「…………ッ」
ちらりとカフェに備え付けられた時計に目をやる。
ミカがトイレに行ってからもう10分も経っている。
女の人のトイレってのがどれぐらい時間が掛かるかは知らないが、シェパードならもうとっくに帰ってきている頃だ。
……仮に、ドでかいのをぶちかましていた所で俺ならもう帰ってきているだろう。
ちょっと様子を見てくるか。
「お会計頼むよ」
俺は近くのウェイターに言ってお会計してもらう。
ちなみに金はさっきミカにちょっと貰ったからなんとかなる、はず。
金は普通に足りたので早速トイレに行く。
この時点で11分30秒程経過。
流石に女子トイレをいきなり開ける訳にはいかない……仮に入ってたら俺ぶっ殺されちゃう。
一度ノックだけして問いかける。
「ミカ、居るか?」
返答は無い。
これはマズイかもしれない。
いくらなんでも答えるくらいはしてくれる。
「Fuck……」
悪態をつきつつ腰のホルスターからUSPを引き抜こうとして……
止められた。
「動かない方がいいぞ」
その声は俺の手を遮っている人物。
背後に居るため姿は見えないが30代くらいの男だ。
「……俺はゲイじゃねぇぞ。そういうことはおホモ達と勝手にやってろ」
冗談まじりにこちらに余裕がある事を伝える。
「天使はこっちで預かってる」
瞬時にこちらには余裕が無くなった。
恐らくそれを狙って、このタイミングで言ったに違いない。
それを考えるとこいつはなかなかのやり手に違いない。
ならばこいつの予想しない事態を作ってやる。
幸い、ナイフや銃を突き付けられては無いようだった。
俺は返答せず、掴まれている手を軸にして振り向かずに馬のような蹴りを繰り出した。