ガサリ。
扉の外で何やら物音がした。
この時間、城のなかで働いているものは少なく、王女の部屋近くで活動しているとなるとメイドぐらいだ。
しかし彼女達も基本は昼間に働くため、今の物音は不自然であった。
「誰だ?誰か居るのか?」
その言葉に返答は無い。
マリアは護身用のナイフを枕元から手に取ると、起き上がって様子を確かめに行く。
そっと、扉を開ける。
何気ない行為だが、静まり返った真っ暗な城内ではそれ自体がホラー映画のワンシーンにも匹敵するものであろう。
そして思い切って辺りを確認するが、特に誰もいない。
ホッとして部屋へ戻ろうと扉に手を掛ける。
が、
「むぐっ!?」
不意に誰かに後ろから拘束され、口を塞がれた。
抵抗しようとナイフを鞘から出そうとするが、今度は突然現れた別の人間に腕を掴まれどうする事も出来ない。
「お静かに、王女様」
襲撃者が口を開く。
どうやら男のようだった。
「おとなしくしていれば何もしません」
今度は腕を掴む男がそう言って、ナイフを取り上げ懐から注射器を取り出す。
本能的にあれはマズイと感じたマリアは必死にもがいて注射器から逃れようとする。
その様子を見て後ろの男が拘束する腕の力を強め、
「おとなしくしろ、殺すぞ」
と最初の丁寧な物言いとは違った脅し文句を言って見せた。
「おいこいつ殴ってもいいか?」
「よせ、大事な人質だぞ」
「構うかよ、このガキ、舐めやがって……」
ふと、男の会話が途切れた。
そして次の瞬間には後ろの男の力が弱まり、拘束が解かれる。
ばたりと、男は倒れたのだ。
一瞬マリアは注射器の男と唖然としたが、このチャンスを逃さなかった。
「ふっ!!!」
シャキン、と、マリアの左腕の裾からナイフが飛び出る。
それを注射器の男の首に殴るようにして突き刺して抜くと、男は血を噴き出しながら悶え、そのまま倒れた。