小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「オラオラ!」

「だから、なんで避けてんのが俺なんだ…っての!」


天使いわく攻撃をしているのは俺の背にいる小雪ということなのだが、おぶ
っているので当然避けるのは俺ということになる。
そして、ただ避けるのとはまた勝手が違う。
通常ならば首を最小限に動かすなどして、いくらでも楽に回避できるのだが、
あくまでそれは自分1人でこそなのだ。

しかし今現在、俺はもう1人の身も預かっている。
背中の存在にも気を遣わなければならない。
つまり小雪に当たらないようにいつもより大きな動きで保険をかけなければ、
万が一ということもある。
その当然の結果として…


「はぁ、はぁ……」

「オラァ、当たりやがれ!!」

「っ!」


ゴルフクラブの先が服をかすめる。

ちっ、まずい…。
小雪を気遣うあまり、慣れない不自然な動きと無駄に大きいモーションにな
って、柄にもなく疲労がたまってきている。
これがただの不良相手なら、いくらやっても疲れはしないのだが、天使はそ
こらの実力者には劣らずとも勝る強さだ。
全員を知っているわけではないが、正直川神院の僧よりも強い気がする。

って、冷静に思考してる場合じゃなかった。
天使のゴルフクラブさばきは見事の一言であり…

ヒュッ


(ちっ…!みすった…)


女の子の攻撃とはいえ、ゴルフクラブでの一撃。
出来るだけ避けておきたかったが、まあ耐えられないことはないだろう。
そう思って、これから襲うであろう痛みを覚悟したのだが…

ガシッ

当たる寸前でその鉄の凶器が止まる。
そこに伸びていたのは自分のものではない、白く透き通るような手。


「カイトに手ぇ出しちゃだめー!」

「なっ、元はと言えばお前が…、っていうか、馬鹿力で掴みやがって。その
手を離せ!」

「小雪、何して…」


直後、俺の背中から飛び降りた小雪はその優れた脚力で蹴りを放つ。
その威力は俺も体験済み、凄まじいものだった。
いや、不意打ちにゴルフクラブでしっかりと防御をとっている天使を褒める
べきか。


「僕もカイトのために戦うぞ〜♪」

「いや、小雪ここで戦っても仕方ない。ここは逃走したほうが…」

「そうはいかないねぇ。」

「おっと!」

「ふふ、なかなかいい反応だね。」


目つきの悪い方が邪魔をしてくる。
その得物は棒。
棒と単に言ってしまうと、それほど脅威には聞こえないが、これほど応用性
のある武器もあまりない。


「流石にただ見逃がしてはくれないか…」

「当たり前だよ、私らも狩りに来てるんだから。」

「これは倒さないと進めないってなノリかな?」

「お前が私を倒すか…面白い冗談だねぇ。天!そっちの女は頼んだよ、処分
はあとで決めればいいさ。」

「ああ、この女はマジムカつく。ウチがブッ殺す! …けどアミ姉、あんま
り海斗に油断…」

「じゃあ任せたよ。私はこの男を狩る。」


(くっ、あまり離れすぎるのも良くないが、1対1のほうが都合が良いか。)


そうして、俺は目つきの悪い女と少し移動し、互いにさしの勝負になるよう
距離をとる。
2つの戦闘が始まった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


Side 天使


「ほっほーい♪」

「このヤロー!!」


またゴルフクラブと相手の脚が激突する。
相手は終始軽い調子だったのに、かなり本気だった。
その証拠にウチのゴルフ護身術と真っ向から勝負してやがる。


「うらっ!」

「ひょいっと」


気にくわねぇ…
攻撃を避けられることがじゃない。
馬鹿にしたみたいにふざけた口調がじゃない。
この女は何か知らねーけど気にくわねぇ!


「なんでテメェは海斗にあんなひっついてんだ!」


ガキン!
フルスイングも脚で受け止められる。


「関係ないじゃーん♪」

「アイツはお前の敵だろうが!」


ガキン!
攻防は収まらない。


「別にトーマを裏切るわけじゃないもん。僕はただカイトが好きだから、
信じられる大好きな人だから一緒にいたいだけ!」

「ぇ…」


ドガッ
ぶつかり合うような金属音は響かない。
天使からの攻撃は放たれず、蹴りがヒットした。
飛ばされた体は地面に倒れこむ。



今あいつは好きだからといった、海斗のことを。
敵だけど、そんなのは関係ないと。

ウチはそんな風に軽くは割り切れない。
殺すと一番最初に誓ったからそれに従うべきだと思った。
けど、予想よりも自分は海斗のことを気にしていて、時間をかけて忘れれば
いいと思った。

けど、今気づいた。
海斗のことを好きだと堂々と言ったこの女。
ためらうことなく、海斗の背中に抱きついていたこの女。
それがウチは何よりも気に食わなかった。
そして……とてつもなく羨ましかったんだ。


横たわった体に力を入れて、立ち上がる。
すぐに女のほうに走り出す。
ゴルフクラブを振るう。
それに反応するように相手の脚が出るが、こちらは振り切るつもりなんては
なからない。
フェイントを入れた武器を引き戻し、相手の体に一撃を見舞った。


「うぁっ!」


小雪の体が吹き飛ぶ。
それを見据える天使の瞳は明らかに違っていた。
吹っ切れたような輝く瞳。


迷うことなんて何もなかったんだ。
他の女が寄り添ってるだけでこんなにもムカつく。
目を合わせるだけで心臓がどきどきするし、緊張で上手く話せない。
そして、こんなにも一緒にいたいと思ってしまっているんだから。
第一印象なんて塗りつぶされるほど、海斗の好きなところを見つけてしまっ
ていた。


「いてて…やったな〜」


立ち上がる小雪に天使は叫ぶ。


「ウチだって海斗が好きだ!テメェよりもずっとな!だから、テメェなんか
に思いでも実力でも絶対に負けねー!」

「僕のほうがすごい好きだもん!誰にも負けないよーだ!」


原動力は恋。
二人の乙女が激突する。


Side out

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