小説『魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 No Side


 ――海鳴臨海公園


 海に面したこの場所は、街の中心部よりも陽が射すのが早い。
 夜の闇が明け始めたこの場所に2人の少女と、其れを見守る者達が居た。

 「フェイト、もう良いじゃないか!あんな奴の言う事なんて聞く必要ないよ!」

 その中の1人(今は1匹と言うほうが妥当か?)アルフが黒衣の少女――フェイトに向かって叫ぶ。
 心からの叫び、彼女の使い魔として、友人として真に彼女を心配しているのだ。

 「ごめんアルフ。でも出来ないよ。私はあの人の娘だから。」

 だが、フェイトは聞き入れない。
 アレだけの仕打ちを受けて尚、彼女は『親子の絆』を信じていた。

 「テスタロッサ…矢張り言葉は届かないか…」

 「仕方ないよルナ。自分が信じたいものは変えられないし変えたくない。私もそうだから。」

 「その気持ち、私にも少し分かる気がするな。勿論アルフの気持ちも痛いほどに良く分かる…」

 フェイトとアルフのやり取りを見ていたなのはとルナは、2人の思いに共感する。

 「けど、だからって逃げれば良いって訳じゃない、捨てれば良いって訳じゃもっと無い。」

 「あぁ……そうだな。行って来い、なのは。あの子を、闇の呪縛から解き放ってやれ。」

 「うん!レイジングハート!」
 「All right.Stand by ready.」

 なのははレイジングハートを起動させると、バリアジャケットを纏い静かにフェイトが待つ空に上る。


 「ジュエルシードは?」

 「持ってきたよ。私達が保持する13個全て。お互いの持ってる全てを賭けての勝負、だよね。」

 ジュエルシードを取り出して見せ、確認させると再びレイジングハートに収納する。
 フェイトもなのはの確認に無言で頷く。

 其れを見て一度目を瞑り、なのはは精神を集中。
 そしてゆっくりと目を開き、再度フェイトを見据え告げる。

 「私達の全ては、まだ始まってもいない…。
  だから本当の自分を始めるために…始めよう、最初で最後の本気の勝負!全力全開、手加減無しで!」

 其れが……戦闘開始の合図だった。










  魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福18
 『朝焼けの中の戦い』










 海鳴臨海公園から一望できる海上、その上空は正に戦場と化していた。(一般人に被害が出ないように結界展開済み)

 「ディバインシューター…シュート!」
 「Divine Shooter.」


 「フォトンランサー…ファイア!」
 「Photon lancer.」


 飛び交う誘導弾と射撃魔法。
 物量にモノを言わせた弾幕的ななのはの誘導弾に対し、フェイトは其れを高速で回避、或いは精密射撃で相殺。
 どちらも無傷ではないが、決定打も与えられていない。

 なのははフェイトを捉えきれていないが、フェイトもなのはの防御が崩せない。
 正に拮抗――どちらも退かぬ究極の一戦だ。


 「ねぇクロハネ、なのはとへいとどっちが強いの?」

 その戦いを見守る最中、雷華がルナに尋ねる。
 拮抗したこの戦い、雷華には優劣が無いように見えるらしい。

 「一概にどちらが、とは言えないな。」

 ルナもまたどちらが上とは断定できないようだ。

 「クロハネでも分からない?」

 「――単純に、攻撃力ならば略互角だが一撃の重さと防御力ではなのはが上、手数とスピードではテスタロッサが上。
  距離を開けての砲撃ならなのは絶対有利だが、懐に入り込めばテスタロッサの独壇場。
  どちらも並行思考が出来る上に、なのはには驚異的な空間認識能力が、テスタロッサには異常な動体視力がある。
  互いに全力でぶつかった場合、能力的には総じて五分と五分と言うところか…」

 「………???……うん、どっちも強いって事だね!」

 説明を極めて大雑把に解釈し再びその戦いを見守る。


 「ディバインシューター・フルパワー…×3!!」
 「All right.My master.」

 空での戦いは更に激しさを増し、なのはが1回8発の誘導弾を3連続で撃ち出し、新たに24発の魔力弾がフェイトに向かう。

 「こんなに…!全弾回避は無理…バルディッシュ!」
 「Yes sir.Thunder smasher.」

 全弾回避は不可能と判断したフェイトは其れに砲撃を撃ち込んで爆散させることで数を減らし、残りを高速移動で回避する。
 だが、

 「ホワイトナイト…バスター!」
 「Grimoire Book of White Night.Stand by ready.White Night Buster.」


 「砲撃!?く…!!」

 誘導弾を避けた所に飛んできた砲撃を間一髪ギリギリで回避する。
 それでも僅かに掠り、その部分はバリアジャケットが大きく破損している。

 「何時の間に…?……あの魔導書!!」
 ――デバイスで誘導弾を、魔導書で砲撃を撃ったの?しかも誘導弾を制御しながら…凄い。
    初めて会った時は魔法に関しては全然素人だったのに、今は違う……堅い上に強い…!!


 デバイスと魔導書を同時使用しての今の攻撃。
 そして24発もの誘導弾の制御も同時に行う並行思考。

 恐るべき成長スピードもさることながら、その類稀な才能にフェイトは舌を巻いていた。

 最早魔法に関しての差は無い。
 完全に実力が拮抗している以上、削りあいの泥仕合は目に見えている。

 「凄いスピード…行けると思ったのに…」
 「It's so.」

 互いに決定打を欠くこの状況。
 なのはの今の攻撃も2度目は通じないだろう。



 そんな状況の中で、先に切り札を切ったのはフェイトだった。


 「バルディッシュ。」
 「OK.Arc saber.」

 バルディッシュを振るってブーメラン状の魔力弾を放つ。
 弾速は遅く、なのはも楽々其れを回避するが…

 「Homing bullet.master.」
 「此れ…まるでブーメラン!」

 其れは見た目に違わず、ブーメランの如き変則的な軌道で飛び回りなのはの動きを強烈に制限する。

 いや、制限ではない。
 その軌道を以てしてなのはを誘導しているのだ――フェイトが仕掛けたトラップの下に。


 ――来た!
 「バルディッシュ!」
 「Lightning Bind.」


 「え?な、なにこれ!?」


 回避行動をとっていたなのはが突然何かに四肢を拘束された。
 其れは金色の拘束具――対象を捕縛し動きを封じる『バインド』の一種だった。

 「君は強い。でも此れで終わり。この攻撃で君を倒す!」

 宣言し呪文の詠唱を開始する。
 其れに驚いたのは戦っているなのはではなく、見守っていたアルフとリニスだ。

 「フェイト、其れは!!」

 「拙い、助けなきゃ!フェイトのアレはホントにヤバイ!!」

 が、

 「落ち着け塵芥。我等が盟主、タカマチナノハを舐めるなよ?見るが良い、あやつの顔を。
  四肢を拘束され、最大の一撃が来ると分かっていてもまるで絶望に染まっては居るまい?」

 「ナノハの真の強さは魔力の大きさではありません。如何なる時でも諦めない『不屈の心』。それこそがナノハの最大の武器です。」

 冥沙と星奈は極めて冷静。
 ルナも又静かに其れを見つめ、雷華はフェイトの攻撃の方に興味があるようだ。


 「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。」

 地上の様子とは関係なく、詠唱は紡がれ、空に無数の『フォトンスフィア』が形成される。
 その数、実に38個。
 間違いなくフェイトの最大の魔法が放たれるのだろう。

 「バルエル・ザルエル・ブラウゼル。」
 「Photon Lancer Phalanx Shift.」

 「撃ち抜け…ファイアーーーー!」

 放たれた一撃。

 否一撃などではない。
 38個のスフィアから続け様に、まるで集中豪雨のように降り注ぐフォトンスフィア。
 確実に1000発を越えているであろうそれが動けないなのはに襲い掛かる。

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 其れに飲み込まれ、なのはの姿は一切確認が出来なくなる。


 時間にしておよそ4秒。
 攻撃が終わったのか、スフィアは消えるが攻撃で巻き起こった爆煙はまだ晴れて居ない…








 ――――――








 Side:フェイト


 「はぁ、はぁ、はぁ…やった。」
 勝った、間違い無く。
 フォトンランサー・ファランクスシフト、今の私の最大の攻撃。
 スフィアも今までで最大の38個を生成したし全弾あの子に命中した。
 幾らあの子の防御が堅くても…


 「…攻撃が終わると解けちゃうんだ…」


 え…?
 「嘘…そんな、如何して!!」

 煙が晴れて…あの子は無事?
 無傷じゃないしバリアジャケットもボロボロだけど、アレを耐え切った…!?

 「今度はこっちの番!ディバイィィィン…バスター!!」
 「Divine Buster.」


 く…砲撃魔法!
 でも此れくらいは消耗した私でも回避できる。
 其れに、ファランクスを受けた以上、この子も此れが最後の攻撃の筈。
 此れを回避すれば後は懐にもぐりこんで決着を付けられる…!


 「凄いスピードだね。やっぱり避けられちゃった。でも此れで終わり。」
 「Restrict Lock.」


 え?


 ――バシィィン!


 「!!バインド!…何時の間に!!」
 今の砲撃は私を誘導するためのフェイント!
 でも、今以上の砲撃はもう…



 ――ヒィィィィィン…



 「え…?あ、あ…あぁぁぁぁぁぁ…!」
 これは…集束砲!?
 有り得ない…相当に消耗した状態でこんなに巨大な集束砲を撃てる訳…………!!

 「ま、まさか…」
 自分の魔力だけじゃなくて周囲の、大気中のマナまで集めてるって言うの!?
 それこそさっきの砲撃や私の攻撃で使われた魔力の残骸まで…!


 「受けてみて、バスターのバリエーション!」
 「Starlight Breaker.」


 駄目…!逃げなきゃ!
 あんな出鱈目な集束砲、受け切れない…!


 「此れが私の全力全開!スターライト…ブレイカァァァァァァァァァァァ!!」


 ――ドォォォォォォォォォォォォォン!!


 「…!バルディッシュ!!」
 「Round Shield.」


 シールド…!駄目、防ぎきれない…!
 そんな…此処で負けたら母さんは二度と私に…


 ――ピシッ、ピシッ…パリィィィン…!


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ……母…さん…。








 ――――――








 Side:ルナ


 終わったか…。
 なのはの最強にして最大の魔法――集束砲『スターライトブレイカー』。

 風の癒し手の結界を貫き、闇の書の闇すら砕いた一撃に耐えられる者等居ないだろう。
 『非殺傷』で使っているからテスタロッサは無事だろうが…相変わらず凄まじい一撃だ。


 「な、なんだありゃ…!」
 「集束砲…だと思うのですが…」

 驚くのも無理は無いか。
 正直私だって防衛プログラムが此れを使った時には内心驚いていたんだから。

 「相も変わらずふざけてるとしか思えん威力だなアレは…大丈夫か小娘は?」

 「んっとね〜…あ、大丈夫。ナノハが助けたみたいだよ。」

 「ですが、気を失っているようですね。消耗状態でアレを喰らえば当然でしょう。」

 まったくだ。
 さて、テスタロッサをアースラに連れて行かねばならないが…



 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



 「矢張り来たか…プレシア・テスタロッサ!」
 この間の次元跳躍魔法……其処までしてジュエルシードが欲しいのかお前は…!


 ――バガアァァン!!


 「なのは!!」

 「ルナ!」

 ギリギリで間に合ったが…なんて威力だ!
 『パンツァーシルト』を3枚掛けして尚これ程とは…仕方ない…!

 「武曲展開、禄存轟斬!」


 ――ビリビリ…ギギギギギギ…


 禄存轟斬を重ね掛けして漸くか…マッタク以て凄まじい。



 …防ぎきったか。
 「大丈夫か、なのは?」

 「うん、私は平気。ルナのおかげで。」

 「主を支え、護るのが私の役目だ。テスタロッサは?」

 「大丈夫…気絶してるだけ。星奈達は?」

 「公園の方でアルフ達を攻撃の余波から護っている。全員無事だ。」

 「そっか。…ねぇルナ、今の魔法…」


 流石に気付くか…
 「あぁ、プレシアだ。お前達を落として、全てのジュエルシードを手に入れるつもりだったんだろう…
  今の攻撃は、恐らくはお前が勝とうがテスタロッサが勝とうが放たれていた筈だ…ジュエルシード入手の為にな…」

 「そんな…!それじゃあフェイトちゃんの今の戦いは…!!」

 「プレシアにとってはジュエルシードを手に入れる為の座興…そんな所だろう。」

 「ゆ、許せないの…!フェイトちゃんはお母さんの為に頑張ってたのに…こんなになるまで戦ったのに!!」

 怒るか…当然か。
 本気のぶつかり合いで、テスタロッサの気持ちが分かったんだろう。
 テスタロッサにだってなのはの気持ちが届いた筈だ……直には分からないかもしれないだろうがな。

 その戦いを利用して…違うな、テスタロッサの純粋な思いすら利用した所業、許せるものではない…!


 『なのはさん、ルナさん無事ですか?』


 「リンディさん!」
 「ハラオウン艦長…」


 『今の攻撃からプレシアの居場所が割り出せたわ。フェイトさんを連れて至急アースラに帰還して。』


 「分かりました。ルナ…」

 「あぁ、行こう。テスタロッサを休ませてやらないとな。」
 何より居場所が判明したのなら、手を拱いている事は無いからな。



 ふざけた所業の落とし前をつけて貰うぞ…プレシア・テスタロッサ!!

















  To Be Continued… 

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