いきなりすぎて予想外だったのか相手は太ももに思い切り蹴りを受け、よろける。
こいつ、股間をやられないように一瞬で身体をずらしやがった……かなりのやり手みたいだな。
だが効果は確実に与えられた。
わずかによろける『敵』の手を、今度は俺が掴み返して振りかえりざまに鳩尾を殴る。
「おごッ……!!!」
鈍い音を発てて敵は前のめりに崩れ落ちそうになるが、なんとか踏ん張ってはいる……タフだなこいつ。
そんな前のめりになっても耐える頑張り屋さんの顔面に膝蹴りを喰らわす。
ぶはっと声にならない音を発して鼻血を出す敵だったがそんな彼にさらに追い打ちを掛ける。
即座にバックアップ用の折りたたみナイフを取り出してこいつの太腿に突き刺したのだ。
「アァッ!?」
それと同時にこいつのポケットからチラホラ見えていたハンカチで口を塞ぎ、声を出せないようにした。
「んむ!?」
「詳しく教えてもらおうかコラ」
俺としては珍しくキレている方で、ナイフを荒々しく抜くや否や、首根っこを掴んで有無を言わさずトイレに連れ込んだのだ。
――同時刻、どこかの倉庫――
ミカは特に抵抗もせず、おとなしく人質として椅子に縛りつけられていた。
別に騒ぐ様子もなにもなかったので、猿ぐつわも外されているようだ。
倉庫内は暗く、沈みかかっている夕陽の光のみが入ってきている状態だ。
誘拐した男は数人の仲間と共に、なにやらミカの処遇について揉めているようだった。
ミカはそれをあくびをしながら、まるで何時でも抜け出して皆殺しに出来ると言わんばかりに眺めている。
「……やっぱりこんなのおかしい。天使を誘拐なんてクソみたいな作戦、今まで無かったし、うちらの信条にも反してる!第一、閣下とこの天使達は夕食を共にするくらいの仲だって聞いてる!」
「そんなのは分かってる、だが命令は絶対だ……!俺達は兵士だろう!?」
「クソ、政治家共め……閣下がいれば……」
「口を慎めオックス!いいか、命令は俺達の存在そのものだ!」
意見は対立していた。
彼らは皆、ミカには聞こえないように話していたのだろうが彼女の天使としての聴力をもってすれば容易い事だ。
加えて彼女には、契約していない俺以外でも、大体の心は何となく読める……いや、能力を使わずとも、経験から分かるのだ。