肉屋で飾られた牛肉の仲間入りをせずにすんだ俺はひとまず距離を置こうとたくましいおじさまから離れようとする。
しかしウルフィアスはそんな基本的な動きですら見逃してはくれないらしい。
彼は一瞬なにかを唱えると、どっかの金髪オールバックサングラス超人みたいに「真横へ」瞬間移動してくる。
「何処へ行こうというのだ?」
「クソッ……」
俺が銃を向けた時にはもはや遅かった。
どっかでレスリングしている兄貴が掘れちゃいそうなウルフィアスのたくましい肉体から放たれた蹴りが、俺の腹を真正面から蹴り上げていたのだ。
「がッ……!!?」
肺の酸素が実験しているみたいに放出されていき、慣性の法則なんて無かったみたいに前方から後方へと吹っ飛ばされる。
人間じゃねぇ、とか叫びたかったがよくよく考えてみたら奇跡も魔法もあるんだよ。
おっさんの蹴りが契約好きの白い淫獣がもたらした魔法で強化されていてもおかしくは無かった。
俺に出来た事と言えばどこかへすっ飛んでいってしまいそうな意識をなんとか頭にキープさせて水を得た魚みたいに息をたんまりと吸う事だった。
立つ事はまだ出来ない、そんな事よりも呼吸を優先させた。