小説『料理人・小山内幸甚』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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 小山内幸甚(おさないこうじん)は高校時代から料理に興味を持っていた。
大学に入った頃の小山内は、当然の如く料理研究会に入った。
 そんな物に興味を持つのは男性で小山内だけだった。
 その研究会は25人で、ただ一人、小山内だけが男だ。
 だから女性には小山内に必ずと言って良いほど、なぜ料理に興味があるのかと聞かれたものだ。
それには決ってこう答えた。料理を極めてみたいと。
 その言葉通り小山内は誰もがあっと驚く料理を作り上げて、女性陣達には天才と言われた。
その料理の分野は広く、和食洋食中華に拘らずその才能を開花させて行った。

 大学を卒業すると当然、料理の世界に入るかと思ったら旅行会社に就職した。
日本でも有名な旅行会社トラベルジャパンに入社すると、ツアーコンダクターとして働いた。
 国内は勿論、海外にも行く。
 小山内は職業柄お客さんに満足して貰える為にレストランやホテルに厳しい注文を出し。
 その拘りは普通じゃなかった。

 納得行くまで、その味と見栄えに注文を出した。だがコック長にもプライドがある。
 そんな物を作れる訳がないと、ホテルのコック長に顰蹙を買った事も一度や二度ではない。
 それならばと小山内は自分で料理を作って、コック長を唖然とさせた。
 「こっ、こんな料理を作るなんて……あんたは何者?」
 ホテルのコックも舌を巻くほどの素晴らしい料理だった。
 小山内は料理に対して相手が誰であろうと、妥協を許さない。

 その料理の評判がお客さん達を満足させ、会社の企画でグルメ旅行が主な担当になった。
 それを5年間続けて来て、国内海外の料理を一応は食べて来た。
 勿論会社の信用はうなぎ登りだ。それなのにあっさりと退職してしまった。
 会社はなんとか引き止めようとしたが、料理を見極めたいと退職。
 ただしアドバイザーとしては協力しても良いと、非常勤社員として社に籍を置いてある。

 それから半年後、小山内は小さな店を開いた。
 場所は埼玉県の新都心駅から歩いて5分くらいの所にある。さいたまスーパーアリーナの近くだ。
 全部カウンター席で8人くらいしか座れない。本当に小さな店だった。
 店の名前は(極味)文字ってキワミと読む。
 変わった名前だが学生時代からの料理を極めたいから来ている。
 だが看板はあるが中に入るとメニューが無い。

 客は[え??メニューが無いの?  」と驚く。そこで小山内は客に言う。
 「私の頭の中にメニューがあります。お客さんの顔色を見るとね、分かるんですよ。どんな物が合うか
体調に合わせてね。例えば同じ味でも疲れている時は甘い物が美味く感じるものなですよ。必ず満足させ
ますか」

 と、驚くような言葉を発した。客はサラリーマン風で30代半ばの三人組だった。
 「面白いことを言うねぇ。で、満足いかなかったらどうするんだい?」
 「その時は御代は頂きませんよ」
 そう言って退けた小山内だった。それならと客はゲームを楽しむように承諾した。
 なんと小山内は、カボチャを取り出した。驚いたのは客の方だ。
 「おいおい、カボチャかよう。もっといい材料は無いのかい」
 客は不満を漏らした。だが小山内は任せた以上、食べてからにしてくれと言った。

 カボチャにも大きく分けて二種類ある。日本カボチャと西洋カボチャだ。
 日本カボチャはねっとりとしていて甘みが少なく、水っぽいのが特徴で、主に煮物に使われる。
 表面に凹凸や溝があるものが普通だ。西洋カボチャは甘みが強くホクホクしているので、栗カボチャと
も呼ばれている。
 栄養素と甘さとカロリーが多いのは西洋カボチャだ。
 日本カボチャはカロリー36に対して、西洋カボチャは76もある。
 糖分にしてもグラムあたり7.9に対して西洋カボチャは17.5もある。

 そして出来上がった。三人とも微妙にメニーが違うが見栄えだけでも美味そうだ。
 小山内は料理とは勿論、美味しくなければならない。しかしそれと同時に重要なのは見栄えだ。
 見た目が美しく美味しそうに見えなければならない。それが小山内流だ。
 「はい、こちらのお客さんはカボチャのミルク煮です。それとこちらさんはイタリアンテイーストセット、
そしてこちらさんも同じメニューです」
 三人はおもむろに口に運んだ。口の中に溶け込むように味が染み渡る。

 美味い!! と三人は同時に顔を見合わせて声を上げた。
 「本当にこれがカボチャなのか? なんとも高級な味なんだ。俺の好みの味だ」
 「ええ、お客さん達の顔には少し疲れとストレスが残っていました。こんな時に合う料理を作ってみまし
た。お客さんが何を食べたいか、それで判るのです。それで西洋カボチャの糖分の多い物を用意致しました。
気にいって頂けましたか?」
 「マスター凄いよ。今度家族を連れて来ても良いかな。家族にも食べさせたいよ」
 「はい、そう言って頂ければ作る喜びも倍になります。またのお越しをお待ち致しております」
 その三人は小山内の料理に感激して帰って行った。

 こうして拘りの料理人小山内幸甚の名は、広く知れ渡っていった。
 この店を出店して三年、その間に弟子を志願する者が後を絶たなかった。
 一人前になった弟子達に店を任せ、次々と店舗を増やしていった。
 しかし、いつまでもメニューの名前がない店とは行かない。
 メニューは作ったが、お任せコースとして客の好みを顔を見て判断する料理がやはり番評判が良かった。
しかし反省する事もある。自分の料理に自信を持ち過ぎて、お客様の意見を最優先しなくてはいけないのに、
自分の料理を押し付けた感がある。
 それらを踏まえて弟子達を指導する事にした。

 それから更に3年、チェーン店として50店舗が開業している。
 店が軌道に乗ったことで安心して任せられる。そして小山内はまた虫が騒ぎ出した。
 小山内は新たな料理を極めたくなった。もっと世界中の料理を知りたい。そして客の喜ぶ顔を見たい。
 席を置いてある旅行会社に戻り、ツアーコンダクターとして世界中を周っている。
 お客様を満足させ自分も楽しむ、それが料理を極める者として最高の喜びであった。



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