってなんで減ってるんだ?」

「さっき飲んじまったからな。あ、なんだったら新しいの買っ…」

「それでいい!!それ飲むから貸せ!」

「あ、ああ…」


俺の手から強引にペットボトルをひったくる。
そして、キャップを緩めたところで動きが硬直する。
じーっと口のところを見ているようだが…?


「やっぱ他のジュースがいいなら、買ってくるけど?」

「いや、これでいいって言ってんだろ!」


天使はゴクゴクと中身を飲んでいく。
その頬は何故か赤かった。


「そんな一気に飲むと…」

「ゴホッ、ゲホッ」

「ほら、言わんこっちゃない。」


濡れた口を拭ってやった。
その後、飲み物のおかげか天使の機嫌は直った。
良かった良かった。


そう、問題も解決して万事治まったのだ。
だから、今日も昨日みたいに時間いっぱい過ごすのだと、このときの俺は漠
然とそんなことを考えていたのだった。

-79-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




真剣で私に恋しなさい! 初回版
新品 \14580
中古 \6300
(参考価格:\10290)