小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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『破邪の洞窟』再び!!の巻き



「『破邪の洞窟』よ、俺は帰って来た!」

 バランと飲み交わしたあの夜から1週間後――俺は、ギルドメイン大陸は『破邪の洞窟』の前にいた。


 あの飲みの後、俺は1週間デルムリン島に滞在した。畑仕事を手伝ったり、ラーハルトに乞われて少しだけ稽古を付けてやったり、食事を一緒にしたり、久しぶりにのんびり楽しく過ごさせてもらった。この世界に家族のいない俺にとって、バラン達との団欒は本当に心が安らぐ。

 そうそう、ラーハルト――あいつには強い戦士の素質がある。それも剣より槍、力より速さの才能が強いらしい。バランにも少し稽古を付けてもらっていたらしく、槍術の基礎は出来ている。あと10年も修行すれば、立派な槍の使い手に成長するだろう。

 彼らとの団欒を楽しみ、冒険の疲れを癒し、そして……俺はここに戻って来た。更なる力の向上と、『破邪の洞窟』という謎のダンジョンの攻略の為に――。

「さぁて……行くか」

 1年前の様に、龍神王の装備で身を固め、貯めたゴールドで食糧と薬草類を買い込み“ふくろ”に詰め込んで、今日再び『破邪の洞窟』に挑む。

 今度は地下100階から更に下へ……何があるかも分からない。バラン達には、また長いこと会えないかも知れない旨は伝えてある。心置きなく、じっくりと潜れる。

 今度は2、3年ぐらい掛けようか……一体、このダンジョンがどこまで広がっているのか、興味がある。

 では、攻略開始だ――。





「ふんッ!」

 メタルウイングのただの一投げ――

「「「ギィッ!?」」」

 モンスターの群れが一薙ぎ……今の俺のレベルも相まって、地下50階までだとこれ1発で大体片が付く。

 自作のマップと自分の記憶を頼りに進む事で、モンスターも障害にはならないので、きちんと食事と睡眠を取っても恐らく1日で20〜30階は進めるはずだ。


 前回の到達点――地下100階に辿り着くのにそんなに時間は掛からなかった……と思う。例によって洞窟内では時間が分からないので、感覚でしかないが、恐らく2〜4日ぐらいだろう。体力温存の為、極力無駄な戦闘は避けた所為でレベルは上がらなかった。


「さて……ここからは未知の領域だな」

 地下100階から下階に降りる階段の前……ここから先は、またマッピングをしながら注意深く進む。どんな罠があるか、どんなモンスターがいるか、一切分からない。

 ここまでの階にボスと呼べるモンスターはいなかった。だからこそ、この先にはいる可能性が高い。今の俺はレベル81……余程の敵でない限り、倒せない事はないだろうが……油断は禁物。

 俺は1人……危機に陥っても、誰も助けてはくれないのだ。気を引き締めて行こう。

 緊張感を持ちつつ、俺は地下へ続く階段を下りた――。



 そこから先は、また延々と迷宮が続く……。



 ただ今までと違うのは、その広大さ――ハッキリ言って異常だ。101階から既に規模が違い過ぎる。明らかに海の下、カール王国の街の下にまで広がっていると思われる程、広大な空間だった。もしこの迷宮を造ったのが本当に人間の神だというのなら、一体何を目的に造ったのか1度尋ねてみたいものだ。

 出現するモンスターは、多少手強いが今の俺の敵ではない奴ばかりだ。流石に無傷ではいられるほど弱くはないが、これでもこの世界で10年以上冒険者として生きてきたのだ。余程の重傷でなければ取り乱さない程度には痛みに慣れた。無論、そういう重傷を負わない様に身体を鍛え、身のこなしも鍛錬している。

 モンスターの強さ、迷宮の複雑さと広大さ……おかげでマッピングには随分時間が掛かった。やはり感覚だが、恐らく1階層のマップを完成させるのに、今の俺でも3〜5日は掛かっていたはずだ。


 そうして辿り着いた地下190階……そこで俺は異変を感じ取った。


「なんだ……?」

 階段を降り切り、190階のフロアに足を踏み入れた瞬間にあらゆる事柄が変わっていた……。

 先ずはフロアの構造……手元の灯りで見える範囲でも曲がり道も分かれ道もなく、暗闇の向こうまで真っ直ぐな通路が続いている。こんな事は今までになかった。

 そして空気……息苦しささえ感じられる程の圧迫感が満ちている。これもこのダンジョンに潜ってから初めての事だ。なのに、徘徊するモンスターの気配が全く感じられない……。

「……ボスでもいるのか?」

 今までにない威圧感……この先にモンスターがいるとしたら、ボスと呼んでいいレベルの奴に違いない。そうでなくても、今までとは比べ物にならない何かが存在するはずだ。

「……一応、準備しておくか」

 俺は額から流れ落ちる汗を拭い、“ふくろ”からと薬草、魔法の聖水を取り出し、身体を万全の状態に戻していく。ついでに竜神王の剣も取り出し、俺が1番得意な装備に変える。


―――――――
エイト
性別:男
レベル:88
―――――――――――
E竜神王の剣(攻+137)
E竜神の盾 (守+60)
E竜神の鎧(守+110)
E竜神の兜(守+50)
―――――――――――
力:356
素早さ:214
身の守り:182
賢さ:340
攻撃力:518
守備力:402
最大HP:720
最大MP:430
Ex:5746270
――――――――――――――――――――――――――――――――
剣スキル:82  『伝説の剣聖』(剣 攻+25 会心率UP)
槍スキル:48  『スターランサー』(槍 攻+10 会心率UP)
ブーメラン:52  『シューティングロード』(ブーメラン 攻+15)
格闘スキル:52  『格闘の師範』(素手 攻+20 会心率UP)
冒険心:100  『真の冒険者』(消費MP1/2)
――――――――――――――――――――――――――――――――
エイト
HP:720
MP:430
Lv:88
――――――――――――――――
ホイミ ベホイミ
ベホマ ベホマズン
キアリー キアリク
リレミト ルーラ
トベルーラ リリルーラ
トヘロス ザオラル
ギラ ベギラマ
ベギラゴン マホトーン
イオ イオラ
メガンテ
ドラゴン斬り 火炎斬り
メタル斬り 隼斬り
ミラクルソード アルテマソード
疾風突き 一閃突き
五月雨突き 薙ぎ払い
クロスカッター バーニングバード
超パワフルスロー 大防御
石つぶて 正拳突き
真空波 闘気弾
闘気砲
――――――――――――――――


 俺の最強の装備は、なんと言っても竜神王シリーズ――相手が1体でも複数でも、使いなれた剣で戦うのが1番強い。メタルウイングは雑魚を一掃する時に使うのがベターだ。

「さて……」

 鞘から剣を抜き、いつどこから敵が来ても戦える態勢を整え、奥へ進む……。

コツ、コツ、コツ……

 自分の足音だけが響く薄暗い通路をひたすら前に進む。進む毎に威圧感が強くなっていく……ここまでの威圧感は今まで感じた事がない。

 それにこの威圧感は、身の毛が弥立つ様な気味の悪い邪悪な感じと、ピンと背筋が伸びる様な厳かな感じ……“神聖”な雰囲気とでも言おうか、そんな相反する2つが同時に存在する、何とも言い表すのが難しい不思議な感じがする……。

「一体、何があるっていうんだ……?」

 俺は未体験の感覚に戸惑いつつ、どこまでも1本道が続く通路を進んだ。


 そして、どれくらい歩いたか……目の前に重厚な扉が現れた。


「……いる」

 この扉の向こうに、何か強力な存在が――。

 肌を刺す様な鋭く強い威圧感……いや、これは最早“存在感”と言って良い。

「ん?何か書いてあるな……なになに?」

『邪に染められし天の眷属。闇に堕ちたる竜の王』

「竜の、王……?」

 この先にいる奴の事か?感じる存在感も合わせて考えると……やっぱりボスがいるのか。

 何故こんな迷宮の奥の奥に……もしや、最深部が近いのだろうか?

「……考えても無駄か」

 疑問は尽きないが、ここで幾ら考えても答えが出る訳ではない。虎穴に入らずんば虎児を得ず――入ってみなければ分からないのなら、入ってみれば良い。

「よし……!」

 意を決して扉に手をかけ、力を入れて押し開ける。

「ふぬッ……!」

 結構重い……今の俺の力を持ってしても!

ギギギ……ゴトン!

「っ、ふぅ〜……」

 重々しい音を立てて扉が開き、内部の様子が……見えない、真っ暗だ。

 警戒しつつ、ゆっくり中に入る……。

ボッ!

「っ!?」

 入った瞬間、部屋の壁に備え付けられていた照明に灯が点いた。

 そこから次々と連鎖的に点いていく灯り……おかげで、内部が明るくなり、様子が分かる様になった。どういう仕組みなんだろう?

 かなり広い部屋だ……天井も高い。石壁と石畳と石柱、整ってこそいるが飾り気と言える物はほぼない。

 だが……ただ1つ、どうしても目に留まってしまう存在がいた。

「ドラゴン……!?」

 そう、そこにいたのは巨大なドラゴン――紫色の鱗を持つ、10メートル近くある奴だ。しかし何故かそのドラゴンは、同じく巨大な鎖で身体中を雁字搦めに縛り上げられており、とても動ける状態には見えない。

『……グルルゥ……』

「っ!?」

 突然ドラゴンがこっちを睨んで唸り声を上げたかと思えば、奴から発せられる威圧感が急激に強まった。

ギシギシギシ……!!

 ドラゴンが鎖を引き千切りに掛かる。俺は警戒を強め、身構えた。と、次の瞬間――。

バキィンッッ!!

『……グオオォォォォォォォォォォンッッッ!!!』

「ぐあぁッ!?」

 耳が痛ぇ!!力尽くで鎖を弾き飛ばし、自由になったドラゴンの咆哮で室内の空気が震え、俺の鼓膜が悲鳴を上げる。

「ッ!?」

 唐突の殺気に反射的に後ろに飛び退く――!

ズガァァンッ!!

 次の瞬間、俺がいた場所にドラゴンの太い腕が突き刺さり、床がひび割れ陥没した。危なかった……!!

「野郎……不意打ちかよ!」

 戦いで不意打ちは当たり前なのだが、それでも思わず腹が立ちドラゴンを睨み付ける。ドラゴンは既に俺を睨んでおり、牙を剥き出して唸っていた。

『グルルル……!』

「やる気満々か……」

 どうやらコイツは、今までに遭遇してきたモンスターとは格が違うらしい。まさか『破邪の洞窟』の奥に、こんな奴が潜んでいたとな……俺も少し本気でやるか。

「はッ!!」

 気合を入れ、ドラゴンに向かって踏み込む。

『ガアァ!!』

 ドラゴンが再び腕を振り、俺を迎撃しようとする。なるほど速いが……冷静に見極めれば躱せない程じゃない。紙一重で躱し、奴の脇に抜けてすかさず斬る!

『グァァッ!?』

 俺の一太刀がドラゴンの脇腹を大きく斬り裂き、ドラゴンが痛がる様に叫ぶ。大分効いているな、ダメージにしたら200前後という所だろうか。

 さて、痛がっているところ悪いが……容赦無しでいくぞ。

「『ドラゴン斬り』!!」

『ギャガアァァァッッ!!?』

 ドラゴンに対して有効な剣技――目の前のドラゴンに対しても当然有効で、攻撃力を上げた俺の斬撃は奴の背中の翼を斬り飛ばした。鱗よりも濃い紫色の血が吹き出し、ドラゴンは更に叫び、身体をバタつかせる。

「って、暴れ過ぎだろう!?」

 ドラゴンは腕や足、尻尾を振り乱し石壁や石床を破壊していく。確かにダメージは大きいだろう、与えた俺が言うのもなんだが……それにしても荒れ狂い過ぎだ。痛みに慣れていないのか?

『グ、グルゥ……ガアァ!!』

「うおっ!?」

 暴れた際の偶然か、それとも狙ったのか、ドラゴンは俺に向かって灼熱の炎を吐き出してきた。咄嗟にジャンプして躱したが、流石に熱量が凄まじく避け切れなかった。

 しかも、上に飛んだのが拙かった――。

ドゴッ!!

「っが!?」

 横からの衝撃――俺は吹っ飛ばされ、石壁に叩きつけられる。

「がはっ……!」

 油断した……咄嗟とはいえ、迂闊に宙に飛び上がって身動きが取れなくなった所へ尻尾による一撃。思いの外、効いたぜ……!

「ぺっ!くそっ……俺もまだまだ甘いな」

 口から垂れた血を吐き捨て、ドラゴンを……いや、ドラゴンを通して甘っちょろい自分自身を睨んだ。

「礼を言うぜ、ドラゴン……お前のおかげで、俺はまだまだ強くなれる!」

 自分の中で沸々と滾る何かに心が躍る――やっぱり俺は自分でも気付かない内に、某戦闘民族に感化されているらしい。

「うおぉぉぉッッ!!」

 ともあれ、俺は剣を振りかぶり、再びドラゴンに向かって踏み込んだ――。



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