小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「これを見な。マロード、うちらの雇い主からメッセージを預かってる。」

「マロード…」


あいつらの雇い主ってことは、小雪の言っていたこの事件の元凶。
葵冬馬のことだろう。
そいつが直接、俺にメッセージっつーことか。


「じゃ、再生させてもらうよ。」


そして、亜巳がボタンを押した。


「こんにちは、海斗くん。」


意外にも聞こえてきたのは葵冬馬本人の声だった。
あそこまで隠してたっていうのにな…。


「ボイスチェンジャーなどは今回は使っていませんよ。どうせ海斗くんのこ
とですから、私の正体なんて遅かれ早かれ見抜くとは思っていたのですが、
まさか刺客をおくって交戦させた初日に見破ったとは…いやはや恐ろしいで
すね。まあ、このほうがお互いに腹を割って話せますし、ちょうど良かった
んですけどね。」

「なるほど、マイナス点も引きずることなくさっぱり諦め、逆に前向きな方
向へと利用することにすぐ方針を変えるか。流石、学年主席らしい賢い選択
だな。」

「そんな大層なものではないですよ。臨機応変は人と接していれば、自然と
誰でも身につきます。特に私は女性と色々交流がありますから。」

「さりげなく自慢を話してんじゃねぇ。謙虚なのか横柄なのか、どっちか一
方にしやがれ。」

「私はいわゆるバイですから。色んな意味で両刀使いなんですよ。」

「なんの理由にもなってないだろ……ん?」


さっきから妙に会話が成立している。
というか、これは完全に…


「おい、これ生で通話してるだけだろ。」

「そうですが、何か?別に録画の映像だとは一言も言っていませんよ。」

「お前の部下が“再生”とか言ってたぞ。」

「それは私が頼みましたから。」

「やっぱお前の仕業かよ!」


こいつ、おちゃらけているというか。
まるで悪事の中心人物とは想像がつかない。
真面目に話そうという気はないのだろうか。


「俺はお前の敵なんだろ?排除しようとしてきた張本人なんだしな。それな
のにそんなふざけた態度で話してていいのかよ。」

「別に私からしてみれば、計画の邪魔になっていたのがたまたま海斗くんだ
ったというだけですからね。立場的にはそうかもしれませんが、敵というよ
り…私は海斗くんのこと大好きですからね。」

「うわ……」


マジの寒気が走った。
なんか、最近男を好きになる男って流行ってでもいるのか。
もしそうだとしても、そんな流行、さっさと断絶しろとしか思わんが。


「そんなイカれた性癖はないからやめてくれ。」

「まぁまぁ、最初は誰でもそうですよ。私といることでゆっくりそれは改善
されていきますから、安心してください。」

「完全に改悪だろーが。こんなしょーもない話はどうでもいいんだよ。本題
があるなら、さっさと話してくんねぇか?」

「…そうですね、これ以上はぐらかしても仕方ありませんし。」


そこで声色も少し変わる。
一旦、呼吸をととのえ話し始めた。


「“常夜”という場所は知っていますか?」

「……っ……」

「というか、知っていますよね。海斗くん、あなたはそこの出身じゃないん
ですか?」

「……それに俺が答える必要があるのか?」

「否定はしないんですね。沈黙や質問返しは肯定と受け取らせてもらいます
が…?」

「お前ほど頭のきれる奴がそういう情報を引き合いに出して、駆け引きに使
うってことはある程度裏は取ってんじゃねーのか?それにここで俺がぐちぐ
ち否定の言葉を並べたって、お前にさらなる情報を与えるだけだろ。」

「流石、海斗君ですね。短い間で随分と賢い返しです。やはり、一筋縄では
騙せませんか。」

「で、どうなんだ?誰から仕入れた。」

「ふふ、海斗君には敵いませんね。では、話しましょうか。近々、この街で
“カーニバル”という催し物が開かれるんですよ。」

「“カーニバル”?」

「沢山の不良、悪人が集まる大規模のパーティですよ。その参加者にたまた
ま常夜出身の人がいましてね。多少のお金とカーニバルでの行動の自由を認
めただけで情報を提供してくれましたよ。」

「常夜の奴がこっちの世界に出てきたっていうのも驚きだが、よくそいつと
交渉になんて持ち込めたな。今、お前の命があるのが信じらんねーな。」

「私にはそれはそれは頼りになるボディガードたちがいますから。」

「そいつから良くピンポイントに情報を聞きだしたお前もお前だが。」

「えぇ、私もまさか一発でヒットするとは。本当に有名で助かりましたよ、
ねぇ“死に神”さん?」

「! へぇ、本当に嘘なんかじゃないらしいな。で、そんなことだけ言うた
めに俺に接触したのか?」

「まさか。私は海斗君にカーニバルで味方になってほしいんですよ。」

「なんだと?」

「勿論、ただじゃありませんよ。海斗君が味方になってくれれば、平和な学
校生活は保証しますが。どうです、私たちについてくれませんか?」

「それは他の奴にバラすっていう脅しか?」

「別に私はなんとも言っていませんよ。ただ味方についてほしいと、だって
海斗君は常夜の出身なんですよね?」

「ああ、確かに俺が常夜から来たのは間違いない。」

「でしたら…」

「だが、俺はお前らの味方にはならない。ばらしたいならばらせばいい。あ
と俺が敵に回るのを警戒してるんだったら、心配ない。俺はもうあっちに戻
ろうと思ってるしな。」

「そうですか…」

「ああ、俺はお前らの敵にはならない。」

「どう説得したって、動きそうにないですね。」

「用はそれだけか?じゃあ、もういいな。」

「はい。では…」


通信が途切れる。


「話は終わったようだねぇ。」

「ああ。」

「えー、私たちの仲間になろうよー、海斗くーん。」

「悪いけど、人の下にはつかねぇ主義だ。戦う相手は自分で決める。それこ
そ天使とかだって誰だって、俺が決めて戦うならいいが、人に指図された行
動で傷つけたくはない。」

「海斗くん、優しいんだねー。」


俺が優しいか…
笑える話だ。

―“常夜”
それは絶対に拭うことの出来ない俺の過去。

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