「その程度か?」
余裕たっぷりに剣先を指で触り、キレ味を確かめながらそう俺へと吐く。
皮肉たっぷりの反論の一つでもハゲジジィに言ってやりたかったが、今はまだ無理だった。
俺はただ跪いて息を吸う……のと同時に咳と血を吐く。
こいつは骨どころか内蔵が損傷してるかもしれなかった。
こんなコンディションで戦えなんて狂ってるとしか言いようがないだろう。
その間、ウルフィアスはまるで俺を待っているかのように剣をいじる。
その姿はいかにも退屈そうだった。
まるで期待外れとでも言わんばかりに、先程の紳士的な瞳とは真逆のモノをこちらに向けていた。
そして数秒たった時、沈黙を破ってウルフィアスが切っ先を俺に向けた。
「もう少し楽しめると思ったが……興ざめもいい所だ。愉しめぬなら貴公もあの天使とかいう娘も用済みであるな」
「……あ?」
一瞬、俺の耳にとっても不愉快で最悪なワードが入った。
天使の娘。
いや、そんなはずがない。
彼女が逃げる時間ぐらいは稼げたはずだ。
いくら幼い姿でも天使だし、銃なんかに頼らないでも大丈夫だと言っていた。
そんな彼女が負けるはずがない。
負けるはずがない。
いや。
あんな身体強化のような魔法もある世界だ。
多数を相手にしたならミカが追い詰められても不思議は無い。
ましてやあの時に俺と戦った後だ、更に警戒して追撃を強化してもおかしくは無かった。
「ふざけんな……冗談いってんじゃねぇぞクソハゲ」
それでも最後まで、最悪のパターンを頭の中で否定する。
だが。
「冗談……これを見ても同じ事が言えるかな?」
不意にウルフィアスがフィールド外の城内二階部分を指差す。
その場所はバルコニーのようになっていて、よく王様とかが庭を見渡すのに使うものだ。
そこに、いた。
「い、郁葉っ!!!」
手を縛られ、両脇にいる騎士に捕まった小さな小さな――
「ミカッァァァアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
俺の中の何かよからぬものが、ハンマーを下ろされた弾丸の如くはじけ飛んだ。