――そんなこんなで無事下痢になる事も無く食事を終えた。
案外お腹いっぱいになるんだな……時間差って怖い。
「ふぃ〜、もうお腹いっぱいおっぱい」
「黙れ変態が」
クリームさん、当たり強いっす。
まぁ下ネタはまずかったか、反省して今度からはソフトに言おう。
「言わなくていいですから変態」
あれ、ミカちゃんに心読まれた。
女の子は厳しいのです。
と、そんな茶番をしているとウルフィアスが立ちあがり、
「飯も食った事だし、ちょっと貴公にはついてきてほしいのだが」
と頼まれた。
なんすかねぇ、可愛い幼女でもいるんですかねぇ……
まぁタダ飯貰っといて断るわけがない、俺は頷くとグラスのオレンジジュースっぽいものを飲みほしてウルフィアスとクリームヒルデの後ろに追従する。
「あれ、ミカも来いよ?」
ふと、ミカが椅子に座っているのが見えた。
「ちょっと休ませて下さい、食後30分は動いちゃいけないルールなので」
「お、おう、分かった。じゃあ先行くわ」
ひらひらと手を振ると、俺達は食事の間から退場する。
以下、ミカと王様だけの空間。
「……君とこうして話すのは何年振りかな」
ふと、王が郷愁にかられたようにワイングラスを揺さぶる。
どこか悲しげに、懐かしげに。 王様は一口だけワインを口に含んだ。
ミカはミカで、どこか物憂げな表情で銀のフォークを握る。
「貴方は変わりませんね、レオ」
「君は随分変わってしまったよ」
ミカは鼻で笑うと、光の宿っていない目で王を見据えた。
「貴方が羨ましい。こんなにも変わらないでいられるなんて。苦しくて苦しくてたまらないのに」
ぐにゃりと、粘土をこねたように銀のスプーンが潰れる。
そこには天使の面影は微塵も無かった。
俺に見せるいつものミカは、ここには存在しない。
「……トラヴィスも、きっと同じなんだろうね」
王様の脳裏に浮かんだのは、ここに居ない誰かの顔。
「I don't fucking Know(知ったこっちゃないですよ)」
机に銀のスプーンが突き刺さる。
その瞳の奥に宿るものは、悲しみか、憎しみか。
王様は相変わらず薄い笑みを浮かべたまま、俺が座っていた場所を眺める。
「しかし妙だね、彼を見ているとあの子を思い出す。なんでだろうね?」
ミカは鼻で笑い、
「どうですかね」
と、一言だけ言って席を立った。