小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「天、調子はどうだい?」

「ん、まあ普通だけど。」

「時間も経ったことさね。男なんていくらでもいる。嫌なことは忘れちまい
な。」

「心配しなくても、もうダイジョブだって。」


泣くほどのダメージを受けていた天使も日がたち、ある程度落ち着いていた。
だが、全てが消えたわけでもない。


(とにかく今は会わないようにするしかねー。自分でどうするか決めないと
また混乱しちまうだけだ。殺してやると誓ったのも事実だけど、あいつに…
海斗に持った思いも中途半端じゃないんだ。)


天使は決意を固めるようにストラップを手で包み込んだ。
それは強く、しかし優しく…



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



あれから3日。
天使は一度たりとも姿を現さなかった。

未だにその原因は分からない。
用事があるだけかもしれない、怒っているのかさえ微妙だ。
あのときの様子は1つの感情では形容しがたかった。
分かっているのは俺が面を外したときに何か天使にだけ発動したキーがあっ
ったということくらいか。


「そーーっ……」


仮面を外したときということは素顔が関係あんのかなぁ、やっぱ。
でも、俺もこの年で痴呆なんてことはない。
あんな見た目の子だったら、流石に忘れることはないと思うんだがな…。
どこかで会ったかなー…。

まあ、でも用事があるとかは楽観的すぎるか。
それなら急に帰ったあれが説明できない。
あの唐突すぎる変化は結構な事態だよな。


「……せやっ!」

「むっ」


突如、口の中に異物が入ってきた。
む…味がある、というか甘い。
舌触りはふんわりとしていて、とろけるような食感が口いっぱいに広がる。


「いきなり何だ?」

「いえ、今のは私ではなくですね…!!そうです、松風が。」

「ああ、オラはまゆっちのためなら人身御供として、役を買って出るぜー。」

「いや、松風じゃそんなリーチないから。自動的に由紀江が犯人ね。」

「あうあう…」


状況を説明しよう。
ここは川神学園の屋上で、今は昼休み。
由紀江が弁当を作ってきてくれたので来たのだが。
今さっき考え事の最中に、箸で卵焼きを食べさせられたようだ。


「てか、いきなりどうしたよ?」

「いえ、なんか海斗さんがボーッとされていたのでこれはチャンs…じゃあ
りませんでした、早く食べてもらおうと思って。」

「あー悪かったな。ちょっと考え事してた。」

「……………………」


ん?
由紀江が黙って、こちらをじーっと見つめてくる。
こういう下から見上げるような視線っていうのは意識的に行われてるのか?
そうだとしたら、駄目だぞ。
小動物的で破壊力が半端ないから。

あー、じゃなかった。
この視線の意味は流石にもう分かるようになった。


「卵焼き美味いぞ、由紀江」

「あ…、はい!ありがとうございます!」


ホント可愛い奴だね。
だって、真剣で美味いんだぞ、この卵焼き。
美味いものを美味いといって、喜んでもらえる。
なんという美味しい話なんだ。


「でも由紀江が食べさせてくるなんてな。」

「いえ、それはすみません。私なんかが勝手なことして。」

「いやいや、嬉しかったって。俺なんかのために弁当作ってきてくれて、こ
んな可愛い後輩に食わしてもらってんだから。」

「うひゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「なんてことしてくれんだよ、海斗ー。まゆっちのライフはもう0だぜ。ま
ゆっちの純情ハートにその言葉はラスボス級の一撃なんだぞーー」

「松風もいて楽しいぞ。由紀江の大切な友達じゃなかったら、家に持って帰
りたいくらいだ。」

「グハッ、そんなオラにまでダメージを!さすが、かい…と…だぜぇ」


なにをオーバーリアクションをしているんだ。
由紀江といるとにぎやかで飽きないな。
弁当も美味いし、言うことなしだな。


「ほーら由紀江、意識あるかー。」

「……ぅぅぅぅ」

「残りの弁当食ってもいいか?」

「いえ、それは私が!!」

「復活はやいね。」


何故かコントみたいになっていた。
たわいもない雑談をしながら、昼食のときは過ぎていく。


「そういえば、私総理とお友達になったんですよ。」

「タコとかイカとかにあるアミノ酸?」

「それはタウリンだぜ、海斗ー。」

「総理です、総理大臣の人とお友達に。」


かるーい現実逃避だったんだがな。
総理大臣ってあれだよな。
あのーあれだ、日本の偉い人。


「え?そんなのが日常的にありえるの?それを普通のトーンで聞いた俺はど
う返せばいいんだ。」

「なんかたまたま川辺にいらっしゃって、それで…。これも全部海斗さんの
おかげなんです。あのときは自分にこんなにお友達が出来るなんて思ってま
せんでしたから。」

「だから、それは由紀江の魅力だって。自信も持とうな。料理も美味いし、
面白いし、かなりスペック高いぞ。」

「いえいえ私などまだまだ未熟者で…」


ポンッ

ブンブンと音が鳴りそうな勢いで首を振る由紀江の頭に手を置いて、優しく
その黒髪を撫でた。


「料理の味だけはこの俺が一人前を保証するがな。」

「…ありがとうございます。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「最近ユートピアの横行がいまいちですね。何者かが片っ端から根源を潰し
ているというところでしょうか。」

「それにしても活発すぎだろ、そいつは。」

「このままでは困りますね。行ってくれますか?」

「僕にまっかせなさ〜い。」

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