「というか、これバーチャルみたいなものですから誰にも私たちは確認できませんよ?」
あぁ、そういえば最初にそんなこと言ってたな、すっかり忘れてたよ。
そんな事を思いつつ、すっかり忘れていた事が少し恥ずかしかった俺は何も言わずに立ち上がる。
それにしても目の前の光景は凄まじい。
「まぁ異世界の戦争が原始的だってのはわかったけどよ、これを見せられた所で凄い凄いとしか言えないのが現実なんだよね」
そりゃそうだ、いきなり現実離れした映像を見せられても頭が追いつかない。
「うーん、じゃあですね、こんなのが一日に何回もあちこちで起きてるって言えば、少しは事の重大さを理解できますか?」
加えて、とミカは続ける。
「この戦いが終わった後、敗残兵やその近隣の村がどうなるか、非凡な貴方なら分かりますよね、ね?」
いつになく挑発するような口調で俺を諭す。
俺の表情が曇ってしまったのは言うまでもないだろう。
「……どこも同じだな、戦争ってのは」
「あたりまえじゃないですか。同じ人間が起してるんですから」
皮肉るようにくすくすと笑うミカは、何処となく儚げだった気がする。
俺は戦場に背を向けると曇り空を仰いだ。
まだ決断は着かない。
戦争という恐ろしい光景が頭の中でちらほらと現れて、心をかき乱す。
「まだ決心はつかないみたいですね?」
いつの間にか真横で俺の顔を覗きこもうとする。
その顔は見なくても分かる、この小悪魔め、笑うな。
俺は何も答えずに、まだ灰色な空を仰いでいた。
「宙ぶらりんな心ですね?誰かを助けたいと思うのに、それと同じくらい言い知れない恐怖が貴方の心でせめぎ合う、優柔不断なロリコン犯罪者」
「ロリコンは関係ないだろ」
でも、と。
ミカは何かを付け足す。
「そんな貴方、嫌いじゃないですよ?」
不意に投げ掛けられたその言葉に、驚いた俺はミカの顔を覗く。
それが罠とも知らずに。
「あはっ、やっと目を合わせてくれましたね」
「なにを……」
刹那、ミカの目から何か飛び出して俺の頭に飛び込んだような感じがした。
まるで携帯の赤外線通信みたいな、そんな感じだ。
そして、そこからやって来たのはアドレスや画像なんて生易しい物ではなく……
蹂躙されて見る影もない村だった。