小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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―デート
日時や場所を定めて異性と会うこと。
広辞苑より抜粋。

昨日、一子からいきなりデートに誘われた。
あまりに突然だったので、驚かなかったといえば嘘になる。
まあ、一子としてはそんなに深い意味はなかったのだろうが、通常これは恋
人同士の間でとりおこなわれるものらしい。
そりゃ予想外にも程がある。
まあ、仲良くしてくれるってことだろうな。

ということで、男は女を待つもんだ。
待ち合わせ場所の駅には15分前に着いている。
まだ姿はないので安心だ。

さて、大人しく待ってるか。


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Side 一子


今日は待ちに待ったデート。
そんなことも言いたかったんだけど、なんというか自分の意気地のなさのせ
いで、昨日約束からの即デート。
とても待っている余裕なんてなかった。
昨日必死に悩んで、時間ないなりにちゃんとしたつもり。
そして、何が起こってもいいように1時間前には待ち合わせ場所に到着。
…のはずだったんだけど、


「もう!」


準備してたら、あっという間に時間は過ぎて、遅れちゃったわ!
まだ走れば、間に合うかもしれないけど…


「でも、ちょっと走りづらいし…」


うーん……そうだ!
こういうときこそショートカットよ。
日頃の修行の知識で近道を通ればおっけーね!

人生初デート。
絶対に悔いの残らないよう、成功させてみせるわ!!


Side out


―路地裏


「なんかつまんないっすねー。」

「ウダウダ言ってんじゃねぇよ、皆そうだ。暇なら一発やるか?」

「いや…それは遠慮しときます…」


ダッ


「ん?今のツラはどっかで……あぁ、確かあいつの…」

「どうかしたんすか?」

「おい、なんだか面白い休日になりそうだぞ。」


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現在の時刻、11時30分。
待ち合わせ時間から30分も経った。
俺も多少待つのは覚悟していた。
30分だって実際には大したことないのかもしれないが、あの一子がここま
で人を待たせるってのも違和感だ。

うーん、どうせなら川神院まで迎えに行ってみるか。
このまま待つよりか賢明だろう。
そういうわけで俺はすぐさま川神院に向かった。


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(よっし、このまま行けばなんとか間に合うわ!)

「ちょっと待ってもらおうか、お嬢さん。」


ぞろぞろ


「何なの、アンタたち…」

「まあまあ、そんな構えんなって。」

「悪いけどアタシ急いでるから、通して欲しいんだけど。」

「そっけねぇなあ、ちょっと遊ぼうぜ。」

「邪魔するなら、容赦しないわ!」


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数分後、到着した俺は門の前を掃除していた修行僧をつかまえる。


「おい、ちょっといいか。」

「これはこれは海斗殿、どうされましたか?」


この海斗殿という意味わからん呼び方。
どうやら、この前の百人組み手で勝ったことが起因しているらしい。
やめてくれと一応は言ったのだが、無駄なようだったので俺も気にしないこ
とにしている。


「一子をちょっと呼んできてくれないか?」

「一子殿ですか?一子殿はいませんね、出かけてしまわれました。」

「ああ、そっか。入れ違いになっちまったか…」


まあ、それならそれで今から全速力で戻ればいい話だ。


「あの誤解されてるようですが、一子殿が出たのは11時前ですが…」

「なんだって?」


11時前に出たというのはおかしい。
この川神院から駅までは20分かからない。
そして、俺は11時30分過ぎまであそこにいた。
にもかかわらず、一子の姿は確認できていない。

いきなり嫌な予感がして、一子の携帯にコールする。
大丈夫だ、あの短い距離の道を迷ってるとか、困っていたおばあさんを助け
ていたとか、そんなオチだろう。
そのような答えを期待して、相手が出るのを待つ。
だが…

“ただいま電話に出ることが出来ませ…”


「くそっ!」


何があった。
なんで電話にも出れない、姿が見えない!
頭では大丈夫だと思っているのに、なんでこんな胸騒ぎがするんだ。


「おい!一子がどっち行ったかとか分かるか?」

「どっち行ったかというか、一子殿はとても急いでいるようでしたので、お
そらく近道とか使われたのではないかと…」

「分かった、恩に着る。」


俺は付き纏う予感を振り払い、一子のもとを目指す。
とにかく早く…!


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駅までの近道で通るっていったら、この路地裏くらいだろう。
俺は総当りで捜していた。
一刻も早く一子に会うために。

そこで俺はあることを感じた。
それは数人の気配。
こんなときはどんな手がかりでも頼りにするしかない。
あっちの方向からだ。
俺は全力で駆ける。


「…………………は?」


向かった先には確かにいた。
俺のさがしていたポニーテールの少女がいた。
そこにいた。
寝転がっていた。








―血まみれの姿で。

-95-
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