――数分前、カフェ――
その日『彼』は、オレンジのポロシャツに黒のパンツを着こなし、夕日の見えるカフェで一服していた。
『彼』は短くなった煙草を灰皿に押し付け、手元のブラックコーヒーを口元へやり啜る。
そして片手で広げた新聞紙に目をやった。
でかでかと広げられた新聞にはこの前襲撃された村の事や、政治家の贈賄だとか、経済の事が事細かに載っていた。
特にテランス コシェという左派の大物政治家の、贈賄疑惑がでかでかと一面に掲載されている。
『彼』は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりにため息を吐いて新聞を投げ捨てるようにテーブルに放りだす。
「ようブッチャー、調子はどうだ?」
「あぁ、ポーター」
新聞紙の代わりに目に移るのは、見知った『同僚』ポーターの顔だった。
「相変わらずさ、お前こそどうだ?カミさんとは上手くやってるのか?」
冗談交じりに『彼』、ブッチャーと呼ばれた男は同僚と握手を交わす。
同僚はよせよ、と鼻で笑って向かい側に座り、気前がいいようにウェイターにカプチーノを注文した。
ブッチャーはポロシャツの胸ポケットから煙草の箱を取り出し、その内の一本を同僚へと差し出す。
「お、悪いな、ここん所カミさんに煙たがられてな」
「カミさんはどこも同じか。……お、カプチーノが来たぞ」
お待たせしました、と言ってウェイターがカップを同僚の前へ置く。
ニコニコと愛想笑いを見せ、同僚はカプチーノを啜る。
そして同僚はブッチャーが付けたライターの火に煙草の先っちょをくっつけ、一服。
一見、彼らは極めて普通の善良な市民である。
そう、一見は。
「ポーター、そろそろ本題に入ろう」
ブッチャーはカプチーノを飲みほした頃合いを窺って、話を切り出した。
そして突如、同僚の笑顔が消える。