小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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Side 大和


「なぁ、大和…」

「なんだ、ガクト…」

「世の中って不平等じゃねぇか…?」

「そうかもなー…」

「結局、俺様が言いたいのはさ…」

「あぁ…」

「あの野郎の楽園、強化されてね?」

「That’s right」


現在、2−F教室。
俺とガクトから見えている光景は、2−Sからわざわざ流川に会うためにや
ってきた榊原小雪。
そして、クリスに用があると言ってやってきたマルギッテ・エーベルバッハ。
あとはその会いに来られたという本人のクリス。

一番最初のは説明する必要もなさそうだが、わざわざ2−Fにまで来る榊原
小雪は確実に流川に好意を抱いていた。
俺の持っている情報では、榊原小雪はその見た目から人気も高いが、彼女の
友達である葵冬馬、井上準にしか興味がないため、多くの男が断念したとい
うある意味幻の物件だ。
その攻略難易度激ムズのヒロインが完全に流川の虜になっているのはどうい
うことでしょう。
それも今日になって突然。
昨日まではちょっとした前触れさえなかった。
一夜で落としたとかそういうことだろうか…。

次にマルギッテ・エーベルバッハ、
クリスの言葉を借りるとすれば、マルさん。
あの人は隠すのは完璧と言っていいほど上手い。
だが、ときにそれは仇となる。
今まではその完璧な演技で通しきっていた。
しかし、なんらかの出来事があり、感情の変化というか、気持ちが膨らんで
しまったのだろう。
この教室に入ってから2度くらい流川のほうを見た。
たった2度。
だが、今までが完璧だったためにその2度はかなり大きなものになる。
もはや、意味するところは明白だろう。

最後にクリスなのだが…。
クリスはもとより流川を好いているのは分かっていた。
しかし、本人の態度が今までとは明らかに違う。
これまでは本能で動いていたのが、考えて行動するようになったとか、表現
するとしたらそんな感じ。
予想としては恋する自分を自覚した、あるいは第三者によって気づかされた
とかそんなところかな。
流川を自分の好きな人として接しているんだろう。
そりゃ印象も変わる。

まあ、色々分析した結果…
あいつ、恋愛の本でも出したらいいんじゃないか?とか、思っていた。


Side out


海斗の人気は大和に限らず、ほとんどの者の目に明らかだった。
そして当然、困る者も出てくるわけで…


「大和!大和!」

「どうした、ワンk…!」

「ちょっと来て!!」


ドタドタと足音が鳴ったが、それも一瞬の出来事だった。
すぐにその場には静寂が戻る。
取り残されたモロとガクト。


「今のは何だったのさ?」

「ワン子が大和の手を引っ張って、強引にどこかへ連れてったな。」

「それは見てたよ!」


いまいち状況についていけていない二人であった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一子が大和を引っ張ってきたのは、屋上だった。
恋する乙女のテンプレートとなりつつあるこの屋上だが、今は単に人が少な
いということを考慮した故だろう。


「で、どうした?ワン子。」

(まあ、聞くまでもないが…)

「大和!“えまーじぇんしぃ”よ、“えまーじぇんしぃ”!!」

「無理にこの前ゲームで覚えた言葉を使おうとするな。」

「海斗が…海斗が…“えまーじぇんしぃ”よ!!」

「一回落ち着け。ワン子、深呼吸しなさい。」

「すぅーーー、はぁーーー。」

「で?もう一回ゆっくり話してみな。」

「うん、あのね…なんか海斗のことを好きな人が増えてるような気がするの
よ、気のせいだったら全然いいんだけど…」

「まあ、確実に増えてはいるね。」

「やっぱり!?みんな、海斗の魅力に気づき始めちゃったんだわー!」

「でも安心しな、ワン子。本人はそのことについて、微塵も気づいてないか
ら。お得意の鈍感スキルで。」

「それは同じ海斗に恋する身として素直に喜べないわ……」

「まあ、だからこそ全員にチャンスがあるんだ。あの鈍感野郎にはもっと直
接的な表現でいかないと効果ないと思うぞー。」

「直接的って?」

「だから、例えばストレートに“好き”って告白とかな。」

「こここ、告白!?」

「いや、例えばの話だから。いきなりそんな高いハードルは無理だろ。そし
て、それは他の奴らも同じだから、現在の状況が動かない。逆に言えば、誰
かがそんなことすりゃ、そいつが確実に大きくリードすることになる。」

「ダメじゃない、そんなの!」

「いや、だから言っただろ。皆、そんな度胸はまだない。」

「あ、そっか。なら…」

「けど、あの榊原小雪はしてもおかしくないな。」

「ちょっと!!」

「落ち着け、だから先に行動すればいいだろ。」

「先に行動って、やっぱり告白…」

「そんな度胸がないのは俺も知ってるから…。そうじゃなくて、ワン子は切
り札を持ってるだろ。」

「切り札?」

「そう、水族館のチケットっつーな。」

「え、これ?」


そう言って、取り出される一枚のチケット。
かつてビーチバレーの賞品であったそれが一子の手に握られていた。


「ちょうど明日は休みだ。」

「そうだけど?」

「それで流川をデートに誘え。」

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