小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

―一方、亜巳と海斗の方は…


「さーて、どういたぶってあげようか。」

「こっちも余裕はないからな。さっさと終わらせて、逃げさせてもらうぜ。」

「出来るもんならやってみてほしいねぇ。」


相手が構えるのは棒。
棒とはいっても、ちゃちな物ではなく、武器にカテゴライズされるきっちり
とした造りのものだ。
サイズもそれなりで、両手で構えるような長さ。
勿論それだけリーチも伸びている。
西遊記の如意棒なんかを想像するのが一番近いだろう。
流石に伸び縮みはしないと思うが…。


「小雪も回収しなきゃいけないし、やっぱ倒すしかないか。」

「ふふっ、せいぜい楽しませておくれよ。」

                       
相手の棒術が襲い掛かってくる。
それを1つ1つ慎重に避けていく。
棒術はかなり応用性がきくものだ。
払いの動作の途中で突きにシフトすることも可能。
故に避けたからといって、そのあとも一瞬も気を抜けない。


「ふぅん、避けるのは上手いと褒めてやるが、回避だけじゃあいつまで経っ
ても決着はつかないよ。」


確かにそうだ。
これではいつまで経っても勝負は終わらない、
だが、そんなのは承知のうえだ。

一見、微塵も隙がないような流れるような棒術。
本来なら、カウンターの入る暇もない。
ま、ないなら無理矢理すればいいだけだ。
他の攻撃よりも少しだけ、ほんのわずかに大振りな攻撃。
それを見逃すはずもなかった。


「なにっ!?」


瞬時に相手の攻撃をかいくぐり、その間合いを一息に詰めた。
そして放ったのは拳、狙ったのは相手の肘。
しかし、決して強くはない。
速く、正確に。


「くっ、お前何を…!腕に力が入らない。」


そう、今のは腕を痺れさせる一撃。
威力よりも衝撃を優先させた拳だ。
両手が使えなければ棒も自由自在には扱えず、技の幅も激減する。
相手がスキルが高ければ、なおさらでかい影響だ。
現に今は片手で棒を持っている始末。


「何故、たかが素人に…」

「まぁ、ただの運かな。」

(はっ!今やっと思い出した。こいつは海にいた奴じゃないか…。天と竜が
負けたあの正体不明の男。そこまで顔は近くで見ていなかったが、この強さ…
説明はつく。)

「それじゃ続行は不可能だろ。さっさと帰らせてもらうぜ。」


バン

そんな音が響いた。
見れば、俺の隣の地面から煙が出ている。


「正直、これはあまり使いたくなかったんだけどねぇ。片手になったんじゃ
仕方ないさね。」


手にしているのはいわゆるリボルバーという奴だ。
銃の中では威力低めとはいっても、あくまで銃の中の話、十分に人は殺せる。
ってか、それはずるくないか。


「今のは威嚇射撃。命が惜しいならさっさと…」


俺は話も聞かずに駆け出した。
あんなのと勝負する気はさらさらない。
小雪と合流して、さっさと逃げるほかにない。

バン バン

続けざまに二発が襲ってくる。
今度は威嚇ではない、俺が避けてるから当たっていないだけだ。
とはいっても、どうも狙ってるのは脚のようだが。
命をとろうってことでもないが、怪我は気にしないらしい。
どうあっても逃がす気はないってことか。

そうこうしてるうちに少し離れたところに天使と小雪を見つけた。


「てぃりゃあああああ!!!」

ガキン、ガキン

「うぉらぁあああああ!!!」


なんだか相当激しい戦いを繰り広げているんだが…。
それに構っている場合ではない。


「おい、小雪逃げるぞ。相手が銃出してきやがった。」

「…カイトが言うならおっけーい。」

「おい、まだ勝負は…」

「じゃあ、さっさと背中に乗れ。」


相手が銃を持ってるとなると、バラバラに動くのは危険だ。
狙いは俺に絞られてると思うのだが、万が一ってこともある。
それならば、より安全なほうを。
おぶって一緒に行動した方が俺も守りやすい。

バン

くっそ、近づいてきやがった。
牽制のつもりだろうが、次も外してくれる保証はない。


「ほら、行くぞ。」

「うぇーい」


背中に重みを感じた瞬間、俺はスタートをきった。
どこへ向かうかは考えていられない、とにかく相手の射程の外へ。


「ちっ、逃がすか。天、追うよ!」

「タツ姉はどうすんのさ、寝てるけど。」

「起こしてる間に見失っちまうね…。しかたないね、タツは置いていくよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「はやい、はやーい」


くっ、流石にそう簡単には振り切れないか。
だが、相手がなにやらスタートでもたついていたおかげで距離は結構空いて
いる。
相手も迂闊に発砲はしてこれないといったところか。

このまま走り続ければ、いつかは逃げられるだろう。
そう順調に思えた矢先、前に人影が見えた。


「なっ…」


まずい、こんな時間に人がいるとは考慮していなかった。
銃撃に巻き込むわけにはいかねーってのに。
だが、近づいて見えたその顔はさらに予想外だった。
そこにはよく知った軍人の姿があった。

-87-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える