小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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Side 一子





アタシが裏路地を通っている途中、いきなり沢山の男が出てきた。


「ちょっと待ってもらおうか、お嬢さん。」

「何なの、アンタたち…」

「まあまあ、そんな構えんなって。」

「悪いけどアタシ急いでるから、通して欲しいんだけど。」

「そっけねぇなあ、ちょっと遊ぼうぜ。」

「邪魔するなら、容赦しないわ!」


こんな不良たちなら薙刀なしでも十分に戦える。
そう軽く考えすぎていた。


「おらおら!」

「はっは、逃げんなよ!嬢ちゃん。」

「くっ…!」


思った以上にこの服動きにくい。
いつもはスパッツだから動きやすかったけど、初めてのワンピースだから…。
もう!海斗に可愛く見てもらいたくて、着てきたのにこんなことになるなん
て…!

それにただの不良だと思ってたのに、意外に強い。
そのうえ、なんて数なの!
このままやっても、完全に不利だわ。


「とりゃっ!」

「ぐっ、てめ…」


アタシは作戦を変えて、砂で目潰しをする作戦に出た。
相手に向かって、蹴り上げる。


「この、調子に乗るな!!」

「おい、そこまでは…!」

「……え……?」


私に刺さる一本のナイフ。
最初は驚き、痛みはあとからやってきた。
てっきり数に任せて襲ってくると思ってたから、武器の存在に気づけなかった。

じんわりと痛みは広がっていく。
傷口は痛いというより熱かった。
視界は急にぼんやりとしてくる。
傾く世界に自分の体が倒れていくのが分かった。
そこで遠ざかっていく意識。

どうなったのか、分からない。
目も開けられない。
今こうやって考えているのは本当に自分なのか。
意識があるのかないのかも分からないなか、心の中の人を呼んだ。
大切な人の名前を。


「か…いと……」





「ほら、着いたぞ。」

「あ……」


海斗にいわれて前を見ると、いつの間にか川神院の前まで来ていた。
ここまであんまり話せなかった。
海斗の背中で緊張したとかいうのは抜きにして。
ちょっと、海斗の様子がおかしい。


「じゃ、俺はもう帰るから。」

「あ、うん。海斗、また今度絶対行こうね!」


海斗は答えない。
ていうか、聞こえてないみたい。
さっきからこんな風に、何か考え込むように上の空になってるのが多い。
話を聞いているような聞いていないような軽い感じはいつものことだけど、
何かそれとは違って海斗らしくない。


「海斗!」

「あっ…なんだ?悪い、聞いてなかった。」


やっぱりだ。


「だから、今度また行こ?水族館。」

「………ああ、また今度な。」

「うん…。」


そのまま海斗は背を向けて、歩いていってしまった。
アタシの勘違いかもしれない。
だけど、海斗の返事になんか心がないような気がした。


「はぁ…」


でも、今アタシが海斗に言ったって、意味ない気がする。
色々海斗は不思議だけど、あんな海斗は初めてだ。
また明日、海斗と話せばいい。
そう決意をして、家に入った。


Side out




Side 百代


「おー、妹帰ったか。」

「あ…お姉さま。」


廊下を歩いていたら、前から来たワン子に会った。


「どうだ?デートは楽しかったか?」

「あははは……ダメだったかな。ていうか、行けなかった。」

「どういうことだ、それは?」

「なんか病院いってたら、時間なくなっちゃって…」

「怪我でもしたのか!?」

「ちょっとナイフで刺されちゃって…、でももう大丈夫だから。海斗にもう
病院に連れてってもらって傷はふさがったし…」

「ナイフでだと…?ちょっと見せてみろ!」

「う、うん…」


ワン子にその怪我をしたところを見せてもらうが…


「傷口はどこにあるんだ?」

「だから、それはもう治って…」

「いや、そうじゃなくてだな。」


縫いあとどころか、傷があった場所も分からない…。
ほんとに病院で手術をうけたのか?


「どこの病院で見てもらったんだ?」

「それがアタシずっと眠ってて、気づいたら海斗の背中で運ばれてて…」

「……そうか。」


それじゃますます病院に行った可能性は低くなる。
こんなに綺麗さっぱりなくなるなんて普通ありえない。
これじゃまるで………。

私の“瞬間回復”だ。


Side out


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


もう日は落ちていた。
俺は家に帰ろうと暗い通りを歩く。


「ふっ、さがしたよ。」


その道を塞ぐ者。
それは忘れもしないあの夜の女。
確か名前は…


「亜巳とかいったか?」

「よく覚えてるねぇ、海斗。」

「そっちもな。」

「私は天に嫌というほど聞かされたからさ。」

「で?また俺を倒そうってか?」

「今日はそんなんじゃないよ。話し合いに来たのさ。とはいっても、もしも
のときに用心棒はつけてるけどね。」


そして現れたもう一人。


「やっほー。海斗くーん。」

「次女の辰子だ。ちなみに天はうるさいから連れて来てないよ。」

「はぁ…で?何の話し合いだ?」


そこで亜巳がパソコンのようなものを取り出す。


「これを見な。マロード、うちらの雇い主からメッセージを預かってる。」

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