小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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Side 一子


うぅ、緊張するわ…。

今日、アタシはいつもの通り登校して、海斗とちょっとでも多く話せたらい
いな〜なんて、お気楽に考えていた。
でも、海斗の周りは急激に変化してた。
知らない2−Sの生徒はいるし、クリの行動もなんか変わってるし。
あいさつはいつものようにしてくれたけど、絶対に海斗と話すチャンスを半
分くらい持っていかれてるわ。
このままじゃ海斗の彼女どころか、友達としての立ち位置も危ないわ!

そう、分かってはいるんだけど…
やっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしいのよ!
遊びに誘うのだって大変だっていうのに…
でも、せっかく大和が協力してくれたんだわ。
うぅー、でもこれは…





「それで流川をデートに誘え。」

「え!?どゆこと、デート!?」

「お前は初めて聞いたようなリアクションで誤魔化すな。」

「だってぇ…」

「この前の特別集会のときも助言しただろ?それをお前はぐずぐずぐずぐず…
いつまでやってる気だ。」

「いや、アタシだって誘おうと…」

「誘えていないのが事実だ。」

「…返す言葉もないわ。」

「俺が思うに、日時をどんどんと先延ばしにするから、目の前のことから逃
げてしまうという結果に行き着く。ならば、即行動。明日デートに行ってく
るんだ!」

「でも、そんないきなりは無理よ!」

「何度も言うようだが、いきなりであることに意味がある。どうせワン子の
ことだから、デートに行く準備は出来てるのに誘うのをためらって、無駄に
なってるってとこだろ。」

「うっ…!アタシは単純だからみたいに全部知ってるような言い方が悔しい
けど、しっかり見抜かれてるから反論できないわ…」

「とにかく行動だ。今日のうちに誘うんだぞ。」

「わ、分かったわ。」

「あ、言っておくけど、遊びみたいな体で誘ったらダメだからな。
ちゃんとデートをしようって言って誘うんだぞ。」

「え!?ちょっと待って、そんなの聞いてないわよ!!」

「いや、今初めて言ったしな。だから、何度も言うようだけどさ、ワン子は
流川に少しでも意識してもらいたいんだろ?他の子たちに負けたくないんだ
ろ?今日一日を見て危機を感じたから、俺に相談したんじゃないの?」

「そ、そうだけどさー」

「それなら一発勝負に出てみなって。別にそこで絶対告白しろとか言ってる
わけじゃないんだからさ。」

「…うん、大和もアタシのために考えてくれてるのよね。…でも、断られた
りしないかしら?」

「それは大丈夫だ。」

「どうして?」

「ワン子が誘うんだから、一緒に行ってくれるさ。」

「うぅ…そんな根拠のない応援じゃ自信ないわよぉ。」

「…正直に言うとだな、ワン子どうこうではないんだが絶対大丈夫だ。行く
場所どこだか言ってみ。」

「…水族館?」

「そう水族館だ。動物大好きなあいつなら、本当に大事な用事でもない限り
断ることはありえないだろ。」

「……説得力があるわ。」





なんだかんだで大和も協力してくれてるのよね。
迷ってる場合じゃないかも…
早くしないと、約束できないし。
そうよ、勇往邁進!
アタシだってやるときゃやるわ!


Side out


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


はぁ、ゲーセンで結構遊んでしまった。
何か食って帰ろうか…

ん?携帯にメールか。
そんなに来るほうではないのだが…誰だ?
携帯を開いて見てみる。


「なんだこれ?」


書いてあったのはたった一文。
“校門前に来て”
これはどういう意図なんだ?
行くことは構わないけど、用なら電話でもすればいいのにな。
この文面にしても一子なら口頭で伝えそうなものだ。

疑問に思いつつも、俺は待たせないように急ぎ足で向かった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


校門前に立つ1人の姿。
もうほとんどの生徒は下校していて、その光景は目立ったものだ。


「よう、一子。待たせたか?」

「あ、海斗!いや全然待ってなんかないわ。」

「それで?なんで呼び出したんだ?」

(ここで迷ったら、言いにくくなるわ!)

「海斗!アタシと明日デートして!!」


……は?
今なんて言ったんだ、デート?


「え…俺とか?」

「そう海斗と一緒に水族館に行きたいの!」


そう言って、差し出されるチケット。
それはビーチバレーのときの物。


「それは本当にファミリーとってことであげたんだぞ?俺に遠慮してんなら…」

「アタシは海斗がいいの!!」


一子が叫ぶ。
なんか今日はいつもより押しが強いというか…。
俺としては水族館いけるのは嬉しいし、一子が相手なら尚更だ。


「じゃあ行くか、明日。」

「えっ!?ほんと!?」

「なんで誘ったそっちが驚いてんだよ…」

「そ、そっか。そうよね。」

(勢いで言っちゃったけど、オッケーされちゃった!どうしよ、どうしよ!)

「じゃあ、待ち合わせはどうするんだ?」

「え、待ち合わせ?そっか、そういうのも決めなきゃよね…」

「一応確認だけど、一子が誘ってきたんだよな。」

「えーっと、9時……じゃなくて、11時!」

「分かった。それじゃ明日、その時間に駅でいいか?」

「う、うん。」


二人の間に沈黙が流れる。
気まずいとかではないんだが、一子との間のこの雰囲気は新鮮というか…。
不思議な感じだ。


「じゃあ、また明日な。」

「あの、海斗!明日楽しみにしてるから!」

「……俺もだ。」

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