小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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俺がずっとさがしていた少女。
今日一緒にデートをしようと言ってきた少女。
川神一子は俺の目の前で血の海に横たわっていた。

目に見えた現実だけが、脳内に箇条書きのように集められてゆく。
だが、俺自身は全くそれらについていけてなかった。
この状況はなんだ?


「一子?」


なんで、ぴくりとも動いてくれないんだ。
なんで、俺の問いかけに反応してくれないんだ。

その着ている服さえも血にまみれている。
それは普段の一子にはあまり見られない白いワンピース。
一子はスカートは履かないイメージがあったのだが、オシャレをしてきてく
れたのだろうか。
これじゃあ、あまり走ったりは出来ないだろうな…。
しかし、その清楚な感じが漂う純白も溢れ出る赤に染められていた。

そこで俺は初めて周りの状況に気づく。
今まで一子しか見ていなかったが、周りには数人の男たち。
しかも、その中の1人には見覚えがあった。
水上体育祭で乱入してきた男。


「お前らがこれやったのか…」

「お前なんてつれねぇな、海で仲良くした仲じゃねえかよ。お前じゃなくて、
板垣竜兵って名前だっつっただろ。いや、あのときは言っちゃダメだったん
だっけか?まあ、どうでもいいか。」

「質問に答えろ。これをやったのはお前か?」

「はぁ、そうだぜ、ナイフでぐさっとやったら一発だったぜ?そいつはなん
か動きにくい服なんて庇いながら戦いやがって、可笑しいったらなかったぜ。」

「・・・・・」

「ちゃんとショック受けてるようで良かったぜ。お前への復讐なんだから、
そうやってダメージ受けてくれないとやった甲斐がないしな。それにしても、
すぐ駆けつけやがって、こんなに上手くいくとは思わなかったぜ、ハーハッ
ハハハ」


正直、自分が怒りでキレないのが不思議だった。
俺のせいで一子はこんなことになったっていうのか。
その言葉は耳に届くが、俺には何の感情もない。
というか、何も考えることが出来なかったのか。

ただ、一子が倒れている。
そのことを見て笑っている者がいる。
それを認識した瞬間、俺の中で何かが崩れる音がした。
ひとたびの崩壊は全てを巻き込み、瓦解させる。
そこで俺の意識は暗闇に包まれた…


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ハーハッハッハ、意気消沈ってやつか?やっぱり自分のせいで仲間を傷つ
けちまうなんて最低だもんなあ。」

「……………はは。」

「あん?頭でもおかしくなったか?」

「・・・・・・・・」

(なんだ?さっきまでとは様子が…)


海斗はそれ以上は何も語らずに竜兵へと歩を進めてゆく。
歩調は糸の切れた人形のようにゆっくりとしたものであったが、一歩一歩に
は目に見えぬ威圧感があった。

数は30対1ほどの圧倒的な差があるにも関わらず、まるで力関係のうえで
の有利などないように。
その場にいる者に緊張が走る。
明らかなイレギュラー。
それに竜兵は飲み込まれず、素早く対応しようとする。


「何ぼさっとしてる!あいつも同じ目にあわせるぞ!」


指示が飛び、5人ほどが海斗に向かおうとする。
しかし、それはかなわなかった。


「………どけ。」


ただ一言、言い放つ。
だが、それは引き金に過ぎない。
直後に襲う強烈な殺気。

襲い掛かった者は勿論、周りで様子を見ていた者までが次々に気絶していく。
よく鋭い殺気のことを首筋に刃物をあてられたようなどと表現することがあ
るが、これはそれ以上。
まるで刃物で直接傷を作られているかのような殺気だった。


「な、なんだこの殺気は…」


竜兵ほどの実力者で意識を保つのがやっとだった。
その腕には鳥肌が立っている。

本来、気というのは攻撃にも転用できる優れものだ。
離れた敵を攻撃するなども、熟練者になれば造作もない。

しかし、殺気は違う。
殺気は本当に漠然とした形なき物である。
そこに物理的な攻撃性は備わっていない。
殺気を飛ばしたところで基本は脅かしになればいいほうである。

だからこそ、竜兵はその正体が分からない。
相手には気がないというのは確実。
そして、今感じたのも紛れもなく殺気。
ならば、何故自分以外の者が気絶している?


「くそ…調子に乗るなよ!!」


放たれる真っ直ぐな拳。
それは恐れや迷いはなく、スピードもパワーも十分の攻撃だった。
だが、それはいとも簡単に手首を掴まれて、阻止される。
しかし、今の海斗はそれで終わりではなかった。

ゴキッ


「ぐああぁぁぁ!!」


どこか前戦ったような感覚でいる竜兵を激痛が襲う。
掴まれた手首をそのまま折られていたのだ。
握っていた手に力を込められただけで竜兵の手首は粉々に砕けた。
その行動に躊躇はなく、情けはなかった。


(こ、こいつ…)


竜兵に一息つく間はなかった。
続けざまに海斗は竜兵の顔面を正面からわしづかみにして、思い切り地面に
たたきつけた。
硬いコンクリートが竜兵の後頭部に激しい痛みを与える。


「お前…男が好きなんだったよな…」


仰向けで倒れる竜兵に海斗は語りかける。


「踏んでもらって興奮でもすんだろ?俺がやってやるよ。」


その足は空中でストップされる。
そう、竜兵の急所の真上で。


「お、おい、やめろ!やめてく…」

「サービスだ。」


その足は一切の躊躇いなく、トップスピードで振り下ろされた。
当然狙いが外れるはずもない。


「がああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


まさに絶叫。
竜兵をこの世の物とは思えぬ痛みが襲う。


「どうだ?自分の大事なもので償いを受けた気分は?」


“滑稽だ”と海斗は笑う。
その姿はもはや人間としての情けの欠片もない。
まるで冷酷無慈悲の悪魔のようだった。

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真剣で私に恋しなさい! Original Sound Track ~真剣演舞~
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