「ブッチャー、分隊長としてのお前の意見を聞きたい」
ふと誘拐犯の一人が、椅子に座って静かに聞く中年の男に尋ねた。
彼は先程、休暇を切り上げてきた男だった。
彼はふぅーっと息を吐き捨てると、かなり落ち着いた様子で一言。
「俺達は兵士だ」
とだけ言った。
そのたった一言で、そこにいた屈強そうな男達の行く末が決まったのだ。
ミカは感心しつつ、この行動がこの男達の為にならない事を悟った。
確かに彼は優秀な指揮官のようだ。
バラバラだったメンバーをたった一言でまとめあげる程の信頼、そして乱れた中でも動じなかった落ち着き。
何度も言うが、彼は軍人として、とてつもなく優秀なのだ。
だが。
「……SKAGはいいナイトリーダーをお持ちですね」
ミカが言うと、ブッチャーと呼ばれた男は特に動揺しなかった。
「やはり御存知でしたか。その通り、我々はSKAGであります」
そう言うと、彼はミカの前に跪いた。
彼女はある種の慈悲の目を向ける。
「数々の非礼をお許しください、天使様。すべての責任は私にあります。この件が終わった後、どうぞ私のみを罰して下さい」
彼は人間として最高の人物である。
それが、信頼を勝ち取った理由の一つでもある。
「顔を上げなさいな騎士さん」
ミカはいつもの声色で、彼に命じる。
「私は利用され続けた貴方がたに同情し、赦します」
そう、ミカは赦した。
ブッチャーは頭を下げ、その部下も遠くで一礼する。
だが。
「でも……『彼は』赦さないでしょうね」
突如、室内に響き渡る爆音。
何かと思い全員が見てみると、それは裏口のドアが勢いよく吹っ飛ばされた音だった。
それぞれが警戒態勢を取ろうとする誘拐犯達だったが、次の瞬間には轟音と共に目の前がまばゆい光でまっ白になっていた。
ドアの吹き飛んだ裏口からフラッシュバン(閃光音響手榴弾)が投げ込まれ、破裂したからである。