小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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パデキア発見!!ロカの元へ急げ!!!の巻



「――という訳なんですよ!ナバラさん!」

「何が『という訳なんですよ!』だいッ!こんな時間に押し掛けて来やがってッ!!」

 テラン王国は占い師ナバラの館――俺はネイル村から『ルーラ』ですっ飛び、ナバラさんを訪ねていた。

 これが俺のアテ――『困った時の占いババア』だ!

「店仕舞い直前に来たのは悪かったと思ってますが、人の命が懸かってるんです!パデキアの原種の在り処を占って下さい!今すぐッ!」

「はぁぁ……厄介なお得意さんが出来ちまったもんだよ……ちょっと待っといで」

 深々と溜め息を吐きつつ、ナバラさんは奥へ引っ込んで行った。何だかんだ言って占ってくれるらしい。


 そして、用意されたのは前にもやった『古代占布術』の台と燭台――

「前にもやったから、説明は要らないね?」

「はい、大丈夫です」


 そして、占い開始――



「…………」

 ナバラさんが布の焦げ跡を見つめる……。

「……“オーザム”と出ているね」

 オーザム……マルノーラ大陸の雪の国か。ドラクエ4のパデキアも、確か氷の洞窟の奥にあった……もしかしたら!

「そこにパデキアが……!?」

「さぁね、とにかく占いではそう出た。あるかないかは、行ってみりゃ分かるんじゃないかい?」

「そうしますッ!」

 オーザムなら、1度行っているから『ルーラ』でひとっ飛びだ!

「ありがとう、ナバラさん!お代はこれで!失礼しますっ!!」

 俺は前と同じく100ゴールドをテーブルの上に置き、外に飛び出し――

「『ルーラ』ッ!!」

 お馴染みの瞬間移動呪文で、オーザムに向かった――。



≪SIDE:ナバラ≫


「やれやれ、忙しない坊やだね全く……」

 外に出てみたが、もう坊やの姿はなかった。

 突然来て「占え!」と言ったかと思えば、占いの結果を聞くやすっ飛んで行っちまうとは……そんなに大事な人が死にかけているのかねぇ?

「まあ、精々頑張りな、坊や……」


 奇妙なお得意さんに、あたしは聞こえないと分かりつつ応援を送り、今度こそ店仕舞いを――

「……戻って来やしないだろうね?」

 もしやと思って辺りを見渡したが、その気配はなかった……。



≪SIDE:OUT≫



「着いた!って寒ッッ!?」

 『ルーラ』でオーザムにあっという間に到着したは良かったが、慌てて防寒着を着るのを忘れていた俺は、マルノーラ大陸の吹く寒風に身体を震わせる。

「ぐおぉぉ〜〜……し、死ぬッ!!」

 俺はとりあえず“ふくろ”から防寒着を引き摺り出し、素早く着込んだ。

――――――――――――
E竜神王の剣(攻+137)
E毛皮のコート(守+22)
E毛皮の帽子(守+10)
E毛皮のマント(守+18)
――――――――――――


「ふぅ、危なかった……」

 大袈裟に思うだろうが、オーザムの夜はちゃんと着込まないと本当に死ねるのだ!

「はっ……ハックシッ!!ブルルゥ〜……は、早いトコ、酒場にでも入って情報を集めよう……!」

 ジッとしていたら、本当に死ぬ……!俺は、その場から駆け出した――。


 その後、俺は酒場で店主や酒を食らう客達からパデキアの情報を尋ねて回った。

 そこで、耳よりな情報を入手する――数年前、とある薬師が「どんな病も治せる薬を作る」とオーザム北の山の洞窟に研究所を構えたというのだ。

 ただ、気になる事も1つ……その薬師、以前は調合した薬や薬草を道具屋に卸しに来ていたが、どうも1年程前から、姿を現さなくなったらしい。

 研究に没頭しているんじゃないか……、野垂れ死んだんじゃないか……、色々な噂が流れているが真相は不明だ。


 これは確かめるしかないだろう――俺は町の宿屋で1泊し、翌朝、北の山へ探索に向かう事にした。

 夜に雪山に入るのは危険だ……、ロカさんを救う前に俺が死んだら意味がない。



 そして、翌朝――


「よし!行くかっ!」

 カラリと晴れた空へ、俺は『トベルーラ』で跳び上がる。

 研究所の場所はおおよそしか分からなかったが、空を飛びながら隈無く探せば何とかなるだろう。


 俺は北の山に辿り着き、周囲を注意深く探りながら飛び回った……。


 しかし、雪で真白な山の斜面が見えにくいし、こんな極寒でも生い茂る木々や岩などの遮蔽物も多くて捜索は難航……まるで、どこかの狂人的科学者の秘密研究所を探すみたいだ。

「甘かったか……」

 何とかなるだろう、なんて軽く考えていたが、これは骨が折れる仕事だ。これでもし、洞窟の入口が雪や岩で塞がっていたら見つけようがないぞ……。

 まさか、『闘気弾』で吹っ飛ばす訳にもいかない……雪崩でも起きたら大事だからな。


 空を飛び飛び探し回る事、半日……。

 日が傾き、空が赤くなり始めた頃、俺は山の斜面にあった手頃な岩の上に腰掛けて途方に暮れた。

「まいったなぁ……」

 山中を飛び回ったというのに、それらしい洞窟が全然見つからない。こうしている間にも、ロカさんの命がどんどん擦り減っていっているというのに……!

「くそ……!」

 苛立って、つい腰掛けていた岩に拳を叩きつけてしまった。もどかしさに気持ちばかりが焦る……。

ビキビキビキ……

「ん?」

 下から何かにヒビが入る様な音が……。

バカッ!

「おわあっ!?」

 なんと座っていた岩が崩れ、俺は滑り落ち、盛大に尻を打った。

「痛ててて……!」

 痛む尻を擦りながら立ち上がって見ると、さっき俺が拳を叩きつけた所からヒビが入り、岩が崩れたのが分かった。苛立ちで力が思わず力が入ってしまったらしい……。考えて見れば俺も今やレベル42、力や格闘スキルもそこそこ上がっているからな……素手でもまあまあの攻撃力があるか。

 強くなったもんだ、前世じゃ少し走っただけでゼエ〜ゼエ〜肩で息をしていた俺が……。

「……って、自分に感心している場合じゃない。早く探さないと……ん?」

 1度赤い空を見上げたが、視界の端に一瞬気になるものが見えた気がして、もう1度視線を下ろす。

 砕けた岩の端に……隙間……?

「…………もしかして!?」

 岩の向こうに洞窟があるのかもしれない……!

「っ!『イオ』!!」

 威力を調節した『イオ』で、崩れた岩を吹き飛ばす。すると……予想通り、洞窟の入口が現れた。

「……フフ。俺も大概、運が良いな」

 まだ、探していた研究所の入口とは限らない。そう頭では分かっているが、俺はここが研究所の入口だと疑わなかった。例え、違っていたとしても……いや、やっぱりそれも困るが、こういう偶然に巡り合えた事自体は悪くない。

 とにかく、確かめてみよう――。

 俺は、松明代わりに『ギラ』を掌に留めて作り出し、洞窟へと足を踏み入れる。

「ふぅむ……とりあえず、空気は淀んでいないな。つまり、空気は通っているって事か……」

 『ギラ』の明かりで見える洞窟の内部は歩き易く、結構先まで続いていた。注意しながら奥へ奥へと進んでいく……。

「ん?」

 そうしてしばらく歩いていくと、目の前に木製のドアが姿を現した。

「これは……ビンゴか?」

 人が入っていなければ、洞窟にこんなものがある訳がないからな。


 俺はゆっくりとドアを開けて、中に入った――。


「大当たりだな」

 入ってすぐにそれが分かった。ドアを抜けると大きく開けた空間があり、本棚やテーブルが置かれ、資料と思しき本や大分前に枯れた鉢植えなんかもあって、ここは正しく俺が探していた行方不明の薬師の研究所だ。

 それに……行方不明だった薬師も、見つけた。

「……これじゃあ、姿を現すのは無理だよな……」

 薬師は死んでいた……テーブルの上に突っ伏す様な格好で……ボロになった服を着た白骨の姿で。

 近寄って見たところ、頭蓋骨の下に何やら本があり、文字が途中で切れていた。恐らく、研究の記録をしていた時に死んだらしい。

「……失礼しますよ」

 俺は死んだ薬師に1度手を合わせてから、その記録ノートを拝借――中を読んでみた。

「…………」

 ノートには、研究を始めた頃からその内容までが事細かに記録されていた。それによると、死んだ薬師は様々な薬草を配合・調合した新薬の開発と並行して、薬草の品種改良にも着手していたらしい。

 その中に、俺が求めていたパデキアについての記載もあった。薬師も俺と同じく、パデキアの原種を探し求めていた――あれは今のところ、万能薬に最も近い存在だったからだ。

 しかし、方々探し回ったが見つからず……そこで、現在のパデキアの更なる品種改良に、研究方針をシフトした。

 パデキアの効能を上げて原種に近い効能を持つ、新たなパデキアの開発――それに取り組むに当たって、薬師は『力の種』や『生命の木の実』などの、人間の肉体能力を向上させる種や木の実に目を付けた。

 僅かながらに能力をアップさせる種や木の実には、生物の細胞を活性化させる効果があり、その効果をパデキアに配合する事で、パデキアの薬効を増強しようと考えたのだ。

 種や木の実とパデキアの様々な配合実験の記録が、事細かに記されている。おおよそ9割方失敗に終わっている模様……。

 だが、ノートを捲っていくと、段々と配合実験が軌道に乗り始め、最後に近い頁には『実験成功』の記述があった――上手くパデキアの薬効を高める配合に成功したらしい。

 そこから更に、地道な品種改良が続けられ……遂には原種と同等か、それ以上の薬効を持つ新種パデキアの開発に成功したと記されていた。

 栽培方法は現在出回っているパデキアと同じで良く、しかも安定した成長をして、生物の免疫力を強く後押しし、どんな病でも治せるだろう、とノートには書かれている。

 その後は、数を増やす為に研究所の奥にある畑で栽培をしていたそうだが……どうやら、その記録を付けている途中で、薬師は突然死したらしい。最後の日付は、今から8ヶ月前となっていた……。

「……突発性の心筋梗塞か、それとも脳梗塞や脳出血でも起こしたか……いずれにせよ、医者の不養生とは皮肉なもんだ」

 どんな病も治せる薬を作ろうとした人物が、自ら病に倒れ、命を落とす……やっぱり、皮肉としか言いようがないだろう。

 だが、今は死んだ薬師に同情している場合じゃない。ロカさんやレイラさんが待っているんだ!

「名前も知らない薬師さん、すまんがあんたが遺した研究成果……使わせてもらいます」

 一言断りを入れてから、俺はノートを持ち、研究室の奥へ向かう。

 ドアを開けて進むと、また開けた空間に出る。天井に穴が開いており、そこから太陽の光が入り、その下に草ボウボウの畑があった。

 しかも、畑があるこの空間は、不思議と暖かい……まるで温室の様だ。

「……なるほど、これは地熱か」

 足下から暖かいので、もしやと思い、地面に手を当ててみると俺の予想が当たっていた事が分かる。

 地面はまるで床暖房の様に温かった。それに、よく周りを見渡すと、湯気を上げている水溜まり――温泉が涌き出る泉もある。恐らく、ここは火山に近い場所で、近くを温泉の水脈が通っているのだろう。天井が抜けて陽光が入り、地熱で内部が暖められ、まさに天然の温室という訳だ。

 だから、薬師はここに研究所を構えたんだな。

「……さて、問題はパデキアがまだ残っているかどうかだな」

 正確には、パデキアの根の部分……8ヶ月も放置された状態で、果たして無事かどうか。

 パデキアは山芋みたいな植物だ。地中の根の部分が養分を蓄えて膨らみ、地上には背丈60センチ程の茎を伸ばす。ちなみに茎は調味料や薬味のように使える。

 畑には何本かパデキアの茎と思しき植物が生えている……あの下に、十分な太さの根があればいいんだが……。

「……頼むぞ」

 運を天に任せ、茎を掴み、ゆっくりと引き抜く……。

 すると、土の中から長さ約50センチ・直径約10センチのデコボコの根が現れた。

「おおー!このサイズなら十分使えるな!!」

 パデキアの根は、基本的に長さ40センチ・直径7センチ以上であれば成熟して薬に使える。

「よし!とりあえずこれだけ持って、ネイル村に戻ろう!『ルーラ』!!」

 天井に開いた穴から『ルーラ』で飛び出し、俺はネイル村へ急いだ――待っていてくれ、レイラさん!ロカさん!パデキアは、ちゃんと見つけたぞ!!



≪SIDE:レイラ≫


「はぁ……」

 井戸に水を汲みに来ていた私は、思わず溜め息を吐いてしまった……。

 昨日の夜、エイト君が家にやって来て、夫のロカの病気を知り、その特効薬――パデキアの原種を探すと言って、飛び出して行ってしまった。止める間もなく……。

 パデキアの原種が絶滅してしまったのは、僧侶や薬師の間では有名な話で、この世界にパデキアの原種が残っている可能性は限りなく0に近い。全くアテなどない、それこそ砂漠の中から砂粒の1つを探す様なもの……夫を救いたいというエイト君の気持ちはとても嬉しいけれど、見つけられるとは到底思えない。

 しかし、彼は諦めないだろう……見つかるまで探し続ける、探し続けてしまう。エイト君はきっと、そういう男の子だ。

「はぁ……困ったわ」

 時間が掛かり過ぎれば、考えたくはないけれど……ロカは命を失う。そうなれば、エイト君の行為は無駄になってしまう。このままでは、私やロカの為にエイト君は無駄足をさせてしまう事に……。

 出来るなら、追いかけて思い留まらせたい……。だけど、どこに行ったのかも分からず、病床の夫や娘のマァムを放って旅に出る訳にもいかない。

「本当に困ったわ……」

「何がですか?」

「きゃあっ!?」

 後ろから突然掛けられた声に、私は思わず持っていた水桶を落としてしまう。

 慌てて後ろを振り返って見ると、そこには――

「だ、大丈夫ですか!?レイラさん!」

「え、エイト君!?」

 ついさっきまで、どうしたものかと悩んでいた当の本人――エイト君が立っていた。



≪SIDE:OUT≫


 イメージした場所が少しズレていたらしく、『ルーラ』で着地したのはネイル村の中央にある井戸の近くだった。で、水汲みしていたレイラさんを見つけて声をかけたんだが……どうやら、驚かせてしまった様だ。

「す、すいません!驚かすつもりはなかったんですが……」

「い、いえ、いいのよ。それよりも、帰って来てくれて良かったわ……!」

 立ち上がり、笑みを向けてくるレイラさん。フフフ、見つけてきたコレを見せたら、どんな顔をするかな?

「レイラさん、喜んで下さい!」

「え?」

「パデキアを見つけてきたんですよ!ほらっ!」

 俺は“ふくろ”から見つけてきたパデキアを取り出し、レイラさんに差し出した。すると、レイラさんは目を見開いて驚く。

「そ、そんな……まさかっ、本当に……!?」

「正確には、原種そのものではないんですが、それと同等かそれ以上の薬効があるパデキアの新種です!これなら、きっとロカさんの病気も治せますよ!」

 とは言うものの……あの薬師の研究ノートには、動物による臨床実験の成功記録こそあったが、人間にも効くのか?本当にどんな病気にも効くのか?と疑問は残っている。

 正直、これも賭けだ――もしかしたら、ロカさんの病気はパデキアでも治らない可能性もある。このパデキアが、実はそこまでの薬効がない可能性も捨てきれない。

 だが!不安材料なんて考えれば考えただけ出てくるのだ!悠長にしている時間が無い以上、この新種パデキアの薬効に賭けるしかない!

「レイラさん!早くこれを、ロカさんにっ!」

「っ!ええ!すぐに煎じて飲ませてみるわ!!」

 俺とレイラさんは、すぐにロカさんが待つ家へと走った――。



「んぐ、んぐ……」

 ロカさんが、レイラさんに支えられてパデキアを煎じた薬湯を飲み下す……。

「ぷはっ!ぐえぇ……に、苦え……」

「『良薬、口に苦し』よ。エイト君が必死に探して見つけてきてくれたんだもの……きっと良くなるわ」

「ああ……すまねえなぁ、エイト……。俺の為に、面倒掛けちまって……」

「いいんですよ、ロカさん。早く良くなって下さい」

「……すまねえ、いや……ありがとうよ。お前の気持ちを、無駄にはしねえ……!元カール王国騎士団長の名に懸けても……!意地でも治って見せるぜっ……へへ……!」

 病気で衰弱した顔はそのままだが、心なしかロカさんに元気が出てきた様に見える。パデキアが効いたのかもしれない……。

 もうしばらくパデキアの薬湯を飲み続ければ、本当に病気が治るかも……いや!治るに違いない!

 頑張ってくれ!ロカさん!



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